第二章 03 『集合場所』
次の日、早朝から集合場所に指定された王城へとロジェ達は向かっていた。正直ロジェは何がなんでも行きたくなかったのだが、あーるんに引っ張られて無理やり外に出されたので仕方なく着いてきたのである。
本当は家で布団に包まれながら引き籠っていたいです…。
現在は日が昇る前な関係上、街を出歩く者はほとんど居なかったので、フードを深く被って認識阻害を付けていれば絡まれる事は基本無かった。
「ふわぁぁ〜。眠いよぉ。」
「吸血鬼なのに相変わらずあーるんは朝が苦手なの本当珍しいわね。さっきまで元気よく起こしに来てた人と同じだと思えないわよ…」
「あー!また言ったぁ!夜のイメージ強いかもしれないけど、僕以外にも吸血鬼だって朝が弱い奴だって居るんだから!」
あーるん曰くそういう吸血鬼は本当にいるらしい。吸血鬼って日光に弱いから夜は活発に動くはずなのに早朝に動けないのは、割と致命的なのでは?
「あーるんは問題ないと思うけど、朝方に弱い吸血鬼って割と致命的じゃないの?吸血鬼は夜にこそ輝く種族だと思うんだけど。」
「うーん…別にそんなことないよ?だってぇ朝弱くても夕日が落ちてから動けば良いだけだしぃ、朝型の吸血鬼はみんな日差しを通さない特殊な日傘と日焼け止めクリームを塗って昼間に活動してるし案外大丈夫!」
「そ、そうなんだ。特殊な日焼け止めクリームがあるなんて知らなかったわ…。」
――――日焼け止め…?
「ロジェちゃんも試しに使ってみる?使い始めは全身が倦怠感に体が支配されて2日くらい寝たきりになっちゃうけど、慣れたらすっごく便利だよ?絶対日光を通さないし全く日に焼けないから!」
あーるんが上目遣いをしながら凄く目をキラキラさせて聞いてくる。
いやそんな顔しても使わないよ?大体2日間も倒れたままになるなんて聞いたら使うわけないでしょうが!
「―――私がそれを使うと思う?」
「うん!僕は必死で頼めば使ってくれると思ってるよ?だってロジェちゃんは最初は文句は言うけど、なんだかんだ最後は頼みを聞いてくれる優しい子だし、ロジェちゃんの顔綺麗だから僕はこのまま真っ白で綺麗な顔でいて欲しいんだもん。」
なんか会話が成立してるようでしてない気がする…。そんな事言ったくらいで試すほど私はそんなちょろくないわよ!
「今は依頼があるから使わないけど、また今度機会があったら使ってみるわ。使いたくなったら声掛けるからそれまでは大切に取っておいて。」
「はーい!在庫はまだまだあるから何時でも言ってね?」
―在庫って沢山あるんだ。でもごめんね?私から声を掛ける時は一生来ないと思う…。
そんな会話をしていると、王城へと向かう途中で知ってる顔が歩いている事に気付いた。軽く見た感じその人は何かを探しているのだろう。
「あれぇ?セージちゃんじゃん!こんなとこで何してんの?まさか仕事サボってる?」
「お!ようやく見つけた。姉ちゃん達をずっと探してたんだ。やっと来てくれたね!」
即座にロジェが認識阻害をLv1に戻して話しかける。認識阻害ローブは物理的に存在感を無くすので、突然姿が見えて驚くかもしれないが、彼なら事情を知ってるので問題ないだろう。
「おはようございますお兄さん。こんな朝から一体何してるんですか?」
本来ならば彼は冒険者ギルドでいつものようにお金をちょろまかしながら魔物の査定をしているはずである。
そんな彼がこんな早朝から出歩いてる事も珍しいが、お金にならない事は絶対しない主義の彼がこんな所で何をしているのだろうか?
