第三章 26 『王城①』
話を終えたアリナさんとはお別れをし、今度はロッキーさんと会議室で話をする事になった――というか会う度に顔が険しくなってるんだけど、最近怒りすぎじゃない? 何かあったの?
「ロジェ殿、本当にどういうつもりだ...皇女様に一体何を吹き込んだッ!」
「……私は誰にも何も吹き込んでませんよ。というか何の話ですか? 」
「とぼけるな、皇女様は元々人見知りの激しい御方だ。今日は部屋に『私の自慢の遊び人係と遊んできます』という置き手紙を置いて堂々と出ていったが、まさかロジェ殿がその立ち位置になっておったなど私は聞いておらん。我々も全力で皇女様を探してようやく見つけたと思えば、あの騒ぎに加え、戻ってきた瞬間にあのような要望をさせるとは何事だッ! 何が目的だ! 」
置き手紙を置いて堂々と抜け出してるメルも凄いけど、簡単に抜け出せるような警備してる王城が悪いと思うよ。あと要望って本当になんの事? 私はメルに何も頼んでないよ。
「なんで私にそんな文句を言ってくるんですか? そんな抜け出せるような警備してるのが悪いんだから、怒るなら私じゃなくて警備の人に言ってくださいよ」
「......つまりロジェ殿、貴様はこういうのだな? 帝都で起きている予言で王城内部はいつも以上に緊迫しているというのに、警備をサボっている者がおり、わざと皇女殿下を逃がした大馬鹿者が居るので、一から調べ直せと。そう言っているのだな? 」
「まぁ、私の適当な発言を捉えるならそういう事になりますよね。別に私には関係ないのでそこら辺はどうでも良いですけど、悪いのは王城にいる人達です。なので私に八つ当たりしないでください」
「んなわけあるかああああ! 」
ロッキーさんの怒号とほぼ同時に、何故かメロールがその場に立ち上がり、焦りながらこう言った。
「ちょっとお姉様、ここに来て私を裏切るつもりですか!? 一体なんのつもりでそんな事を...」
なんでメロールは顔が青ざめてんの? 私は適当言ってただけなんだけど、もしかして正解引いてた...かな? だったらなんかごめんなさい。
「.........いや、これ適当言ってるだけだし、考えなんてないわよ。そもそも私、メロールが抜け出してきた本当の方法だって既に分かってるし、今は黙っときなさい。助けてあげるから」
流石に悪いしフォローくらいは入れてあげよう。彼女が囚われのお姫様に戻るのは可哀想だし、何より護衛が居なくなったら気軽に甘味巡りが出来なくなるから私も困る。というかロッキーさんは常に怒ってるし、多少ストレスが増えても平気でしょ?
「結局貴様は何がしたいんだ! というか本当の方法を分かってるならそれを私に教えんかッ!! 私を道化の過錬のターゲットにして弄ぶのもいい加減にしろ!!! 」
「.......なんでロッキーさんまで文屋の馬鹿みたいな記事を鵜呑みにしてるんですか。というかそれ、私もめちゃくちゃな事言われて迷惑してるんで何とかしてくれません? このままそのイメージが定着したら印象が最悪なんですけど...」
「ッ.......私だって文屋の記事なんて信じたくはない。だが、ロジェ殿のやっている事は道化の過錬と言い表すのが相応しい以上は消える事がないし、こちらから取り消すつもりは無い」
私、そんなにも周りに悪影響与えるような事したっけ...?
「というか、そもそも何度も呼び出したのにサウジストから中々帰ってこなかったのはロジェ殿だろ! 今更出回った記事は潰せんし、自業自得だッ! 」
こうなるなら向こうで無駄な悪足掻きするんじゃなかったな。なんでやる事なす事全てが裏目に出るんだろ私...
