第一章 18 『衝突』
外まで転移してくれるって聞いてたのにここはどこ…?もしかして魔力込め過ぎて変なことなっちゃってるのかしら?
ロジェは、龍の宿場によってダンジョンの外へと転移するはずだったのだが、何故かやばそうな施設に飛ばされていた。
この場所はとても広い空間で、周りを見ればいくつも通路があり、この場所の端には隙間なく並べられた本棚や大量の書類を抱えた机などが乱立しており、目の前には大きな丸型の青いオブジェクトのような物と何かの起動装置らしきものがあった。
それに加えて目の前には、怖い目をしながら私を警戒している長い白髪の老人が、杖を向けてきている。もうやだ帰りたい…
「き、貴様!なぜこの施設にいる!この施設は関係者以外入れないような仕組みにしてあるし、貴様と戦っていたヘンリックはどうした!」
いやそんなの私が聞きたいんだけど…。私だって来たくてこんな場所に来てるんじゃ無いんです!!!
「それが私にも分からないんです。本来私はこんな場所に来る予定なんて無くて…」
「早く質問に答えろと言っているのだ!!ここに侵入した方法と貴様に差し向けたヘンリックについて答えろ!!!」
この人話聞かないタイプの人間かぁ…それ私が1番苦手とするタイプなんだよね。もっと落ち着いて話をして欲しいなぁ…
それと、さっきからこの人が言ってる『ヘンリック』って何?聞いたことすらもないし誰の事なのか全く分からない。
「話を聞いてください!私は別にあなた達に敵対心を持って来たわけじゃないんです!私はあなた達のことは知りませんし、敵じゃありません!」
「…ここまで数々の敵対行動と、ダンジョン内部で起きている第3層の大炎上や龍の反逆といった大混乱を起こしておいて、我々の敵じゃないだと…?とぼけるのもいい加減にしろ!」
まずい。理由は分からないけど、目の前の老人を怒らせてしまったらしい。てか敵対行動とか大混乱ってなに?さっき攻撃してきたあの男もそうだけど、私はこの人達に会ったのも初めてだし、私がやった事って龍の宿場封印したくらいなんだけど?
確かに封印する時魔力を込め過ぎたから、中で何かか起きてるのかもしれないけど、階層の炎上については本当に何も知らない。勝手に他のことまで私のせいにされても困る。
あとさっきから思ってたけど、この人達の服装がさっき理不尽な理由で気絶した男の人と服装が似てる気がする…。目の前の老人は彼と同じスライムの研究員なのかしら。となればここはもしかしてここはスライム研究所の本拠地?
とりあえずヘンリックってのはよく分からないけど、龍の件は私のせいだし、攻撃される前に謝っておこう…。
仮にヘンリックと呼ばれる人がこのスライム研究所の一員だったら、理不尽な理由で気絶させて放置してきたなんてバレたら何されるか分からない。上手いこと誤魔化そう。
「落ち着いてください。確かにここは魅力的な魔物やスライムは沢山居ますが、ここで出来ることなど限られていますし、いくら優秀な人材が揃っていても研究はそう簡単には成功しないでしょう。なのに、余所者の私がダンジョンに入って内部で勝手なことをして、あなた達スライム研究所に所属する人達の偉大な研究を邪魔してしまった事は謝るので、どうか許して頂けませんか?」
「…ッ!我々ネオリスの存在を知ってなお私の前でそのような発言をするという事は、自分が今何をしているのか分かっておるのか!」
やばい。謝ったのに何故かさっきよりも怒ってしまった。目の前の老人から少しでも油断すれば殺されてしまいそうになる程の殺意を感じる。
てかスライム研究所ってネオリスって名前だったのか。そもそも今名前を初めて知ったのに、私がそんなの分かるわけないでしょ!!!