「実は僕も今日は王城に用事があってね。君たち2人を探してたんだ。」
「まっさかぁ、セージちゃんみたいな詐欺師みたいな輩が王城なんかに用事があるわけないじゃん。もしかしてついにお金を誤魔化してることがバレて呼び出されたの?」
「そんなわけが無いじゃないか。僕はそんな初歩的なミスをするわけが無いだろ?僕がこれを何年やってると思ってるんだ?」
――そんな事自慢してないで反省してくださいよ…
「僕に殴り合いで勝ちたいならこんなとこで道草食ってないでダンジョン潜って鍛えた方がいいよ?じゃなきゃあ僕には一生勝てないからね!」
あーるんがニヤニヤしながらセージを煽っている。
セージは帝都での唯一の知り合いだが、彼女とは最初からずっとこんな感じだった。互いに煽って成長するタイプのライバル関係にある。…吸血鬼とただの一般人がライバルなのは正直意味不明だけど。
「おいおい…。僕を舐めてもらっちゃ困るぜ姉ちゃん。これでも僕は何回も君の相手をしてるんだから、やってくる戦法くらい全部見抜いてるんだぞ?それに僕だって休日にはダンジョンに泊まり込みで潜って鍛えてるし今日こそは負けないよ!」
「ほう…じゃあひっさしぶりに殺り合う?今日こそは反撃できないくらいに心へし折ってあげてもいいけどぉ、セージちゃんは負ける覚悟出来てるぅ?」
「面白い事言うじゃないか!むしろ君こそ覚悟するべきだぞ。なんせ姉ちゃんと合わなかったこの1ヶ月の間、僕は秘策を生み出したんだから泣いて媚びようが僕は止める気なんてないよ。覚悟するのは姉ちゃんの方だ。」
あー。これはもうダメそう…絶対戦うじゃない。
今は朝型だから人は居ないので騒ぎになってないけど、こんなとこで乱闘なんてしたらロッキーさんの耳に入った瞬間絶対怒られちゃうよこれ。
「へー。じゃあその秘策とやらを見せてもらおうじゃねえか…よッ"!」
あーるんが即座に強く地面を蹴って目でも追いつけない速度でセージに近付いて殴り掛かる。しかし、当たり前のようにセージが攻撃に対応し拳を止めた。
「…なっ"!これを抑えるなんてちょっとはやるじゃん。」
「これまで何百発と喰らってきたからな。そろそろ僕だって攻撃の軌道くらい読めてくる頃合さ!」
セージが受け止めたあーるんの拳を掴み、後ろへと放り投げる。そして彼は即座に迷わずに大量の小さな氷塊を発生させてあーるんの着地地点に放った。
このまま放置するといつか確実に街が終わると判断したロジェは、即座に『永久変化の雲』を使って飛んでくる氷塊を全て食い止める。ついでにあーるんとセージを宙に浮かせて身動きが取れないようにした。
「はぁ…2人ともここは街中よ!いつもみたいに全力で暴れちゃ街がいくつあっても足りなくなるでしょっ!騒ぎを起こすのは禁止!」
「でもロジェちゃぁん!これはいつもの事じゃん!ロジェちゃんもずっと見てるからこれがただのじゃれあいって分かるでしょ?」
――ただのじゃれあいは道を壊したり、魔法で攻撃したりなんてしません…。たまには見てる側の気持ちも考えて欲しい。私がどれだけ周りの事心配しながら見てるか…
「今はそういうじゃれあい禁止だから!いつもの取引部屋ならともかく、街の中で全力で暴れたらまたロッキーさんに怒られちゃうでしょ。あーるんはお兄さんを見つけたらすぐに喧嘩売らないの!」
「はぁい…わかったよぉ。」
「お兄さんもちゃんと反省してください!元気なことは良いことですけど、あなたもこんなとこで暴れた事がバレたらギルドをクビにされちゃいますよ?いいんですか?」
「大丈夫さ!僕は簡単にクビにされないように敢えて後輩を育ててないからね。ギルドは相当な事をやらかさない限り僕を手放さないはずだ!」
―それはそれでギルド職員としてどうなんですか?
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
ロジェは2人を解放し、集合場所に指定されている王城入口に向かって歩いていた。
「僕は依頼中の君達の監視役を頼まれちゃって王城に向かってたんだ。総司令官の人に監視役を直接頼まれたら断ることも出来なくてね。僕はしばらくの間後輩達に仕事を押し付けてやって来たって訳さ。」
「えぇー!セージちゃんもこの依頼に参加するのぉ?足手まといにならないか心配〜!」
「あーるんは何か言ってますけど、お兄さんがいるなら少なくとも私は安心ですよ。私あまり口が上手くないので交渉など代わりにして貰えると助かります。」
どうやらセージもこの依頼に参加してくれるらしい。全く知らない人間が近くにいるよりは圧倒的にストレスが少ないのでとてもありがたい。
――代わりに依頼主との話を全部やってくれたりしないかな…
「てかなんでセージちゃんが監視なの?僕に負けてるような雑魚が僕達の監視役になるだなんて納得出来ないなぁ…」
「もう!あーるんは余計なこと言わないの!知らない人が来るよりはマシだし、大体、あなたは知らない人相手だとすぐ暴走するでしょ!手遅れになるよりはマシなんだから。」
