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第一章 03 『おつかい②』

 


 龍達と別れてから1時間もかからず帝都に到着した。


 普段住んでいる村は、建物が全て小さいし、周りは自然に囲まれている事がほとんどである。その為、何回来ても未だに帝都にある沢山の高い建物や環境に慣れない。


 とりあえず、すんなりと入国審査を済ませて、帝都の中に入った。


 私は実際400年近く生きているが、人間の年齢に変換するとまだ18歳近くの女性である。


 その理由は、種族的に長命なのもあるが、村には体の年齢が感じる時間の流れが遅くなるという特殊な魔法がかけられている。


 要するに魔法の力で体が歳をとる速度が外の者と比べて遅くなっているのだ。そのため、そこに住めばどんな種族でも寿命を最低でも3倍は伸ばすことが出来る。


 まぁあの村は限界集落だから何も無いし、村の周りには魔物が大量にいるからそれなりに戦闘力がないと生きていけないんだけどね…。


 私の村では、定期的に狩った魔物を帝都に売り捌き、売ったお金を武器や食料・医療道具などの物資に変換して生活をしている。


 こういう仕事は、私の親友のあーるんが得意なのだが、彼女は今忙しくて出来ないらしいので代わりに私がこの仕事を引き受けたのだ。


 今まで何度もあーるんと共に取引現場に行ったし、事前に彼女から今回売り捌く魔物の情報と売った合計額の予想を教えて貰っているので、大丈夫だろう。


 とりあえず私は、お得意様の冒険者ギルドへ向かった。




  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼




「いらっしゃい。あれ?今日はいつもの姉ちゃんじゃないんだな。」


 冒険者ギルドにある魔物買取専門カウンターへ行くと、いつも対応してくれる青年がいた。


 彼の名前はセージ。糸目で細身の体をした如何にも優しそうな薄い緑の髪の青年である。顔は知っているが、いつも対応するのはあーるんなので、彼とまともに会話するのは初めてだ。


「いつもうちのあーるんが迷惑かけてすみません。今回彼女の代わりに来ました。私はロジェです。とりあえず魔物の買取をお願いしたいのですが…。」


 割と結構な頻度でここには来ているのだが、私の記憶が間違えてなければいつも買取金額で2人は殴り合いの喧嘩になっている記憶しかない。そのためロジェ達が魔物を売りに来る時だけは、いくら暴れても問題ないように、結界が貼られた小さな専用の部屋に案内されているのだ。本当にいつもうちの狂犬がごめんなさい…


「全然気にしなくていいぜ。もう何百回とやり合ってるから慣れてるし、毎回こっちが得するように、本来よりも少しだけ低い金額を出してるのにも関わらず、受け入れないあいつが悪いんだからさ!」


 それに関してはお兄さんも反省するところでは…?というか私達からお金をすり抜こうとするのをいい加減諦めてよ!


 うちのあーるんは恐らく「損」という言葉が1番嫌いである。


 毎回交渉だったりを任せているが、彼女はずっと損しないように話を進めてくれるし、相手を説得出来なさそうなら手が出てしまうのてよく問題を起こしてしまう。


 まぁ村にとっては色々助かってるし、別に相手が損するような内容は出さないから良いんだけどね。彼女がいつも提示するのは「原価」に近い値段だし問題は無いと思う…。


「それで、今回嬢ちゃんが持ってきたのは一体どんな魔物なんだい?」


 私は、魔物の素材が入った時空鞄(マジックバック)をセージさんに渡した。


 今回持ってきた主な素材は、「黒蛇の黒皮」「オークキングの角」「小型ワイバーンの羽」「雷竜の鱗と爪」「プラチナドラゴンの牙と鱗」だ。これらの素材が大量に専用の時空鞄に入っている。


 今回だけに限らないが、私達の村で取れる素材は基本に討伐難易度が高く、中々手に入らないので高級品になるらしい。


 例えば、雷竜の鱗は皮膚が硬いため騎士団や冒険者の防具として使われたり、雷竜の爪は雷撃ポーションの素材になったりする。黒蛇の皮であれば頑丈で、デザインも人気が高いことから鞄などに変換されるのだ。


 こんなので良ければ私の村の近くに沢山生息しているので簡単に取ってこれるし、そもそもなんで私の村の近くにはこんなのが沢山いるんだろう…?


