第三章 28 『王城③』
お姉様、カエルじゃなければ何に変えても良い訳じゃありません。隙あらば私の事を虐めてそんなに楽しいのですか...?
メロールは、自分がお姉様に何をされたのかなんとなく察していた。変身魔法を掛けられた事に気付けたのは、体に走る感覚がカエルの時と同じだったおかげだ。嬉しいようで全く嬉しくな気付きである。
という事はまた口を動かしたら変な声出すことなるのかな。もうあんな恥ずかしい声は出したくないよぉ...
メロールにはロジェお姉様の使う魔法が全く分からなかった。確かにお姉様の髪は光ってた気がするし、手から凄い量の魔力が出てきていた気がするが、自分の目の前が一瞬光っただけでこうやって何かに変身してしまうのだからとても恐ろしい。
試しに小さな声を出してみるが、今度は『コケコッコー』と威勢のいい自分の声が聞こえてきた。お姉様、周りにいた人はみんな兎になってるんですけど、私だけ嫌がらせで鶏にした訳じゃない...よね?
『すっごーい! 一瞬で僕達以外全員あの時の兎になってるし、流石だねロジェちゃん! てかなんでみんな鶏みたいな馬鹿みたいな声出してんの? どゆこと? 』
『私だって分かんないわよ。そもそも私はこんな魔法を使った覚えないし、使ったのは変身魔法じゃなくて召喚魔法だもん! というかさっきの拳骨のせいで頭痛い...』
『呑気に雑談してる場合か! さっきも言ったが、この魔法は使った張本人が解決しろ!! 魔法を使ったくせに解除は出来ないとは言わせないぞ!!! 』
私は魔法知識に長けてる訳じゃないので何とも言えませんが、変身と召喚の魔法は間違える訳がないと書物で学びましたよ...お姉様は何をどう間違えたらそうなるんですか。
「コ、コケコココ、コケケケッ! ココココーケ! 」
その言葉を聞いてロッキー兎が大声で怒鳴っているかのような鳴き声を出している。メロール兎には何を言ってるか全く分からないが、恐らく相当怒ってるのだろう。声の音量が誰よりも大きいし、力強い。
ロジェお姉様、これはどうすれば解除出来るんですか...? カエルは時間差で元に戻りましたけど、あれだって受けた側は一生戻らない恐怖があるんですから、早く解除してください。私、そろそろ泣いちゃいますよ? お父様は堂々とした態度で玉座に座ってますし、よく見ると何か喜んでるように見えなくもありませんが、私は何も嬉しくなんてありません...
『みんな一瞬で鶏の声をした兎になってておもしれー魔法じゃねえか! 五月蠅過ぎてここは養鶏場かと勘違いする程だ。ここに本物の鶏混ぜたら面白そうだし、実際に連れてきてやろうか? 』
『はぁ...そんな事して変身させた兎達が鶏に襲われたらどうするのよ。そんな事してメルやパステル陛下に何かあったらどう責任取るわけ?貴方は大人しく待機よ待機――ってこら! あーるんは端の方にいる兎にちょっかい出さない! 』
だからお姉様、お父様の名前はパステルじゃなくてパルテルです...わざとなんですか? 《霜刻の凍鳥》の時もそうですけど、わざと人の名前を間違えて挑発か何かしてるのですか? 高ランク冒険者はともかく、国の皇帝相手にそんな事したら殺されますよ...グレイお兄様も大笑いしてないでお姉様の事を叱ってください!!!
『それで、俺達は何をやればいいんだ? 魔物用の檻にでも閉じ込めとけばいいのか? それとも家に置いてる試作品の実験台にでもすんのか? 俺的にはどっちも大歓迎だぞ! 』
グレイお兄様、やっぱり貴方だけは私の敵なんですね...初めて会った時もそうでしたけど、相変わらず何考えてるか分からなくてちょっと怖いです。
『いや、私には出来ないから二人にはやって貰いたい事がある。でもその前にこの魔法の解除方法を教えるからちゃんと見ててね。物理的に戻す場合は戻し方にも意外と面倒な注意点があるの。あと、パステル皇帝陛下には絶対手を出しちゃダメよ。後で面倒な事になるから』
そう言ってロジェがどんどんメロール兎の元へと近付いてくる。兎の視点から見る巨大なお姉様は今までに見た事もないくらい真剣だ。ここまで真剣な顔をしたお姉様は見た事もないし、きっと何か凄い魔法を使って戻してくれるのだろう。なんでお父様に手を出すのはダメで、私は良いのかだけはさっぱり分かりませんが...
