第一章 23 『魔女の私は目立たず過ごしたい!①』
「ねぇあーるん。あなた本当に何やらかしたの?」
「さっきも言ったけど、情報を出してくれないから無理やり引き出した結果こうなっちゃった。でもちゃんとみんな生きてるし、問題ないよね?」
現在ロジェ達は、あの大爆発が起きた双龍の砦から脱出し、内部で起きたことを報告するため、再び王城の中の廊下を歩いていた。
あーるんは既に『表』の人格に戻っているのでいつも通りの穏やかモードだ。この人格ならば何かやらかさない限りは大きな問題は起こさないだろう。どこに沸点かあるのか未だにわかんないけど…。
だが、確実にロジェの知らない所であーるんが大暴れした事だけは分かった。
王城に幾つかあった窓や花瓶はほぼ全て割れて撤去されているし、壁を見ると大量の傷跡や血痕がある。この惨状だけ見れば大物の賞金首が王城に向かって何か行動を起こしたようにしか見えない。
オマケにあーるんと歩いていると、私まで周りにいる人達に物凄く睨まれている。本当に彼女は何をしたのだろうか?
「…人が死んでないなら良いんだけど、村にいる時みたいにやりすぎると帝都出禁になるから次からは気を付けてね?」
彼女は素手で村の周りにいる強い魔物を狩っている化け物である。村にいる強い魔物を狩る感覚で帝都でも暴れられたらどこまで被害が出るか予想出来ない。
「はーい!でもさ帝都で有名な犯罪者のエリー・アーロン?って奴を捕まえたしぃ、そこまで大きなお咎めはないと思うよ?ロジェちゃんの龍退治の実績もあるしねぇ。」
「龍の時もそうだけど、私は余計なことしかしてないから何も凄くないんだけど…。」
「どうやったのかは知らないけどロジェちゃんもちゃんと強いんだし、そんな謙遜しなくて良いんだよ?もっと誇っちゃえ!」
ヒュー達に話を聞くまでロジェは知らなかったのだが、どうやら私に攻撃してきたあの老人は帝都で有名な犯罪者だったらしい。
軽く話は聞いたが、ネオリスって組織も世界的に侵略を行おうとするやばい組織だったので、理不尽に気絶したヘンリックと思わしき男も同罪だろう。…そんなやばい組織だと知らずにスライム研究所とか言って煽ってた私度胸やばいよね。凄く現実逃避したい…。
あーるんがダンジョンから引き摺ってきたエリーやヘンリック、その他何人かの研究員は捕まえて全員帝都の騎士団に預けてきたのでそっちは心配しなくていいだろう。彼らに逆恨みで突然襲われるようなことは無いと思う。
あーるんと話していると、ヒューが話に割り込んできた。
「そうだよロジェさん。龍の時もそうだけど今回も大活躍だったじゃないか!ロジェさんが動いてくれなかったらエリー・アーロンなんて大物をあそこまで追い込めなかったんだし、彼らはどこで情報を知ったのか分からないけど、かなり僕たちの事を対策をしていたんだ。あーるんさんとロジェさんが居なかったら僕らはきっとあそこで全滅だったし、もっと自信持ちなよ!」
「ヒュー。それは誇るところじゃないのです…」
「まったくだ。お前が素直なのは珍しいが、弱い事を誇る冒険者なんて見たことないぞ。この経験を糧に俺達もロジェさん達みたいに強くならないと行けないんだから前向かなきゃダメだろ…」
リンとガッツがヒューの態度に呆れながら頭を抱えていた。本当に彼らは色々と苦労してそうで可哀想だなぁ…
ちなみに私は別に謙遜している訳でも自信が無い訳でもない。本当に何もしていないのだ。
やった事と言えば、龍の宿場の封印くらいだが、あれだって封印の際に魔力を込め過ぎて転移対象がおかしくなっていたし、暴走するゴーレムの起動だって事故とはいえ私がやっている。
老人を追い詰めたって言うけどあれだって勘違いで適当なことを言い続けた結果、理性を失ってただけで運が良かっただけなのだ。私は今回の騒動の大戦犯なのだから反省しなくてはならない。
「そうだね!確かに彗星の神子?はみんなはそれなりに強いけど、まだまだ僕とロジェちゃんには敵わないし、君達はまだまだ伸び代があるよ!僕が保証してあげるね♡」
まずい。あーるんがナチュラルに喧嘩を売っている。あーるんは強い者が大好きだ。それはどちらの人格にも共通した部分で、強いと聞いた相手には喧嘩を売って戦おうとする戦闘狂タイプの人間なのである。
幸いヒュー達は懐も深いし、あーるんの『裏』の人格を見ているのでそんなすぐには衝突しないと思うが、これ以上厄介なことになる前に止めなくては。
「とにかく!あなた達彗星の神子は私が最初に出した条件、ちゃんと守ってくださいね?」