 そんな事を考えていると彼は言った。


「今回も凄い物持ってきたね。しかも軽く見た感じどれも傷がないし君達の村は狩りの腕も超一流だ…君達の所は本当に凄いところだね。」


「私の故郷は魔境なので…」


 狩りに関する一流の基準は知らないが、強くなきゃ魔物にやられてしまうので当たり前である。皆何かしらの攻撃方法を持って育ってきたのだ。戦えなければその場で死んでしまう。


「毎回こんなにも沢山貴重な素材をうちに落としてくれるんだから沢山魔物がいるんだろうし、僕も死ぬまでに君達の住んでいる集落を1度見てみたいもんだなぁ。現地でモンスターを解体出来たらきっと楽しいんだろうなぁ…」


 死にたいのか!?お兄さんは自殺志望者なのか!?あんな場所、人間が行くような者が行く場所では無いのだ!絶対に来ないで!!!


 私達の村がある【白銀の樹林】は魔境である。帝都の優秀な冒険者を集めても恐らく辿り着けないだろう。今までいくつかの冒険者がギルドからの警告を無視し、村を目指してやってきたが、基本的に全員全滅している。


 その理由としては、道中に出てくる魔物のレベルがかなり高く、高レベルダンジョンにいるようなボスクラスの魔物か当たり前のようにうろうろしているし、仮に道中を突破出来て村に辿り着いたとしても、私の村の者達が人間という種族を嫌っているため基本そこで殺されてしまうのだ。


 私は別に人間を嫌っていないし、平和な方が好きなのでそういった事は避けて欲しいが、そういう風に教育されてきたこともあり無理らしい。


「あはは。冗談だよ。冗談。あそこには行かないさ!なんたってそこに住む集落の人達が僕らを嫌っているのは知ってるからね。」


「冗談で良かったです。お兄さんまで居なくなったら色々と困ってしまうので…」


 良かった…。唯一まともな知り合いであるセージさんまで居なくなったら、私たちは帝都の事を聞いたり、ギルドに買取をお願いしたり出来なくなる。それだけはとても困る。


「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!嬢ちゃんの事気に入ったよ!とりあえず魔物の査定してくるから少しの間待っててくれるかい?」


 よく分からないが何故か彼に気に入られてしまった。別に深い意味はなかったんだけど?


 とりあえず査定が終わるまで待たなくてはいけないので、私は買取専門コーナーから離れてギルドの書物を読んで時間を潰すことにした。



  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼



 キングスライム


 キングスライムは群れのボスとして君臨し、炎・水・雷の個体が現在偉大なスライム研究所の活躍によって確認されている。各個体がそれぞれ強力であり、体内に貯めた属性攻撃を一気に放出して戦う。


そのスライムが得意な属性を吸収させると、姿形をある程度変形させて襲いかかってくるので、倒し方としては、得意な属性を吸収させずに戦うことが推奨されている。


 スライムを愛し、スライムに愛された日常生活を送りたい方は是非以下の場所へ手紙をどうぞ!世界中のダンジョンで活動する我々と一緒に楽しいスライム道を歩みませんか?


 …なにこの研究所。どこからどう見ても嘘くさいしめちゃくちゃ怪しいんだけど、こんなの参加する人っているの?てかギルドにある魔物に関する本の中にこんな怪しい勧誘広告を混ぜた人、誰?


『あのぉ…すみません。先程からずっと魔物買取窓口で呼んでいるのですが…。』


「!? すみません!すぐ向かいます!!!」


 後ろから女性に声をかけられた。恐らくこれはギルドの関係者だろう。その言葉の意味を察してロジェは本を片付けてから取引部屋に向かって移動を始めた。


 どうやら書物を読み始めてから気付いたら2時間が経過していたらしい。熱中し過ぎて呼び出しのベルに気付かず、直接係員から呼び出しを受けたので大急いで取引部屋へと向かう。


 いつもの取引部屋に到着するといつも対応してくれる青年が紙を片手に持って確認しながら待っていた。


「ずいぶん遅かったね。どこか遠出でもしてたのかい?」


「はぁ…すみませんでした…。ギルドにある書物に夢中になっていたら呼び出しに気付かなくて…待たせてしまってごめんなさい。」


 私は昔からそうなのである。普段は近くにグレイなりが居るので時間に関しては問題ないのだが、1人になると何かに熱中した時は周りが見えなくなってしまう事が多々ある。私の悪い癖だ。


 普通なら怒られてもおかしくないのだが、青年は言った。


「全然いいさ!今の時期は査定する物が多く持ち込まれていて嬢ちゃんのもかなり後になっていたから全然問題ないよ。ちょうど終わったところだし良いタイミングで来てくれて助かったよ!」


 …本当だろうか?私の記憶が間違えてなければ、呼びに来てくれた係員の人の顔は真っ青で冷や汗までかいてたんだけど…?