『ごめんねメル。一瞬だけ辛い思いさせちゃうかもしれないけど、こうしないとこの魔法は解けないはずだから許して頂戴。大丈夫、絶対死なせたりしないから! 』
え...? お姉様、本当に何をするんです――って、なにっ!? 何その不穏なグーの手は! ちょっと、お姉様!? お姉様ああああああああああ!!!
そうしてロジェの拳がメロール兎に向かって全力で振り下ろされたので、メロール兎は体を潰された事で元の姿に戻り、王城の一角で『コケーーーー! 』という迫真の断末魔が響き渡った。
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「一体なんて事するのですか! 私、心臓が止まるかと思いましたよ、もーーーっ!!!」
「し、仕方ないでしょ。私が珍しく魔法を失敗したのが悪いんだけど、この魔法は動物の場合、一撃で脳を潰さないと絶対に解けないんだから...結局みんな無事に元に戻ったんだし良いじゃん」
「だからと言って予告も無しにグーで潰すなんて酷いですっ! そんな事をするなんて...ぐすん。私に何か恨みでもあるんですか、もうっ! 」
「ナ、ナニモナイヨー...」
グレイが即座に霊火で私の魔力をギリギリまで抜いてくれたので意識が飛ばずに済んでいるが、現在ロジェは兎を殺した分の呪いが発動している。なので自然な流れでグレイに背負われながら半泣きになって訴えてくるメロールの話を聞いていた。
死ななければどんな魔法を使っても良いという許可を皇帝陛下から貰ったとはいえ、慣れない魔法を堂々と使った事は反省しているつもりだ――というかグレイの背中、暖かいし意外と広いから最高だなぁ...正直呪いが終わってもずっとこのまま背負ってて欲しい。
「というか、もう終わった事だし許してよ...これからはこんな魔法は人前で使わないように気を付けるから。あははは...」
「申し訳ありませんでしたッ!!! まさか、この私が傍に着いておきながら、陛下と皇女殿下を、兎に、変えられた挙句、死に目に合わせる様な事を、してしまうとは.......ッ、死んでも償いきれません! 」
怒った子犬のような威嚇をして激怒するメロールの泣き言を聞いていると、ロジェ達の隣でロッキーさんが皇帝陛下に向かって深く頭を付けながら土下座をしていた。さっきから皇帝陛下も許してくれているはずなのにそれでも辞めないあたり、相当気にしているらしい。
自称土下座マイスターの私から見てもかなりレベルの高い土下座ねこれは...魔法無しの私の土下座には流石に及ばないけど、結構レベルの高い物じゃない! やるじゃんロッキーさん!
「だからそんなに気にするなと言っているだろロッキー卿。全員こうして五体満足で元に戻ったし、何より彼女に魔法を使う許可を出したのはこの私だ。お前が気にするような事じゃない」
「分かってます、分かっていますとも。だからこそ、この陛下の側近としてこの非常事態に力になれなかったという事実が重すぎて.....」
「別にいいじゃん。おっさんがそんな謝んなくとも。皇帝もそう言ってるんだしロジェちゃんの魔法のおかけで良い経験になったでしょ?しつこい男は嫌われちゃうよー」
あーるん、あなたは何故余計な事を言っちゃうの? どう見ても挑発だしやめなよ....
「黙れッ! 大体、一度殺さなければ元に戻らない魔法などある訳がないだろ! 皇帝陛下で遊ぶのもいい加減にしろッ! 」
「いや、私はちゃんと魔法を使う許可は貰ったし、何が起きても文句言わないでと先に言ったじゃないですか。確かに不敬罪になったら嫌なのでメルやロッキーさんに皇帝陛下を殺して戻す事を頼んだのは悪いと思ってますよ? でもこれは仕方の無い事で――」
「そもそも、誰が、戻そうが、不敬罪確定だッ! 皇女様に断られたからと言って私に頼もうが変わらんわッ! わざとこんなことして―――この場で殺されたいのかッ! むぅん!? 」
ロッキーさん、確実に頭に血が上ってるな...顔が見た事もないくらい真っ赤だし、声も怖い。どうすればこの怒りは静まるのでしょうか...