これは私がこのダンジョンの調査依頼に付き合う条件として最初に出した物だ。条件と言っても『私がこの依頼に参加した事を表向きに公表しない』という大したものではないし、ヒュー以外は多分まともなので彼らならきっと守ってくれるだろう。
「もちろん覚えてるぜ!うちの馬鹿と違ってしっかり交渉してやるから大船に乗ったつもりで見といてくれ!」
ランスが頼もしい声で言ってくれる。彼ならちゃんとやってくれるだろう。
「ちぇー。ロジェちゃんが良いって言うなら途中参戦した僕は何も言わないけどなんか損した気分で嫌だなぁ…。あ、そうだ!私が王城を襲撃した件もついでに揉み消せたりできない?厄介なゴミ共も取ってきたし、もしかしたら行けるかも!」
いや幾らなんでも無理だと思うよ?王城は帝都で1番襲っちゃいけない所なんだから…。
「そ、それは上手くいくか分かんねえが…一応交渉してやるよ。」
「わっ!ありがとー!」
あーるんがとびきりの笑顔で言っている。この顔はロジェには分かる。彼女は確実にやったことを全く反省していない。後でちゃんと言っておかなきゃ…。
「お客様。こちらが会議室になります。前回と違い、今回はロッキー殿しか中におりませんので、安心してお入りください。」
前回と同じく、執事さんが案内してくれた。ロジェはとりあえずドアに手を取り、中へと入っていった。あーるんがやらかした事は謝るつもりだが、私の実績もあるので土下座する程までは怒られないだろう。
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「うちの子が勝手なことしてすみませんでしたああああああ!!!!」
「!? ロジェさん、いきなりどうしたのてす!?」
「急にどうした!?おい!顔を上げんか!貴様は今回の調査依頼において最も活動した人物だろうが!」
ロジェは案内された会議室に入室した途端、床に穴が空くくらいの速度で姿勢を低くし、全力で土下座をした。突然の出来事にヒュー達もロッキーさんも、入口でドアを閉めようとしていた執事さんまでもが皆驚いてその場で固まっている。
理由は簡単である。前あった時よりも傷や怪我が明らかに増えていたロッキーさんが、あーるんを見た瞬間に物凄く嫌そうな顔をしていたからだ。
本当に被害者なのかは分からないが、ほぼ確実に彼はあーるんの手によって酷い目にあったのだろう。だとすれば謝らなくてはならない。
これまで私達3人は数々のトラブルを起こしてきた。
ロジェは魔法によるトラブルで、あーるんは暴走による破壊で、グレイは作った成果物による被害で冗談ならないレベルの散々なトラブルを毎日のように起こしてきたのである。
その度に私やあーるんよりも圧倒的に問題を起こさないグレイと共にずっと頭を下げ続けてきたのだ。
やる度に土下座への抵抗はなくなっているが、自分から好んで頭を下げるほどロジェ達はプライドを捨てている訳では無い。やるのは確実にこちらが悪い事をした時だけだ。土下座で許して貰えるならばいくらでもやる。それがロジェの考え方であった。
今回は、ほぼ確実にあーるんか悪いので、保護者枠っぽくなってるグレイに変わって私が土下座をするだけなのである。フィールプレッションを使っていないので芸術的な最高の土下座は出来ないが、心の底から謝罪の気持ちを込めて誠心誠意土下座をした。
「彼女の行動には悪気は無いんです!確かにやっていることは悪いのですが、全ては私を助ける為にやったことなんです!だから!彼女の事は責めないであげてください!!!」
「私は別にロジェ殿を責めるつもりなど――」
間髪入れずに、ロジェがしゃべり続ける。
「いいえ!こうなることを予想出来なかった私が悪いんです!!!彼女の責任は私が取れる範囲でなら取りますので、どうか!どうかこの通り許していただけないでしょうか!」
3人の中でも最も多く土下座してきたロジェには、土下座した時の為の行動パターンが大量にある。今回どのパターンで行けば許して貰えるのか吟味した結果、勢いで押し切るべきだと判断したのだ。
依頼を受け取る時の会議で彼が見せた、低姿勢な立ち回りからゴリ押しに弱いと判断した。これまでずっと土下座で問題を乗り越えてきた事で培ってきた勘がそれで良いと言っているのだ。ここまで来たらそれを信じるしかない。
「…顔を上げよ。何故私に頭を下げているのかは分からないが、人はそう簡単に頭など下げるものではない。そんな事を繰り返せばロジェ殿のこれからに関わります。とりあえず話をしようではないか。席に座ってくれ。」
あれ?もしかしてあーるんのやらかした事はお咎めなしにしてくれるの?もしかして土下座のし損だった…?そういう事なら先に言ってくれたらいいのに。もうっ!