目の前の老人に殺されないように弁明するため、ロジェが口を開く。
「もちろん分かった上で発言しています。あなた達ネオリス?はここに住むスライムを中心に研究しており、魔物達を気に入っているからこの施設を手放したく無いと言うことですよね。ですが、現在このダンジョンは相当危険な状態で、あなたもこんな施設にいては命が危ないです!もし、手が足りないと言うのであれば私も協力するので、共にここから脱出しましょう!」
何故怒っているかは知らないが、恐らくここで永らく集めた研究資料が多すぎて持ち出せないとかいう事情があるのだろう。
それならば私が目の前の老人を手伝いながらダンジョンを共に脱出すれば良いのだ。私はダンジョンから逃げれるし、老人は研究資料を守れるという互いに利害が一致しているし、問題はないはず。
しかし、目の前の男から帰ってきた言葉は想定外の内容だった。
「こうなったのは全て貴様のせいじゃろうがぼけええぇぇぇぇぇぇ!!!」
そう言って男が魔法を発動させ、即座に火炎放射のような攻撃をしてきた。ロジェもすぐに大きな盾の形をした氷土壁を作るが、相手の魔法が強すぎてすぐに壊れてしまう。
「!? これはまずい!」
即座にロジェがその場にあった丸い机に何層もの氷土壁を貼って盾にし、直撃を回避する。どうやらこの老人は中々の実力者のようだ。
「この研究所の中で炎魔法なんて使わないでください!私は不意打ちを避けられたので何も言いませんが、せっかく長年研究してきた研究資料が燃えてしまうでは無いですか!」
「黙れ!この機に及んでまだ私を煽れるその胆力、実に腹立たしい!彗星の神子と離れて単独行動するなど何を考えているか分からんかったが、全ては1人でネオリスを潰すために起こした行動なのだろう!」
いや別に煽ってないしスライムの研究所なんかを潰すつもりなんてないです…。てかなんで私がヒュー達と離れて行動してたこと知ってるの?最近の研究員ってみんなこんな情報網持ってるのかな。怖い…。
「それに貴様はこの研究資料を求めてここへ来たのだろうが!私の脳内には全ての研究結果が詰まっておるのだ。今更燃えたところで痛くもないわ!」
「いや別に私ちっぽけな研究なんて興味ないので、要らないです…。」
しまった。つい本音を口に出してしまった!
ロジェは昔から滅びた文明や珍しい魔物について調べるのは好きだが、専門家に聞いてまでスライムについて調べようとは思わない。そもそもロジェはスライムの事がそこまで好きじゃないのだ。そんな事もあり、つい本音を口に出してしまった。
ただでさえ怒らせているのに、『研究成果なんて要らない』などと火に油を注いでしまったので、これは何を言っても絶対に許して貰えないだろう。
「き、貴様だけは絶対に許さん…許さんぞおおおぉぉ!!!」
老人の体の周りから小さな雷撃が飛んでいる。魔力暴走の時に出る特徴だ。魔力が高い者が、限界を迎えた感情を感じた時に、本人の1番得意な魔法が小さな特徴として体の周りに現れる現象のことである。(ちなみにロジェは属性魔法が使えないので、何も出ない)
この時に出てくる属性に触れてもダメージはないし、滅多に見れる現象ではない。
というかこの人ただの研究員だよね…?なんでこんな強いの?スライム研究所ってもしかしてみんなこれくらい強い?
