第一章 01 『希望』
『緊急!緊急!ドラゴン襲来につき市民の皆様は直ちに南門から避難をしてください!騎士団及び冒険者各位は至急北門へ集合し、ドラゴンへの討伐にご協力ください!』
僕はこの世の終わりを見ていた。雨の中とんでもない勢いで住民が避難を開始していた。
ある者は転んだものを踏んづけ我が身を優先して避難をし、ある者は必死に助けを求めている。
普段の帝都は治安も良く平和な国だったのにここまで酷い国は見たことがない。帝都で生まれて育ってきた僕には分かる。
これは2000年振りに訪れたこの世の終わりだと。
突如帝都の近くに現れた100匹以上の竜の群れが、全速力で帝都の中に向かっている。まるで彼らは帝都から何かを取り返そうとしているかのように。
この群れは雷竜を中心していて、火竜や水龍に帝都の地形の関係上絶対現れないような氷竜まで混ざっている。明らかに異常事態だ。
僕の名前はジュン。まだ12歳の未成年だ。
騎士団に入ることを夢見て日々体を鍛え、帝都の歴史を見ても今まで有り得なかった飛び級をして騎士養成学校への入校まで成し遂げたし、僕には戦闘の才能があると言われた。
だが、今はどうだろう?
僕は雨の降る混乱する都市の中、帝都の北門付近にいた。
この世界では、「マナ」と呼ばれるダンジョンに存在する力を吸収する事で、普通の人間よりも身体能力や状態異常耐性を高めることが出来る。
自慢ではないが、ジュンも授業の一貫でダンジョンに定期的に入っているため、そこら辺の住民よりは動けるし、力もあるだろう。
僕の近くには、果実屋の棚と瓦礫の下敷きになって動けないおじさんが必死に助けを求めていた。僕が助けに行けば彼も救われるだろう。
しかし、僕は動けなかった。
何故なら僕は龍という存在がトラウマになっているからである。
理由は、授業でダンジョンに潜った際に運悪く雷竜と遭遇してしまい、龍の放つプレッシャーと雷の迫力が今でも忘れられず未だに魘されるレベルのトラウマになっているのだ。その時は、同行していた騎士団と冒険者によって助けられたが未だに怖い。
そして僕は生まれつき耳がいいので、雷竜がすぐ近くまで来ていることを知っている。
(早く逃げないと僕まで龍にやられてしまう…けど動けなくなっている彼も助けたい。)
今すぐにでも逃げ出したいのだが、体が硬直して言うことを効かなかった。
助けるよりも自分が逃げる事を優先している時点で騎士団失格だと思うのだが、僕は真剣に悩んでいる。
すると、ふと後ろからフードを深く被った赤いローブの女性に声をかけられた。
「君、こんな所で何をしているのですか?体の大きさや雰囲気からして、恐らくあなたは冒険者とは違うと思うのですが…」
声をかけてきた女性は、見惚れてしまうはど美しい赤い瞳に、人間とは思えない綺麗な黒色の髪をしていた。ローブを深く被っていたので、顔の特徴をあまり捉えることは出来ない。
彼女はどこかの冒険者なのだろうか?
僕は帝都にずっと住んでいるので、大体の冒険者の顔は把握しているが、このような綺麗な髪を持った赤い目が特徴の女性は見たことがなかった。
ひょっとしたら、観光していたら巻き込まれたのかもしれない。
そんな事を考えていると、周りを確認していた彼女は言った。
「…あなたは才能があるけど、まだまだ力不足ね。今あなたが出来る事はあそこで下敷きになっている彼を助けることくらいかしら。」
初対面なのになんだか失礼なこと言われている気がするが、触れないでおく。
「あなたは彼を救い、助けられる怪我人を助けながら今すぐ南門へと避難しなさい。あとのことは私が全て何とかします。この街のことは任せて!」
彼女の言葉を聞き、僕は目を見開いた。
「!? 1人でなんて無茶だ!今帝都中の冒険者や騎士団が龍の侵入を抑えてるけど、この数じゃそのうち騎士団達が全滅しかねない!今行っても君の死は無駄になる!」
誰でも考えればわかる。龍が大量に暴れている戦場に自ら行くなんて自殺行為だ。
それを必死に伝えていたが彼女は言った。
「私のことなら大丈夫ですよ。私はあなたと違って強いので…」
「で、でも…」
「少なくとも、この国の人間達よりは強いと思います。」
人間?今人間達って言った!?僕からすれば、君は人間にしか見えないけどあなたは違うの!?