ロジェは先程の土下座なんて無かったかのように堂々とした態度で席に着く。入口で固まっていたヒュー達も遅れて席に着き、双龍の砦での事件についての報告会が幕を開けた。
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「双龍の砦での出来事、本当に感謝する。ダンジョン内部の龍の異変の解決に加えて秘密結社ネオリスの幹部の施設を潰すなど我々騎士団だけならばなし得なかった事だ。本当にご苦労だった。」
ロジェは、双龍の砦の内容で話したことは主に3つだ。
①双竜の砦に封印されていた龍の宿場が悪用された事によって帝都が襲撃されたこと
②内部でダンジョンの生態系が1人の人間によって掌握されていたこと
③魔物が内部で改造されて異常な強化されていたこと
ちなみに私が変なゴーレムを誤って起動させた事や大爆発を起こして第5層を燃やして逃げたことは喋っていない。そのせいで今ダンジョン内部は火の海になり、中に入った瞬間大爆発に巻き込まれる事も含めて黙っている。だって喋ったら何されるかわかんないし、その辺に関してはヒュー達の方が詳しいし…
「礼を言うなら、私ではなく彗星の神子に言うべきだと思いますよ。私は運悪く敵と出会しただけで大したこと出来ていませんし、ずっと彼らに助けられてばかりだったので。」
隣座っているあーるんを見ると、頬を膨らませて不機嫌そうな顔でロジェの事を見ていた。恐らくロジェが功績を譲ってることに納得していないのだろう。
事前に彼女には、会議中は限界が来るまで大人しくしといて。とお願いしているのでまだ噛み付いてこないが、いつ凶暴化してもおかしくない雰囲気がある。そうならないように彼女の頭を優しく撫でながら話を続ける。
「龍の件もそうですが、私は大したことが出来ていませんし、名誉など必要ありません。なので今回の依頼も私が参加した事を伏せて頂きたいのですが、大丈夫ですか?」
「…ちなみにそこまでして存在を隠したがる理由などはお聞きしても大丈夫ですか?」
「私達はとある目的があって旅を続けているただの旅人です。名が売れてしまうと活動に支障が出てしまうのでやめて頂きたいのです。」
「…なるほど分かった。その条件は呑もう。事前にヒュー達からそういう連絡があったので元々公にするつもりは無かったのだが、ロジェ殿が目立とうとしないとはあまりにも変わった人なので少し気になったものでな。変な質問をしてしまい申し訳ない。」
「…いえ。大丈夫です。」
不審すぎて逆に怪しまれてしまっただろうか?次帝都に来る時は認識阻害ローブの見直しとキャラ設定をちゃんと考えなきゃダメねこれは…。
「それと別件で聞きたいのだが、ロジェ殿とあーるん殿。二人が捕らえたネオリスの人間なのだが、奴らは酷く貴方達に怯えている。奴らに対して一体何をしたのですか?特にヘンリックの方は会話すら出来なくなるほど酷く精神が壊れているのだが…少し話してもらえるか?」
………………まずい。相手の精神を壊してしまう程の精神に干渉するポーションや魔法の使用はどんな時であっても法に違反してるんだったわ!