「そ、その落ち着いてください! ロッキー・ハルトマン。確かにお姉様は私をカエルに変えたり、色々と無茶苦茶な事をす人ですが、お姉様は悪い―――人じゃありません! お姉様は常に考えがあってやってる事なのであまり責めないで欲しい...です」
ねぇなんで今意味深な間を空けたの?私からやった事なんてカエルにした事くらいなのに、そんな判断に迷う事してる? してないよね。
「...しかしメロール様。今回彼女がやった事は明らかに許される事ではありません。メロール様の身に何か怪我でもあったらそれこそ一大事です。ここはしっかり彼女達に言い聞かせておかなくては―――」
「そもそもお姉様は何も悪くありません。確かに色々とびっくりする事に巻き込まれましたけど、私は一度も怪我をしてませんし、世間知らずな私としては色々と勉強になったので、むしろあの経験を得てもっとお姉様の事を気に入りました! お姉様達の事を師匠と呼びたいくらいです! 」
「.......ロジェ殿、本当に皇女殿下に何を吹き込んだ。洗脳系の魔法とか魔道具を使った訳じゃあるまいな」
「私のどこを気に入ったのかは知らないけど、いくら信じられないからってそういうのを疑い始めたら人として終わりだと思いますよ」
魔道具の可能性は無限大だが、そんな事を疑い始めたらキリがない。そんな事は分かってるはずなのに事ある事に変な疑いをかけてもらうのはやめて頂きたい。ただでさえ後ろの二人のせいで私の印象も悪いんだし...
「.....あ、そうだ! 私は皆さんに差し入れ持ってきたんです。保存の魔法を掛けてるので味は落ちてないですし、ロッキーさんも食べて一度冷静になってみませんか? サウジストのお店で買ってきたこの時期限定のスイーツタルトです」
スイーツの入った箱を見せるとメルが嬉しそうに受け取ろうとするが、即座にロッキーさんに回収された。渡した相手が皇女様という事で相手は中身を相当警戒しているらしい。
「最近の帝都は物騒な以上、中身の検査無しになど渡せるかッ! 万が一にでも毒が盛られていたらどうする。検査が終わるまで没収だ、没収!!! 」
「あー...もうっ!! てかロッキーさんって本当に真面目で心配症ですよねぇ。というかそもそも私がそんな事するはずがないでしょ。グレイならともかく、私は基本的に平和主義者だし、無闇矢鱈に手を出すような人に見えますか? そんな物騒な魔法なんて使えませんし、使うつもりもありませんって」
「.....これは万が一を考えての行動だ。皇女殿下の身に何かあったらどう責任を取るつもりだ? 最近は帝都も物騒だし、このタイミングで毒殺などされたらたまったもんじゃない」
「ロッキー・ハルトマン。お姉様はそんな事しません。私、ずっと見てたから分かりますもの。というか今日一日ずっと近くに居たので、お姉様達はそんな事しないと保証します。だからさっきの非礼はしっかりと訂正しなさい! 」
いや、私は何も思ってないから謝罪とか要らないけど...というかロッキーさんも睨みつけながら頭を下げて謝罪するのはやめてよ...怖いじゃん。
「......まだまだ言いたい事はあるが、とりあえず本題だ。ロジェ殿、料理大会に出て何をするつもりだ? 皇女殿下を通じて氷結熱鳥を所望したり、皇帝陛下に会おうとする理由も含めて教えて貰いたい。この事で何か知ってるのであれば、我々に情報を教えてくれないか? 」
「....................はい? 」