「もうよせロッキー卿。魔法を使った張本人がそうせねば戻せないと言うのだから仕方ないではないか。そこに罪を言及するのは間違えておるし、なによりも私は兎になれて楽しかった。それでいいでは無いか。なぁロジェ」
「緊張し過ぎて疲れてきたし、甘いもの食べたいなぁ...え? あ、はい! そうです! 殺さなければ戻りません!!! 」
――しまった。急に質問を振られたせいで考えていた事を口に出してしまった。私やばいかな...幾らメルが味方でもこの部屋から生きて出れるかわかんないよこれ。
「き、きき、貴様あぁぁぁ! いい加減口を慎めこのッ...陛下、やはりこの女はわざとです、わざと私にこのような仕打ちをして我々を弄んでおります!!! 先程の全く人の話を聞いていないと思われるあの間抜けな発言が何よりの証拠でしょう! 大体、何故貴様は背中におぶられて陛下と話をしている! せめて地上に足を付けて話をせんかッ! どこまで我々を舐めてるのだ、いい加減にしろッ! 」
「私は定期的に誰かにこうして背負って貰わないと死ぬ病に掛かってるんです。今地上で立てば私の命が危なくて――」
「そんな馬鹿げた病は聞いた事がないわッ!!! 舐めた態度ばかり取りおって.....幾ら国を救った功労者とはいえ、私のこの手で貴様を殺すぞッ! 」
「おいおいおっさん。そんな事だけは絶対にさせねえから。今の俺ならこいつをおぶった状態でも負けねえぞ? それに、こいつは何かしら狙いがあってそうしてるんだし、とりあえず落ち着けよ」
――いや、狙いなんてありませんけど? 私、さっき魔法は失敗したってちゃんと言ったよね。なんでそんな馬鹿みたいな結論が出るの? ねぇ。
「グレイと名乗る男の言う通りだ。一度冷静になれロッキー卿。常に冷静なお前がそこまで取り乱すとはらしくないぞ。」
「.........................分かりました。ですが最後に1つだけ言わせてください。今回は皇帝陛下からの命令により見逃してやるが、次、もし次も同じような事をすれば貴様の命は無くなると思っておけよ! 皇女殿下に対してもだッ、分かったなッ! 」
「了解です!そういった事はしないと約束しましょう! 次やる時はもっとこの魔法の練度を高めてから行うので安心してください、次こそは失敗しないので! 」
「もう二度と同じ魔法は使うなクソがッ! 」
なんか怒りすぎてロッキーさんのキャラ変わってない? 幾ら怒ってるとはいえ口が悪すぎるよ...
「お姉様、ちゃんと反省してくださいね! お姉様の事なんてもう知らないもん、ふんだっ! 」
そしてメルにも派手に嫌われてしまったらしい。明日以降の甘味巡りはどうしようかなぁ...暫くはグレイを連れ回すしかないのはちょっと寂しいわね。
「.....色々とあったが、生きてる状態で死に目に合うという貴重な体験出来た。私は感謝する」
「あれは失敗作でしたけど、皇帝陛下様が満足していただけたのであれば私は構いません」
「それでロジェよ。貴公は正式にメロールの側近についたと言うのは本当か? 先日そう聞いたのだが、この際真実を確かめておきたい」
「え...まぁ彼女に頼まれたのでそういう形の関係になりましたけど、やっぱり正式な申請もしないしダメでしたか? 」
ロッキーさんの視線が痛い...怒ってるせいで普段の何倍も怖いし、言ってる内容も『当たり前だッ! 』と怒ってる気がしてならない。私だって分かってますよそんなこと...
「今回私が貴公達に会ったのは、本当に信用するに値するか判断する為だ。貴公三人の実力はこの国でもトップクラスレベルにあるのは知っているが、聞く噂があまり宜しくないのでな。側近にして良いかの品定めも兼ねて一度話をしたかったのだ」
やっぱり皇族となれば直接会話を交わして側近を決めるのか。そんな文化知らなかったし、さっき私のした事なんて到底許される事じゃないんだからこの様子じゃ側近にはなれないな。別に後悔はないし、むしろ望むところだ! そんな如何にもな厄介事なんて一秒でも早く無くなった方がいいもん!