村の中で使うのは特に問題視されてないが、外の世界では違う。(ちなみに問題視されていないだけであって、人に対して使うと外の世界と同じく犯罪なる)
例え相手が犯罪者だとしても、精神を壊すほどの攻撃はしてはいけないのだ。いくら世界征服を企む犯罪者相手にそれを使って捕獲したとしてもその法を違反すれば、1週間程は監獄行きにされるだろう。
そもそも恐怖ポーションに頼るような状況に陥った事がなかったので、その事を完全に忘れてしまっていた。
これがバレないようにする為にはどうすべきだろう…。脳内をフル回転させて出た答えはこうだった。
「そうですね。ヘンリック?に関しては私が相手しましたが、彼に使った幻覚の魔法が少し効きすぎてしまったのかもしれませんね…。あ、大丈夫です!私の魔法に精神を壊す作用なんて無かったので法には違反していません!幻覚と言っても、自分の中で想像した『怖いもの』を再現するくらいの事しか出来ないので、彼が相当変な物を想像していなければ暫くしたら治ると思います。」
嘘は言ってない。恐怖ポーションは幻覚作用があるし、その人の考えた怖いものを再現するのだ。あのポーションの効果がいつまで続くのか分からないが、そのうち解放されるだろう。
この言い方ならば、法に違反していないと言い切れる言い訳では無いだろうか。
と言うか、恐怖ポーションは最後の切り札として使えって言われてたけど、これは少しやり過ぎではないだろうか?グレイはホント何を作ってるんだろう…。
「なるほど。そういう事ならばその件は様子見させてもらおう。暫く様子を見て治らなさそうならばまた話を聞くが、それまでは我々は言及しないと約束する。」
…あれ?もしかして私が使ったポーションが違法薬物って事バレてる?もうやだ…。
いいもん!この会議が終わったら1年近く帝都から離れるもん!!こうなったら絶対に村からも家からも外に出ないもん!!!私の引き籠もりスキルを舐めるんじゃないわ!
「とりあえず話す内容はこれくらいで大丈夫ですか?私にも色々とやるべきことがあるのですが…。」
「あぁ。とりあえず今回はこれで大丈夫だ。残りはヒュー達から聞いておく。旅の者よ。ここまで長い時間を取らせてすまなかった。」
ようやく長かった帝都生活から解放されるらしい。あまりの嬉しさにテーブルの下に隠した手で小さくガッツポーズを作る。
「分かりました。それではこれで――」
そう言って席から立ち、急いで立ち去ろうとしたその時、ロッキーさんに声をかけられ止められた。
「あー。そういえばなんだが、まだ騒動の礼が出来ていなかったな。これは善意でしか無いのだが、報酬とは別に我々はロジェ殿とあーるん殿に対して1つ住居を用意した。良ければ使って貰えないだろうか?」
………………………ん?
なんで家なんて用意したの?私、旅人だって事前に伝えたよね?こんなとこに住むわけないし、そんなの渡しても無駄だよ?そんなの渡すくらいならさっさとこの国から解放してください…。
「そしてここからは完全に我々の我儘なのだが、1ヶ月ほどはその住居を使い、帝都に残って貰えないだろうか?帝都はまだまだ人手が足りないし、ヘンリックの件もある。その事があるので我々はロジェ殿に残って貰った方が助かるのだ。もちろん残るのであればこちらで可能な限り援助はする。先程ロジェ殿は、あーるん殿のやった出来事の責任を取ると発言したのだから、これは限りなく命令に近いお願いになる。頼めるか?」
………………………………はい?
絶対嫌なんですけど?確かに私は責任取るとは言ったが、1ヶ月も帝都に残るなんて冗談じゃないわよ!!!そんなの受けるわけないじゃない!
というかほぼ確実に私がやばい魔法使ったみたいな言い方するのやめてもらえます?
確かにあのポーションは黒だから否定はしないけど!!!!
