第二章 04 「道中」
「はぁ…なんで攻撃が出来ない私が外の警備なんてしなきゃダメなのぉ…。」
「えー!別に良いじゃん!僕が昨日この辺にいる魔物は魔物寄せ使って全部狩っておいたし、そんな警戒するようなやばい奴らは出ないって!」
「そうだけどさぁ…私生まれつき運悪いからこういう時基本やばいの引いちゃうんだよね。だからもう嫌な予感しかしないのよぉ…。」
現在ロジェとあーるんは空を飛んで移動しながら『安全な』道中の警備に当たっていた。
ちなみに空を飛ぶあーるんの羽は周りに見えないように認識阻害を掛けているが、カラクリ無しに飛んでることに違和感を抱く人間が居てもおかしくないので、魔法が1つだけストック出来る保存指と呼ばれる魔道具を使って空を飛んで移動している設定にしてある。(もちろん現在あーるんがつけている市販の指輪にそんな効果はない)
「でもさ、サウジストに向かって通る道ってただの開けた平原でしょぉ?出てきても所詮ただの雑魚スライムだし騎士団の奴らが何とかするからそんな心配しなくていいんじゃない?」
「あーるんも近くにいたから知ってるでしょ?昔宴会魔法使っただけで私の足元から地下深くに封印されていた黒色の巨大な地底人が突然現れて大騒ぎになった事もあったし、あーるんやグレイと村の中でかくれんぼしてただけなのに、興奮状態になった土龍が私の隠れていた場所目掛けてブレスを放ってきたりしたのよ?信じられないかもしれないけど、これは全部本当なんだから!この世は何が起こるか分からないの!」
「きゃはははは!確かにそんなことあったねぇ!けどあれって全部たまたまでしょ?確かに昔からロジェちゃんは絶望的に運が悪いとこあるけど、そんな何度も何度もやばいイベントなんて起きないって。」
「まぁ聞いた話だとこの辺には、小型のスライムとかゴブリンくらいしか出ないらしいし、そうだといいんだけどなぁ…油断してたらこの前の龍事件に巻き込まれたから私はもう何も信用出来ないもん…」
そう言いながらロジェは自身の時空鞄から、1つの黒い指輪を取り出した。先日ロジェがあーるんから没収した魔道具である。
「あれ?ロジェちゃんその指輪持ってきてたの?それ貸して!今からそれ使って周りの雑魚を全部蹴散らしてくるから!」
「だーめ。大体この指輪の魔力は全くチャージしてないから魔物寄せの効果は出ないし、ちょっと気になることがあったから持ってきただけなんだから。」
「気になることって?なんかその指輪に変な術式でもあった?」
「術式と言うよりもこの黒いダイヤモンドが気になるのよ。龍の宿場と同じくなんか隠れた仕様があるんじゃないかな〜って。」
ロジェは指輪にある黒いダイヤに注目していた。現在のダイヤは最初あーるんから貰った時よりも明らかに黒くなっているのだ。時間経過でダイヤ黒くなるのならば、これが完全な黒色になった時、何か災害的な物が起きるのかもしれない。
その災害が帝都に離れている時に起きれば今度こそ処刑されてしまうと考えたロジェは、仕方なく指輪をこの場に持ってきたのだ。その指輪が手元にさえあれば最悪ぶっ壊せば解決出来るのだから。
「その、りゅーのやどば?が僕は分かんないけど、何かありそうなの?もしかしてやばい感じ?」
「何かは分からないけど、これを帝都に残していくのはとても嫌な予感がしたのよねぇ…。こんな危ない物なんて持ち込みたくなかったけど仕方なく持ってきたのよ。最悪サウジストの魔道具屋に持って行って売ることも視野に入れているわ。」
「えー!そんなの勿体ないよ!そんなの僕が許さないし、ちゃんと指輪を持ってるのが分かるように、この依頼が終わるまでロジェちゃんの指に付けててね。」
「――念の為聞くけど、この魔道具の起動方法って何?勝手に私の魔力を吸って起動したりしないわよね?」
「きゃははははは!ロジェちゃんおもしろーい!魔道具が勝手に魔力を吸ったりする訳ないじゃん。そんなことあったら大事件だよ?」
いや実はそんな大事件みたいな話が先日あったんです…。
そのせいで龍の後始末はさせられるし、巻き込まれたダンジョンではやばい組織と対峙することになるし…思い出しただけでなんかイライラしてくるわね。ダンジョンの炎上が治まったらあの祭壇とやらに殴り込みに行こうかしら。
「ちなみにそれの起動方法は、ダイヤを右に45度回転させるだけだよ。するとそのダイヤモンドが光り出して脳内に浮かべた物を実体化くれるの!その実体化した物を意識しなくなったら勝手に消えちゃうけど色んなこと出来そうだし結構面白いよ?」
「――言っておくけど、私は絶対使わないからね?けどせっかくだし指に付けておくわね。身につけておけば、このダイヤが勝手に黒くなるのも抑えられるかもしれないし…」
そう言ってロジェは自分の人差し指に黒い指輪を嵌める。その時の悲しそうなロジェの表情を見て、改めて何かを確信したあーるんがニヤニヤしながら突拍子のないことを耳元で囁いてくる。