そんな事を考えていると彼女は言った。
「いいから早く彼を助けに行きなさい!あなたは今自分が出来る事をすればいいのです!!こんな所で止まってたら彼が可哀想でしょ!!!」
彼女の事を考えて言っているのに、何故か怒られてしまった。
数秒考え、僕は言う。
「分かりました…分かりましたよ!僕は止めましたからね!もうどうなっても知りませんよ!」
その言葉を伝え、僕は下敷きになっているおじさんを助けに行った。
おじさんを助けた後、後ろを振り返ると彼女はもうそこには居なかった。
「どうなっても知らないぞ…」
そういえばいつの間にか体が言う事を効くようになっていたが、もしかしたら彼女が何かしてくれたのだろうか?
そんなくだらないことを考えながら、僕はおじさんと共に南門へ向かい始めた。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼
北門では、かつて平和だった帝都では考えられない壮絶な戦いが起きていた。
騎士団と冒険者が一体になって現在15匹の群れを止めている。
最初は100匹以上いたのだが帝都ということもあり冒険者や騎士団のレベルが高く確実に龍の数を減らしていた。
だが、決して余裕がある訳では無い。
最初はかなりの数がいた冒険者や騎士団もどんどん負傷者が増え脱落し、少しずつ龍に押され始めていた。さすが地上最強生物である。
しかも今回何万年以上の歴史を見ても、有り得ない事件である。このような災害は、かつて世界を襲った【恐怖の魔女】の復活以来の異常事態だ。
険しい顔しながら帝都騎士団総司令官のロッキーが言った。
「このままだと、帝都が滅びてしまう。何かを手を打たなければ。」
対策会議に出ていた者が手を挙げ、発言する。
「しかし、帝都中の冒険者や騎士団は既に戦場に回しています。物資も全て回しており、もう回せるストックがありません。現在帝都でも混乱が起きており市民の誘導も完了していない為、誘導に回っている者を戦場に回すのは厳しいかと。」
現在市民の誘導に回している騎士団の人間も数名いるが、彼らを回したところで大した戦力にはならないだろう。
本当にこのまま帝都は滅びてしまうのだろうか。
かつてこの世に現れた【恐怖の魔女】の広範囲高火力魔法によって帝都は滅びてしまったが、過去の時代の皇帝により攻略済の高レベルダンジョン跡地に帝都を移している。
これは、決して自殺行為ではない。
跡地に残っているボスやモンスターを手懐けて、たまに残っているモンスターの卵に刷り込みを行うことで、緊急時にそれらを帝都の1戦力として利用する為である。
手懐け方や刷り込みの仕方は、かなり昔の文献の中に残っていて最近発見されたものだが、どうやら攻略済のダンジョンのみでしか効果がないらしい。
どこの国よりも戦力が確保されている帝都のみがこの手段を使って跡地のモンスターを利用しているが、帝都の100年間の安全が証明されれば他の国でもこの方法が使われると言われていた。
今回は緊急事態であるため、既に帝都にいる魔物達は放出してある。
一撃の火力が高く、動きの早い雪爪熊や攻守ともに優れている騎士型の狼の月夜狼なども大量に放った。
別に彼らが弱いわけではない。
彼らは龍を数匹減らしていたし、むしろ充分すぎる戦力だったがそれでも戦力として足りなかった。龍が強すぎたのだ。
ただてさえ強い龍が数で押されては誰も勝てないのである。
ロッキーが帝都もここまでか…と諦めた所で、外からとてつもなく大きな音がした。
突然対策本部が揺れて窓が割れる。
そして窓から眩しすぎる光が差し込んできた。
「何事だ!竜の襲撃がこちらまで来たのか!それとも新たな敵の襲撃か!?動ける者はいないか!外で何が起きている!!」
突然の出来事で対策本部にいる人間は誰1人対応出来なかった。
数秒経つと光は収まり、揺れが止まった。
恐る恐るロッキーが外を確認する。
すると、襲撃していた龍の群れの中心に1人の女性が立っていた。
彼女の近くには何匹もの龍が倒れている。
赤いローブに、美しすぎる黒色の長い髪、近くには何やら箒のような物も飛んでいる。
帝都の戦力を全て把握しているロッキーでさえ見たことの無い女性だった。彼女は一体何者なのだろうか?
周りを確認すると、戦っていた冒険者や騎士団はほとんど倒れており、中には意識を失っている者もいる。
すると女性の周りにいた生き残りの龍達が全員平伏し、まるで降参と言っているようなカオスな光景が北門にいる人間全員に映っていた。
その時、天候は雨から晴れに変わり、天から舞い降りた1つの光に包まれた彼女は、まさに英雄だったと語り継がれることになるだろう。
ロッキーはすぐに対策本部を出ていき、周りにいた人間に指示を出した。
「今すぐあの者を称える準備をしろ!彼女はまさしくこの国を救った伝説の英雄だ!決して無礼な事をするんじゃないぞ!」
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目の前で平伏しているドラゴン達に囲まれた黒色の髪の女性はこういった。
「どうしてこうなった…?」
小説初投稿になります。小説活動自体初心者なので、誤字脱字などあれば気軽に指摘してください。
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