けど、恐怖ポーション使ったのは事実だしなぁ。あれの効果がいつ切れるかわかんないし、グレイが来るまでは受け入れるしかなさそうね…あー。現実から逃げたい。
「おい。」
すると、突然隣座っていたあーるんが立ち上がり、テーブルに向かって拳を叩きつける。すると叩きつけた場所に大きな罅が入っていた。その光景を見て、リンはトラウマを思い出したのか泣きそうになっている。
「てめぇらさぁ、黙って聞いてりゃ僕のロジェちゃんが、あの生きる価値もないゴミ共に対してぇ、なんか変なことしたって疑ってるってわけぇ?」
「大丈夫。私は大丈夫だから!あーるん?一旦落ち着きましょ?今は暴れる時じゃないわ!」
まずい。今まで黙って我慢していたあーるんについに限界が来てしまったらしい。彼女の口調が穏やかモードが完全に解除され、ロッキーさんに対して殺意を向けている。このままでは彼女は間違いなくロッキーさんを殺してしまうし、もしやってしまったら大問題だ。1ヶ月の幽閉措置だけじゃ済まなくなる。
「ごめんねロジェちゃん。今までは我慢出来てたけどぉ、ついに僕の我慢の限界が来ちゃったんだぁ。ロジェちゃんが違法魔法なんて使うわけないのに、そんなくだらないことで疑われて気分が悪いのぉ…!」
いや、実は知らずに使っちゃったんだよね。信じてくれるのは嬉しいけど、そもそも私もあれが法に引っ掛かること忘れてたし…
「いくら僕の大好きなロジェちゃんの頼みでもぉ、これだけは聞けないかも。…………あのおっさんだけはぜってぇぶっ飛ばす。」
「え?ちょっ!あーるん!?その人に手を出すのは――」
ロジェは急いで暴走を止めようとするが、あーるんは既にロッキーの目の前に移動していた。彼女の移動速度は異常なくらい早く、簡単には止められない。気付いた頃には即座に鋭い爪を立て、手首を手刀のようにして敵の首を狙っていた。これは完全に戦闘に手馴れた者が首を刈り取ろうとする動きである。
「今すぐ死ね。」
もうダメだと諦めかけた時、あーるんの動きが何者かの手によってロッキーの首元直前で食い止められる。
「おっと。僕の攻撃を止めるだなんてちょっとはやるじゃん。まだまだ未熟者の雑魚だと思ってたけど、少し見直したよ。」
「その言葉は嬉しいが、ここは話し合いの場だ。なのに君は一体何してるんだ?僕はここを血を流すような場所には変えたくない。こんなことは今すぐ辞めるんだ!」
即座に風魔法で強化し、ギリギリの所でヒューが手持ちの剣であーるんの手を食い止めたのだ。
「重力付与!」
即座にリンが泣きながら重力魔法を使って暴走したあーるんを抑えようとするが、あーるんの速度には追いつかなかった。彼女の移動速度は暗殺者の如く静かで、風のように早く、動きや動作に何一つヒントを残さない。
「いいねいいね!だけどぉ、そんな攻撃速度じゃ僕は止められないよ?だからぁ、もっと"死ぬ気でかかってこいよ"!!雑魚は雑魚なりにぃさぁッ"!!!」
あー。もう完全にスイッチ入っちゃった。ここまで来ると私でも止められないんだよね…。
こうしてこの後、小さな会議室はドスの効いた声で移動するあーるんと本気になった彗星の神子によって規模が大きくなった結果、王城の一角が完全に崩壊してしまうことになる。
そして私は、あーるんが引き金となってこんな大騒ぎを起こしてしまったので、泣く泣く1ヶ月の帝都幽閉生活と罰ゲームという名の依頼を受け入れることになってしまうのだった。
どうやら、私はまだ帝都から逃げる事は出来ないらしい。
あーーーー。もうやだ…早くこの街から逃げ出して現実逃避したい…。
これは、行く先々で色々な事件に巻き込まれ、望まぬ栄光を手にしてしまう1人の魔女と愉快な仲間達の物語。
果たして彼女は、周りに自分が魔女である事を隠し通すことは出来るのか!そしてロジェ達の帝都での暮らしはどうなってしまうのか!次回へと続く。
これにて、第一章『双竜の砦』編は終了になります。まだ少し一章として描きたい内容が残っているので、少しだけ後日談のような日常回が続きます。そちらの方も良ければそちらもご覧下さい。
ちなみに第二章は、吸血鬼のあーるんがそこそこ活躍しつつ、ロジェが一章以上に魔法を使ったりポンコツを発揮してやりたい放題しています。
第二章の話の内容は、異世界系の小説で書かれてそうであまりなかった○○○の予定です!
※第二章開始予定は、11/29 21:00〜22:00の間を予定しております。
一章裏話を纏めた活動報告は、二章が始まるまでのどこかで出す予定です。良ければこちらも見てください。
進捗報告アカウント
→@Jelly_mochi3