「やっぱりぃ…グレイちゃんからの指輪以外は指に付けたくないの?」
「―――――ッ!?そ、そんな訳ないでしょ!わわわわわ私が彼に惚れる要素なんてないんだからっ!!!」
「僕に隠さなくても大丈夫だよぉ?鈍感すぎて可愛いロジェちゃんのアピールに全く気付いてくれないグレイちゃんは置いといて、ロジェちゃんは昔っから感情が分かりやすいんだからぁ!」
「違うって言ってるでしょ!!!いい加減にしないと怒るわよ!」
「はいはーい!ロジェちゃんを弄り倒すのも楽しいけど、僕賢いからこれ以上はやめ――」
そんな平和な会話をしていると、突然声がかかった。
『ロジェ殿、あーるん殿!少し手伝ってくれ!前方に特大サイズのサンドホークの群れが現れて、こちらへと向かってきているんだ!この数は我々騎士団だけで抑えるのは厳しいので、少し魔法で援助してもらいたい!』
――――ほーら言ってたら早速魔物が来たよ。てか今回通ってる道は安全じゃなかったっけ?
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呼ばれたので騎士団の人から話を聞くと、どうやら30匹近くの巨大なサンドホークが群れを作ってこちらに向かって突撃してきているらしい。…なんで?
サンドホークは、帝都でペットとして扱われているような最弱の魔物として有名な小さくて可愛いハリネズミである。
この魔物の攻撃力は特に高くないはずだし、防御力もそこら辺の子供がデコピンすれば倒れるくらいの雑魚モンスターのはずなのだが、なぜ騎士団が苦戦する必要があるのだろうか?
話を聞いたあと再び空を飛んで、ロジェ達は許可もなくサンドホークの群れがいる場所に向かっていた。
別に騎士団と協力してもいいのだが、うちの狂犬は連携作戦とかいう器用な事が出来るわけないので、仕方なくこうしたのである。彼女は戦闘で興奮し過ぎるとその勢いで仲間までやりかねないのだ。
「……ったく。あの雑魚で有名なハリネズミ程度の群れすら倒せないなんて、騎士失格だっつーの。あんな雑魚がでかくなった程度の魔物すら苦戦するくせに騎士なんて名乗ってて恥ずかしいと思わねえのかな。」
「まぁまぁ。一応デカい個体らしいから仕方ないわ…。彼らにもきっと事情があるのよ、多分ね。」
ロジェは3m程の巨大サンドホークは実際に見たことは無いが、たまに帝都の近くでも出てくるらしい。大量の数を率いて群れでの行動をすることは基本ないらしいけど…。
「あの勢いよく走ってる砂埃の所にハリネズミがいるのね…。砂埃の濃さ的にもかなり興奮してそうね。」
「んー…まぁいいや。こんだけデカイのがいっぱいいるなら僕も良い感じの準備運動になるし、少しだけ行ってくるね!ロジェちゃんはそこから僕の活躍見てて!」
「うん、分かった。けどあまり無茶するのはダメだからね?私も手伝えることがあったら手伝うから頼ってよ!」
「はーい!」
そう言い残すと、あーるんが群れの中心に向かって飛び出してしまった。
みるみるうちに2匹、3匹とサンドホークが減っていく。多分このまま放置すれば群れもそのうち解散するだろう。
「あの子。本当にどれだけ血に飢えてたのかしら…?なんかすごーく楽しそうだし、もう全部任せてもいいかな…。」
ロジェは念の為『永久変化の雲』を使って様子を見ることにした。朝方に雲で回収させた氷塊を捨てなければならないからだ。魔法のストックが強制的に吐き出されるまでの時間があまり残って無いので、何処かに捨てなければ辺りが大惨事になりかねない。
座ってしばらく様子を見ていると、案の定襲いかかってくるあーるんから逃げ出してきたサンドホークが数匹ほどロジェのいる場所に向かって走ってきた。
ロジェは、朝型にセージから回収した氷の氷塊を迷うことなく空に向かって放出し、氷塊の雨が逃げ出してくる巨大なサンドホークの手前の地面に突き刺って辺りが凍りつき、温度変化に弱いサンドホーク達の身動きが徐々に取れなくなる。
地面が凍ってしまうほどの低温の氷に囲まれたサンドホークは足元が完全に凍りつき、暫くするとその場から完全に動かなくなった。綺麗な氷のハリネズミ型オブジェクトの完成である。
「よし、これなら何とかなりそうね!朝型に雲で攻撃を吸収していた甲斐があったわ!どこでこれを放出するか悩んでたけど、これはいい機会よ!」
そう言ってロジェは次々と逃げ出すサンドホークの周りに雲のストックが無くなるまで次々と氷塊を突き刺して行動不能にし、あーるんが凍りついた生き残りのサンドホークにトドメを刺していく。
ロジェとあーるんの息のあった連携プレーによって暴れていたサンドホークの群れは瞬く間もなく鎮圧されるのだった。
――ちなみに事前情報では30匹の群れと聞いていたが、実際は50匹も群れで襲いかかってきていたらしい。本当になんでこうなるの?