「だが実際にこうして見た所、噂以上に掴みどころがなく、骨のある面白い集団だと私は判断した。この人見知りが激しいメロールが演技じゃない本当の性格を貴公達だけに見せたり、惚れたりするのも無理はない。少なくとも信用に値しない悪い奴らではないと判断した事を伝えておこう」
――皇帝陛下、目が腐ってんの? ここまでの一連の行動見たら分かるはずだけど、どこからどう見ても犯罪者だよ? そんな腐った目で国のトップに立ってたらいつか滅びるよこの国。他の人が皇帝やった方が良いんじゃない?
「お褒めに預かり光栄です。パステル皇帝陛下」
「お姉様、その...名前が違います」
「パステル....いやパルカス? いやパープルだったかな――どれでしたっけ? 」
「パルテル皇帝陛下だッ、いい加減陛下の名前を覚えろ! さもなければ貴様の穴という穴に電撃ウナギを流し込むぞッ! 」
――物覚えが悪くてすみませんでした...
「名前の件は構わん。好きなように呼んでくれたまえ」
皇帝陛下、相変わらず器がでっかいなぁ...極力不敬にならないよう気を付けるけど、なんか私の事なら何しても許してくれそうな気がする。機会があればいつか限界ラインを探ってみる事にしよう。
「それで本題だが、貴公達三人に命ずる。大怪我をしない程度にメロールを戦えるようになるまで鍛え上げよ。貴公達の様子見を兼ねて彼女が新米騎士と互角を取る程度まで強くなるまでは側近で居る事と、メロールを外に連れ出す事。そして王城を自由に出入りする事を許可しよう。鍛える際の場所や方法は問わん。期限はこの二週間だ。分かったな? 」
「.......はい? 」
「あと、ロジェは例の料理大会に出ると聞いている。そこでそれなりの結果を示さなければ貴公がメロールの側近である事は絶対に認めん。皇族の推薦枠である以上は最低でもそれなりの活躍はしてもらわねばならんからな。当日メロールが関わる以上は使いの者を会場に配置しているから、その者から当日の話を聞く予定だ。大会の方、期待しておるぞ」
こんな大会直前に無駄なプレッシャーかけないで貰えませんかねっ!!! はぁ...こんな事になるならメルの護衛依頼なんて断っとけば良かった。正直側近じゃなくなるのは全然構わないけど、そうなったらあとでロッキーさんに何言われるか分からない以上はやるしかないじゃない。あー...もうやだ現実逃避したい...
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「ロジェお姉様、幾ら許可を貰ったとはいえ色々とめちゃくちゃし過ぎですよ? 私的には外に出る許可を頂いたので文句はありませんけど...あんな事してたら殺されててもおかしくはありません。いつ首を飛ばされる事になるかヒヤヒヤしてるこっちの身にもなってください」
「そうだねぇ....やばいねぇ」
「いつまでもふざけてないでもっと反省してくださいっ! 」
ロジェ達は皇帝陛下との面談を終えた瞬間、即座に部屋から追い出されたので、メルの案内で王城にある訓練所なる場所に案内されていた。
「てかメルって別に指導する必要ないんじゃ無かったのか? 賊を自分で撃退できるなら皇女として十分だろ。お前の親父って何考えてんだ? 」
「私のは急所を狙って動けなくしてるだけなので正確には倒せてませんし、お父様は普段そんな事を言う方ではありませんし、多分お姉様達を試してるんだと思います。ロジェお姉様程じゃありませんけど、無理難題を押し付けて相手が側近としてのやる気があるかだとか、それを達成出来るのかを試してるんじゃないかって私、思います。『皇族たるもの、己が強くあれ』という教訓もありますし、お姉様達を試す良い機会だと判断したんじゃないでしょうか? 」
私は無理難題を押し付けた覚えはないんだけど...あと幾ら教訓とはいえ、新米騎士と互角張れる程って色々と無茶苦茶だ。皇帝陛下何考えてんのかしら。
「ふーーん。まぁ自分の身を守れる方が良いよねぇ。メルちゃんはある程度やれるようだけどまだまだガキだし、賊とか狙われたら困るもんね。頼りにならない雑魚の騎士共が常に周りにいる訳じゃないし。その考えは分かるかもぉ...」
「確かにそういう事なら納得ね...で、メルって何が得意なの? 魔法を使える程魔力があるようには思えないから私は指導出来ないけど、剣術ならグレイが出来るし、体術ならあーるんが得意よ。どっちで行く? 」
そういえば皇帝がメルは体力が無いとか言ってたけど、どっちを取るにしても最低限体力が必要になるからまずはそこを何とかしなきゃダメだよねぇ...どうすればいいかな。
「うーん...私的には体術の方が得意ですけど、剣術もどっちも同じくらい出来ますよ! どちらも並程度ですけど」
さっすが皇族。どっちも取得してるなんて器用だなぁ。私には真似出来ない芸当だし羨ましい...