「ロジェ殿は当日何が起こるのか分かった上で、皇女殿下に近づき、予言に関係しているかもしれない料理大会に参加しているのは我々も重々承知している。だが、今回は国を巻き込んだ大事件の可能性がある。最近は寄生型のカエルが出現したりと物騒な事が多い。何か知っているのなら、これ以上大きな被害を出す前に是非とも教えて貰いたい」
「いや――そんなつもりで動いてないけど」
「え!? そうだったのですかロジェお姉様! 私、お姉様がそんな事を考えてたなんて聞いてませんよ!!! 」
もしかしてそれって占いの婆さんのアレの事? あれって当たる時は当たるけど、ダメな時は本当にダメだから信じない方がいいよ。そもそも何が出たのか知らないけど、そんな都合良く当たるわけないって。
「念の為その予言について聞かせてもらってもいいですか? それに私は氷結熱鳥の討伐なんて頼んでませんし、最初から何も企んでません。皆さん私をなんだと思ってるんですか? 」
「........ロジェ殿なら予言の内容は既に知っているかもしれないが、一応教えておこう。要約すると『この国に持ち込まれた何かで大量の人間が絶望の感情に包まれ、いずれ死に至る』という内容が出ている。これがもし本当だとすれば国の一大事に関わる大事件だ。一人で何か動いているのは分かっているが、情報を隠していないで教えて貰いたい」
「なるほどなるほど...そういう事ですか」
本気で数秒間考えるが、ロジェの脳内に導き出される答えはやっぱり一つしか無かった。
要するに、いつも通り私の悪運が悪さしてこの国でなにか起きてるって事ね...もうやだ現実逃避した――いや待てよ、今回は珍しく本当に思い当たる節がない。外から持ち込まれた物にも魔道具にも手を出してないし....なら返答はこれしかないわね!
「で、す、が! 私はメロールに半分脅されて大会に参加したような物なので企みなんてものは何一つありません。それに予言だって、この話を聞くまで何も知りませんでした。ごめんなさいね? 私があまりにも非力すぎて力になれなくて...」
「やっぱりお姉様について書いていたあの記事は本当だったんですね...この発言で少し文屋の事を見直しましたよ私は」
私が発言をした瞬間、なんかすごい目でメルに見られてるんだけど、そんな評価が変わるくらい変な事した? 私は事実言っただけじゃん。まさか嘘だと思ってんのかな。私は、誰かを、虐めたり、してませんっ!!
「...その舐め腐った態度は傍から見れば何か知っているようにしか見えないが、本当に知らないんだな? 最近帝都に料理に寄生する奇妙なカエルが出回っているが、そこの話の通じない男が作った試作品じゃなかろうな」
「いや私はそんな舐めた態度取った覚えないですけど...」
一応隣に座ってるグレイの方を見るが、彼は首を振っていたし違うのだろう。というかグレイは時々やばい魔物は作るけど、基本的に私の護衛を作る事以外はしないはずだ。なんだかんだこの男、困ってた人を見つけたらすぐ助けようとするし、根は悪い奴じゃないからね。
「そのカエルとやらは知りませんが、グレイはそんな悪い事をする人じゃありませんよ。頭のネジが外れてるとこはありますけど、基本的に私以外は皆ネジが外れてるし、今に始まった事じゃありません」
「おいロジェ、なに自分だけ地位を上げてんだ!お前も同類だろ!」
..........?
「そーだよロジェちゃん。一人だけ株あげるのずるい! 全員同じとこにいるんだから、ちゃんと訂正してよー! ねーねー! 」
――いや、違いますが? 確かに変な事件に巻き込まれすぎて頭のネジが外れてる可能性はあるけど、外れてても私は二人ほど壊れてる訳じゃないし、平和主義者がそれだったら大問題でしょうがッ! この中で一番まともであるこの私まで一緒にするな!!!