 でも彼が言うならそういうことにしておこう。


「なら良かったです。それでなのですが、今回の買取の方はどれくらいになりそうですか?」


「…。君はあの姉ちゃんよりもしっかりしてるね。これは苦戦しそうだな…」


「…言っておきますけど、私から買取額を誤魔化して、差額をすり抜こうとするのは無駄なのでやめた方が良いですよ。今回、あーるんから大体の査定額とお兄さんのやりそうな手口、嘘言ってる時の癖を教えて貰っているので意味がありません。時間の無駄です。」


 前者は本当だが、後者は嘘である。まぁ、これを事前に言っておく事で無駄な心理戦をしなくて済むだろう。して損は無い。

 すると彼は迷いなく言った。


「それは困ったな… なら仕方がないね。僕も嘘をつかずにいこうじゃないか。とりあえず今回の結果なんだけど、全部で4500万タールてどうだい?」


「私がわざわざ事前に情報を教えてあげたのに、なんですり抜こうとするんですか…」


 今回聞いている査定額は4700万タールである。もしかしたら彼はもう救えない領域にまで来ているのかもしれない。


「いやいや。今回こそは誤魔化して安めの金額なんて言ってないさ。いくらこの忙しいオークション前の時期でも仕事はちゃんとしているし何度も見直したから問題は無いと思う。だから心配しなくていいよ!」


 …うん。これは絶対嘘だ。


 私があーるんよりも明らかに魔物の知識や相場について詳しくないから、良いように言って金額を誤魔化しそうとしているのだろう。毎回懲りずに私達からいくらかすり抜こうとする彼の根気は凄いと思う…。


 彼にジト目を向けながら私は呆れながら言った。


「…。一応なんで4500万タールなのか聞いてもいいですか?」


「もちろんいいさ。たまには僕の言うことも信じてもらいたいものだね。」


 そういうと彼は査定結果を語り始めた。


「じゃあまずは黒蛇の皮だね。今回持ってきた数は5匹分だったはずだ。これは普段ならば15万タールで取引しているんだけど、今は特別ボーナス期間でね!もうすぐ帝都でオークションが行われるからどこの大手商会も優秀な魔物の素材や魔導具を求めて動き回っているんだよ。だから今回はそのサービス期間と言うことで、嬢ちゃんが持ってきた物は人気商品ばかりだから全体的に取引額も少し上がっているんだ。」


 オークションとは。帝都で年に1度行われる大きなイベントである。

 その期間であれば人気な素材であればあるほど買取倍率が普段よりも上がるため、この期間まで物を丁寧に保管を行い、期間に入った瞬間に大量に素材を売り捌く冒険者がいるとも噂まである。


「そういえば、今はそんな時期でしたね。すっかり忘れてました。」


「で、買取の話に戻るけど今の時期の黒蛇は250万タールで取引されてるんだ。今回は5匹分だから1250万タールになるぞ。」


「異議あり!!!ちょっと待ってくださいお兄さん!今の時期の黒蛇は280万タールで取引されてるはずですよ!なんか買取額おかしくありませんか?」


「…ほう。 嬢ちゃんが魔物について知ってるのか少し試してみたが、どうやら本当に分かり手みたいだね。」


 どうやら試されていたようだ。彼は私の言葉が本当か疑っていたらしい。


「でもね嬢ちゃん、これは本当なんだ。今日僕がここに来た時に相場を確認すると、魔物の相場に変更があったんだよ。色々な魔物の値段が変わっていたが、主に黒蛇と雷竜の相場が大きく変わっていたんだよ。」


 …本当だろうか?話の流れ的にも明らかに怪しいけど?


 確かに魔物の相場は割とすぐに変わるし、オークションの時期となれば、相場が急変したというのも分からなくは無い。


「ちなみに、その相場を確認した時っていつだったんですか?」


 少なくとも私は10:00にあーるんと会っているので、その時の相場は聞いている。それ以降に変わったなら諦めるが、それ以前だった場合は嘘を問い詰めれば良いのだ。


「えーっと…確か9:30ぐらいだったかな。昨日までは君が言うように黒蛇は280万タールだったけど、今は250万タールに下がっていたよ。」


 やっぱり嘘ついてるじゃないですか…。

 どうやらこの男は、想像以上に諦めが悪いようだ。


タールは現実世界に換算すると「円」という意味です。

わからない人が居た時の為に一応書いておきます。


進捗報告アカウント

→@Jelly_mochi3

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