そんなことを考えていると、雷撃と火炎放射がロジェに向かって大量に飛んでくる。すぐさまロジェも魔法で反撃する。
「永久変化の雲!」
永久変化の雲とは。名前の通り雲を召喚する魔法である。この雲は 雷・水・氷属性の攻撃魔法を全て吸収出来る優れもので、吸収した攻撃は吐き出せば威力を2倍にして返すことが出来るし、相手の攻撃を相殺する事も出来る攻守優れた優秀な魔法である。
デメリットは、3属性以外の攻撃は吸収出来ないことと、1時間以内に吸収した攻撃を吐き出さないと自動でその場にエネルギーが放出されることである。
魔法により作り出した雲で雷撃を吸収し、飛んでくる炎を雷撃で相殺する。隙のない攻撃を連発出来る程の詠唱速度は確かに凄いが、この速度なら彼は私には勝てない。ロジェの詠唱速度は彼より何倍も早いのだ。
「研究員の方なのに中々強いお方なんですね。だけどあなたじゃ私には勝てません。自ら降参することをオススメします。これ以上の宣告はしないので、早く自分から降参してください。 」
攻撃魔法が使えない以上、私はどんな格上相手にでも降参を促すことしか出来ない。100%その意見を断られるのは分かっているが、戦うならば搦手を使う事になる。
その為には考える時間が必要なのだ。時間稼ぎのためにも提案して損はない。…他人から見れば煽ってるようにしか見えないと思うけど。
「貴様、この機に及んでまだ煽るとは…。だか、そんな意見は乗るはずが無いだろ!降参するのは貴様の方じゃ!」
そう言って目の前の男は、巨大な雷撃と電気を纏った風の斬撃を同時に飛ばしてくる。即座にロジェは雷撃の方向に雲を向けて雷を吸収し、雷を纏った風の斬撃と相殺させる。
詠唱速度はかなり早いが、この速度ならロジェでもギリギリ対応が出来る。
「中々やるようだな。流石あの数の龍の群れを止めきった実力者と言ったところか…。」
「…ッ!あんなのたまたまですっ!」
どんどん攻撃が激しくなる。雷撃に加えて氷塊や炎が飛んでくる。時間が掛かれば掛かるほどこの雲の性能がバレてしまう可能性がある。状況を打開するために周りを見渡すが周りに使えそうな物はあまり無かった。
炎魔法によって燃えた「紙」に、壁に刺さった「氷」の結晶、壁から漏れ出た「電気」。あまり使えそうな物はない。
その3つを見て、ロジェはなにか出来ないか考える。考えろ考えろ…。
「そうだ!あれならきっと…!」
その時ロジェは1つ策を思い付き、行動を移す。
ロジェ相殺しきれなかった壁に刺さっている氷塊を吸収し、飛んでくる雷にぶつけて相殺してから、自分の真後ろにあった階段のある通路に逃げる。
そしてロジェは、通路にある天井に向かって吸収していた雷撃を放ち、一時的な雷属性の結界を作り出した。念の為に、通路の入り口近くに氷土壁をいくつか作って多少の時間稼ぎをする。
その時、結界に向かって火の斬撃が飛んできたのを確認したので、ロジェは急いで自身に魔法を使う。
「エアストールー!」
エアストール とは、自身の体重の9割を犠牲にする代わりに、風を起こせるようになる出来るようになる癖の強い魔法である。簡単に言うと、自身を団扇や扇子のような風を起こせるアイテムに変える事が出来るのだ。
デメリットとしては、風魔法で基本的に全て代用出来るため、使う意味がない事と、風を飛ばす方向を自分で決められないことだ。
「間に合うか分からないけど、やるしか無いよね!」
ロジェは、体重を犠牲にしたのでかなり身軽になっている。円を書きながら目に見えない程の速度でその場を駆け回る。走り回る間、作った5つの氷土壁がどんどん減っていく。ロジェは暫くの間同じ箇所を走り続けて風の流れを作り、大きな台風を作り出した。
それと同時に、避雷針として電撃を集めていた燃える結界が限界を迎えて大爆発を起こし、即座に熱風が部屋と通路を埋めつくした。ロジェは、自分を中心に作った台風の風で熱風を受け流す。
「ふぅ…。なんとかギリギリ間に合った。若干服が燃えたりしたけど、熱風までに間に合ったなら耐えよね!」
雷と炎が高熱になり、限界を迎えると爆発する現象を利用した攻撃方法だった。ある程度の実力者でもあの爆発の威力ならば、不意打ちくらいにはなったはずだ。
…にしても風のせいで戦場が見えない。
この魔法は、生み出した風の強さによって効果時間が大きく変わる。そよ風程度ならば一瞬で解除出来るが、台風クラスの自然現象になれば、風が収まったとしても10分くらいはその場から動けなくなる。
そして、今のロジェは身軽になっているので、台風の目から少しでもズレれば、風に巻き込まれて飛んでいってしまうという致命的な欠陥があるのだった。
いつ終わるか分からない台風の中心で、その場に座りながらロジェは効果が切れる事まで待機することにした。
これいつまで続くのかなぁ…。早くお家に帰りたい。