「傍から見れば貴様らの頭のおかしさは全員同じだッ! ......そこの二人には『廃街地区』の奴らを掃除してもらった礼もあるから深く追及するつもりは無いが、本当に何も手を出してないんだな? そこにいた魔法生物が逃げ出した可能性はないんだろうな」
「もちろんないぜ。目に入る奴に関してはその線は潰しといたぜおっさん!それもゴミ掃除のルールの一つだからな! というかやばい魔物なんてあそこに居なかったぞ?俺達が拾ったのは普通のうさぎだけだ。それも一匹しかうさぎが居なかったし、その予言とやらに関係ねえと思うぞ。デカい動物用の檻も確かに見かけたがそこには何も居なかったし、俺達は何も知らねえよ」
「それは僕も同意見。色々探したけど出てくるのは三流の魔道具ばっかで使い道がなかったよ。そんな犯罪に関わるような物は一つもなかったし、面倒だからやりたくなかったけど、拾った研究データも戦利品も全部詰所に出してあげたでしょ? ロジェちゃんに説教する前にそっちを調べてから協力頼みなよ」
「....現在調査中だ」
「はぁ...せっかく活きのいい奴らが屯してるって聞いたからどの位の腕なのかワクワクして行ったのにさぁ。現場行ってもそれが一人も居ねえんだからやりごたえねえっての。この国にもっとつえー奴居ないの? 」
うーーーん...いつからこの二人はこんな戦闘狂になってしまったのでしょうか。昔はここまで野蛮な子じゃなかったんだけど...どこで道を踏み外したんだろ?
「そんなものがいてたまるかッ!...とにかく、街の治安維持に協力してくれた事は感謝する。だがロジェ殿はこれ以上、皇女様に余計な事を吹き込まないように」
全部皇女様きっての希望なんだから通してやればいいじゃん。仮に皇女様が怪我しても私が治癒魔法掛けて治してあげるし...生きてるだけで丸儲けでしょ?
「お姉様達ごめんなさい...せっかく私の方から招待したのに、私のせいでこんなにも酷いお説教を受ける事になってしまって...」
「別にいいのよ。私は怒られ慣れてるし、プライドなんてほとんど残ってないから頭なんて幾らでも下げれるもの。だからあんまり気にしないで」
その発言をした瞬間、ロッキーさんから凄い視線を向けられるが見なかった事にした。多分『反省しろ』と言ってると思うが、ちゃんと反省自体はしてるので許してください...
「それでロッキー・ハルトマン。貴方に一つ聞きたい事があります。氷結熱鳥の方はともかく、お父様は何か言ってましたか? 何も無いようならこのままお姉様達と会わせたいのですけど...」
「!? ほ、本気ですかメロール様。この者達、特にロジェ殿は言うなれば不敬の塊です! 陛下に対して高確率...いや、百パーセント無礼千万な態度を取るに決まっています。今すぐにでも考え直してください! この元達はとにかく何するか分かりませんし、明らかに危険です。彼女達の危険度はカエルにされたメロール様が一番分かっている事でしょう」
おいおいおい....言わせておけば好き勝手言ってくれるじゃない。流石に私も皇帝の前だとそんな失礼な事言ったりしないよ?
というか普段からそんな事言った覚えがないんだけど、私を不敬の塊みたいな扱いして貰えないくれませんかねッ! 私だって場を弁えた発言する事には誰よりも自信があるわよ!!!
「関係ありませんわ! どうせいつかお父様に会わせないと行けなくなりますからいつ会わせようが同じです! それに、お姉様達はそんな野蛮な事をするような方じゃあり――あり―――ませんから! そ、そうですよね? お姉様」
「なんでいちいち意味深な間を空けるのか分かんないけど、これに関してはメルの言う通りよ。そもそも私達は誰かに手を出すつもりはないし、後ろの二人にも出させませんから。それに、メルのお父様は気さくな方なんでしょ? だったら多少の不敬も許してくれるはずです」
正直皇帝なんて死んでも会いたくないけど、どうせここで断ったとしてもいつか呼ばれるので、今のうちにさっさと済ませるべきだ。普段ならともかく、今の私は問題は起こしてないはずだし気まずい事もないしね。
「それを貴様が言うなッ! とりあえず分かった。私も同行はするが、不敬な発言があり次第、即座に貴様らの首が無くなると思っておけよ。部屋に入った瞬間、許可なく魔法や薬品を使った場合も同じだ。分かったなッ! 特にロジェ殿、貴様は他二人よりも気をつける事だ!!! 」
――え、なんで私だけ名指しなの?