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「これが、彼女達の戦闘スタイルか。」
ロッキーは現在、国を代表する研究機関の要人を数人乗せている馬車の近くで警備しながら、サンドホークの群れを食い止めている2人の英雄の活躍を見ていた。
小型サンドホークはともかく、3m程の大型の個体になれば、耐久力も攻撃力も特別高くなる。
あのサンドホークは魔物の強さで言えば、中級位の強さと区分される事になるだろう。それが大量の数を引き連れた群れとなれば、本来は騎士団が何人か束になって相手をするような厄介な魔物へと変貌する。
そんな厄介な魔物の群れを2人だけで相手をし、すぐさま鎮圧している事実に驚きが隠せない。
間近で彼女達の戦闘を見て、ロッキーは彼女達は、ここ最近発生した2つの難事件も簡単に解決出来る腕を持っていると再度確信した。
彼女達の連携技術や強さを見て、ここまで実力があるのならば仮に影に式場を襲撃されても参加者を守り切れるだろう。そう判断した。
彼女達の高い戦闘能力を素直に驚いているロッキーに、2人の監視役として共に来ていたセージが話しかてくる。
「彼女達、本当に凄いんですよ。総司令官さんもびっくりするでしょう。2人とも見た目はあんなにも弱そうなのに、想像出来ないほど高速で動きながらトドメを刺してくる強い化物と、常に冷静で無駄のない動きで即座に場を制圧する凄腕の魔導師。話によると彼女達の他にもう1人凄いのが居るらしく、その人も中々凄い実力者と聞いてるので、僕も死ぬまでにその人に1度会ってみたいですねぇ。」
「――セージ殿。貴方は一体どこまで彼女達について知っているのですか?今回我々が貴方を監視役に指名した理由は、セージ殿と彼女達との間に深い信頼関係があると聞いたからだ。何か知っているのであれば、少しだけでも教えて貰っても良いですかな?」
ロッキーは2人が帝都に入ってからの行動を全て洗い上げた結果、彼女達は帝都に来る度にこの国で最も大きい冒険者ギルドに顔を出していると言う情報を得た。
そこから情報を集め、目の前にいる糸目の男の元にわざわざ直接出向いて今回は協力を求めたのだ。
全ては迫害種族であるかもしれない彼女達についての情報を得て、2人の処刑される運命から守るために。
少々問題児ではあるが、あの2人は間違いなく有能すぎて危険な以上、他の国に行けば何が起きるか分からないのだから我々で安全に保護せざるを得ない。
「………」
その質問を問いかけると、目の前にいるセージは何も喋らなかった。沈黙の時間が長ければ長い程この男が本当に何か掴んでいるのか分からなくなるし、怪しさが増していく。
しばらくすると、セージは口を開いた。
「―――僕の口から彼女達について答えられることは何もありません。情報に見合うだけの追加の代金を頂いていませんし、何より彼女達は僕の中でトップクラスに大切にしている顧客だ。ここで彼女達を失うのは僕の人生という名の計画においてかなり大きな損失を出してしまう。だから今はまだ教える訳にはいかないのです。僕を頼りにして下さるのはとても嬉しいですが、力に添えず申し訳ありません。総司令官さん。」
「―――――そうか。こちらも突然変な質問して悪かったな。今のは忘れてくれ。」
何か捻りのありそうな返答をするセージの顔をもう一度確認するが、人の顔を見れば大体の心理を見抜けるロッキーですらその顔からは何も読み取ることはできなかった。
――何か深い意味がありそうだ。一体この男は何を企んでいる。
そんな小さな疑問がロッキーの脳内に生まれた。