「全然好き勝手言ってもらっていいさ。君達とは付き合いが長いし、大体の事はカバーしてやれるから大船に乗った気分で依頼を頑張りなよ。」
相変わらず目の前の男は神のように優しかった。本当によく出来た聖人である。…お金に目が無い事と彼に煽り耐性がないことを除けばだけど。
「そういえばお兄さんはどこまで協力してくれるんですか?私達そこら辺の事は全く聞いてないんですけど…」
「僕がやるのは君達の様子を見るだけだから何もする予定は無いさ。お金もその分しか貰ってないし、この依頼もサウジストの観光ついでに受けてるような物だしね!やれるとしても、ミスした時に少し庇ってあげるくらいだと思っておいて欲しいな。」
――うん。知ってた。もしかしたら依頼主の貴族の相手を代わりに全部して貰おうかな〜とか思ってたけどやっぱりしてくれないよね。追加で私がお金出して相手してもらってもいいけど、絶対足元見てくるからしたくないなぁ…
かといってあーるんに初対面の人に交渉なんて任せると暴走する可能性があるから出来ないし、一体どうすれば人とあまり関わらずこの依頼を乗り越えられるかしら…
「大丈夫大丈夫!本当かは知らないけど嬢ちゃんがこの前の龍の襲撃を抑えたってのは聞いてるし、君達2人ならきっとこの依頼は達成出来るさ!そんな英雄様がいるなら僕が出るまでもないよ。」
誰にも聞こえないよう小声でロジェが言う。
「あれだって別にたまたま上手くいっただけなのにッ!あんなのほぼ事故みたいな物よ!」
「あれ?ロジェちゃん今なんか言った?」
「え?ううん。何も言ってないわ!気の所為よ気の所為。」
「まぁいいや。セージちゃん、今回は僕達の監視役だから大目に見てあげるけど、調子に乗って変なことしないでよ?僕のロジェちゃんに手ぇ出したら一瞬でぶっ飛ばすから!」
「いやいや。僕が嬢ちゃんに手を出すわけないじゃないか。一体僕の事をなんだと思ってるんだ。」
「詐欺師…」
「鑑定も戦闘も僕に一生勝てないクソザコ野郎。」
「2人とも評価が酷くないか?割と僕はいいイメージを持ってくれてると思ってたんだけどなぁ…」
良いイメージはありますよ。ちゃんと。でも他が残念すぎるんですよお兄さんは…。
そんなくだらない会話をしていると、ようやく集合場所に到着する。止めてある馬車の近くに見覚えのある黒い服を着た男が立っている。
「ようやく全員揃ったか。セージ殿、彼女達を迎えに行ってくれた事、深く感謝する。」
「いえいえ。僕がやった事なんて大したことじゃないですし、ついでですから気にしないでください。」
「それとロジェ殿、あーるん殿も来てくれたようで良かった。これから3日間しっかり働いてもらうぞ。くれぐれも騒ぎを起こさぬようにな?特にあーるん殿。」
――やだなぁ。今から断ったら私だけこのまま帝都に残してくれたりしないかな。ダメ?
「ちょっと!僕が何処でも構わず何か大きな騒ぎを起こす馬鹿だと思ってんの?僕は今上機嫌だから特に何も言わないけど、勝手に人の事を地雷扱いするのはやめてもらいたいね!」
そういうところです。そういう所が地雷扱いされる原因なんだよあーるん…
「大丈夫です。うちの狂犬には私が既に言い聞かせてありますし、管理は私が行うので問題なく。」
「―――あくまでも今回のメインは結婚式なのだ。あーるん殿の管理はくれぐれも慎重に頼んだぞ。それとロジェ殿、別件でお願いがあるのだがよろしいか?」
「はい?別に簡単な依頼で良ければ大丈夫ですよ?」
何故だろう…なんか凄く嫌な予感がする。私の危機感知センサーが凄く反応してるよ!頼むから変なこと押し付けてくるのはやめてよね!
「ロジェ殿とあーるん殿には移動中の4時間、外で警備を任せたい。今回共に移動する者の中には戦えない非戦闘員も少なからず居るのだ。だが心配することは無い。我々の第零騎士団が周りにいるし、サウジストへ向かう道中は整備されているので彼らが苦戦するような強い魔物は出てこないだろう。あくまでも保険としての警備だ。任せたぞ。」
「――ちなみにその通る道は過去10年間安全が保証されてる『安全な』道なんですか?私、昔から色々と引き寄せちゃうので出来てないなら遠慮したいんですけど。」
「ロジェ殿。昨日も言いましたが、冗談でも不吉なことを言うのはやめてください。言葉には言霊と呼ばれる物が存在するので本当に起こる可能性があります。」
「私は別に冗談は言ってませんし、そもそも私は皆様の事を思って言ってるだけで…」
「――ッ!ここまで何日も無理を言って相手の方に迷惑を掛けておるのだ!その分多めに働いて貰う!そんな危険な魔物は出ないし、その原因となったロジェ殿には拒否権は無い!大人しく付き合え!」
……………………確かに私のせいで拘束時間減ってるんだったわね。そんなこと言われたら断れないじゃない。もう嫌な予感しかしないから今すぐにでも現実逃避したいです…。