「ねーねーロジェちゃん。メルちゃんの育成、僕に任せてくれない? 要は体力を増やせばオッケーなんだし、僕に良い考えがあるのっ! 」
あーるんか。彼女は怒らなければ基本的に余計な事はしないからグレイよりは安心出来るし、ありかもしれないわね。というか前に自分と互角を張れるくらい強い弟子を育ててみたいとか言ってたし、メル自体も足は早いから割と相性は良いのかもしれない...師匠の指導で弟子を自分以上の強さにするってのは正直意味わかんないけど、多分何とかなる気がする。
「.......確かにそうね。メルって意外と足が早いし、相性良さそうだからここはあーるんに任せようかしら。ごめんねグレイ。今回はあなたに任せてあげられなくて」
「別に良いぞ。それに俺は剣術を教えるのは無理だから、多分あいつのが上手くやるしな。俺がやるなら誰かさんが昔押し付けた俺の刀を使わせる事になってただろうしな! 」
「.......結果的にグレイもそれ強くなったんだから良いでしょ? 昔は刀の性能に散々文句言ってたけど、今はこの剣しか使えないって言ってるじゃない」
「そうなったのはお前が発端なんだよ!! 俺がそれを使いこなすのにどれだけ苦労したか...」
グレイが苦労を語ってくるが、面倒なので聞かなかった事にする。とりあえず指導の方はあーるんに任せれば何とかなるだろう。彼女は体術のエキスパートだし死にはしないはずだ。私が指導する振りをして大会から目を背ける手段が取れない事を除けば完璧な布陣と言える。
「正直私が指導してあげたいところだけどごめんね? 今回は代わりにあーるんが指導すると思うけど死なないと思うから、折れずに頑張ってちょうだい」
「は、はい! その与えられた試練、絶対に乗り越えてみせます!」
「そっかそっか...よしよし、偉い偉い」
――試練...?
「そんな事よりもお姉様、その...料理大会の方は大丈夫なんですか? 私の稽古のせいで大会に響くとかなら無理してまでそんな要望は飲んで頂けなくとも...」
ごめん、ロジェお姉様は今日一日であった出来事が濃すぎるせいで大会の事なんて一つも考えてないんだ。てか出場辞退じゃダメ? そんなプレッシャーかけてくるんだったら正直めちゃくちゃ辞退したいし、稽古の振りしてる方が百倍マシなんだけど。
「大丈夫よメル。私は既に案は固まってるし、その大会で私の料理を食べた人がみんな驚いて倒れるくらいのある意味凄い伝説を作ってあげるから心配しなくていいわ。別に期待はしなくていいけど、あなたは稽古を頑張りなさい」
ロジェは馬鹿正直に伝えるか迷ったが、少なくともメルの前では頼れるカッコいいお姉様で居たいので、堂々と嘘をつくことにした。まぁこう言っととけばメロールの不安要素もなくなるし、大丈夫だろう。
何も思い浮かばなかったらメロールには申し訳ないけど、大会を忘れてた事にして当日は知らんぷりしてやればいい。
そうなったら大会が終わった後にスイーツ片手に魔法付きの完璧な土下座、通称パーフェクトヘッドスラッシュをすれば懐の深い皇帝陛下はきっと許してくれるだろう。『ある意味』凄い伝説を作ってあげると保険もかけたので文句は言われないはずだ。




