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88話 旅立ちの日

 風も雲も1つない晴れやかな朝日が昇る中、レイモンはミュリエルが住まう家の外に出た。

 持ち物は食料と野営道具、そして彼女からもらった刀だ。

 

 ここには迷い込んだようなものだから元々持ち物は少なかった。

 でも街に辿り着くのに2日はかかる為、山道で一晩過ごせる装備を持つ必要がある。

 それを見越してか、ミュリエルは家にあった食べ物と道具を昨日のうちにまとめてくれた。

 それを今、セレストと手分けして持っているわけだ。


「本当に何から何までありがとうございます」


「いえ、気にしないでください。

 お二人が無事に帰られる姿を見れただけで十分ですから」


 玄関でレイモンとミュリエルは別れの挨拶をしていた。

 まだ身支度が終わっていないらしく、まだセレストは出てこない。

 だからゆっくりと彼女と話す余裕があった。


「約束、絶対に守ります。

 まとめて休みが取れた時、会いに来ますね」


「……ふふっ」


 ミュリエルは嬉しそうに笑った。

 直後彼女なりの願掛けか、レイモンに一歩近づいて額を一瞬だけ合わせた。

 その時に感じた彼女の息と太陽のような香りに、思わずレイモンは顔を真っ赤にした。


「楽しみにしております」


 彼女は一歩引いた。

 そして照れて頭から湯気が出ているレイモンを見て、また口角を緩めた。

 最初はただ普通の人と感覚がずれているだけかと思っていたが、案外そうでもないかもしれない。



 そうしていると、セレストが廊下に出てきた。

 彼もレイモンと似たような荷物を持っている。

 ただ彼は川に落とされた際に武器を手放してしまった。

 そのため代わりに、レイモンが持っていた刀を腰からぶら下げていた。

 もちろん、レイモンは承諾済みだ。


「……」


 セレストは何も言うことなく、ミュリエルの横を通り過ぎた。

 そのままレイモンの横も素通りするのかと思ったが、彼はわざとらしく肩をぶつけてきた。

 その時、小さく舌打ちした気がする。


(怖……髪、切らなかったからかな?)


 レイモンの髪は未だに伸びたままで、相変わらず1つに結んでいた。

 セレストは似合わないと言っていたが、自分は割と様になっているのではと思ったからだ。

 むしろ、そこまで機嫌が悪くなる理由が分からない。



 セレストはそのまま森の中に入ろうとした矢先、愛想悪く振り返った。


「ほら、行くんだろ?」


 セレストは顎で早く来るようレイモンに促した。

 本当はミュリエルと沢山話したいだろうに。

 それほど、あの時二人だけで話した時のことが深刻なのかもしれない。


「さぁ、行ってくださいませ。

 レイモンさん」


 ミュリエルも背中を押した。


 レイモンは一度、胸ポケットにしまった手紙を手で触った。

 そして自分の使命を確認し、心の迷いを振り払ってセレストの方を向いた。


「また会いましょう、ミュリエル」


 レイモンはそれだけ言い残し、セレストと一緒に森の中に入った。






 ミュリエルの話では、山道をそのまま下れば町につくとのことだった。

 そのためセレストとセレストは、ただひたすら道に沿って山を下った。

 木々は青々と生い茂っており、時々心地良い鳥のさえずりや葉のかすれる音が聞こえる。

 まだ君達は現実に帰っていないよと告げるように。


 その間、先頭に立っていたセレストは会話しようともしなかった。

 何度かレイモンが声をかけようとしたが、背中から放たれる圧力に阻止されてしまった。

 レイモンは仕方なく、すごく気まずいものの黙々と彼の後をついていった。



 そうしているうちに、いつの間にか日が傾き始めた。

 流石に野営しないとまずいと思い、勇気を出してセレストに声をかけた。


「な、なぁ。そろそろ……」


「知ってる」


 セレストは吐き捨てるように言うと、すぐに山道を外れてテントの貼れる場所を見つけてしまった。

 その間、手伝うどころか話す時間すら与えてくれなかった。


 その後も二人は会話を交わすことなく、野営と夕飯の準備を手分けして始めた。

 完全に夜になり夕飯を食べ終わっても、ただ沈黙が流れるだけ。

 こんなに時間が立つのは遅かったっけ、とレイモンはつい思ってしまった。


 

 

 レイモンが後片付けをしている間、セレストは近くの地面に寝そべって星を眺めていた。


(そういえばここの星空、すごくきれいだったな)


 焚き火だけ残してそれ以外のものは全部片付けたあと、レイモンはセレストの近くに寄った。

 そして近くの地面に腰を下ろして、彼と同じように横になる。



 この前ミュリエルと見たときと比べると少し寂しかったが、それでも満点の星空が広がっていた。

 基地ではこんなに星が輝いていることはないから、この目に焼き付けないとしばらく見れなくなる。

 そう考えるとレイモンは起き上がる気がなくなった。

 テントは貼ったものの、ここでそのまま寝てしまってもいいかもと思ってしまうほど。


「なぁ」


 突然、セレストが声を掛けてきた。

 今日一切話しかけてこなかったから、驚いて一瞬レイモンの肩がはねた。

 だが彼の声はどこか消えそうで儚く、セレストらしくなかった。


「もし……もしもの話だ。

 どうしても叶えたい願いがあるのにどん底に落とされて、もう打つ手が無くなったとき……

 お前なら、どうする?」


 レイモンは星を見ながら考え込んだ。

 彼の頭上には、オリオン座がきらきらと輝いている。

 その弓の先には、そこだけぽっかりと空間ができているように星が少なかった。


「多分……必死に叶える方法を見つけようとすると思う」


「……」


 セレストはしばらく黙り込んだあと、ぼそっとレイモンに聞いた。


「じゃあ、唯一見つかったのが非人道的な手段だったら?」


「――っ」


 レイモンは本気で悩んだ。

 もし誰かの命を犠牲にしたり非倫理的だったとしても、自分の夢を叶えるならその手段を取るか?

 小さな願いだったら、絶対にそんなことはしない。

 でも、仮に譲ることのできない願い……例えば仲間を守るためだったとしたら――


「場合によるけど、その手段を取るかも」


「…………はっ」


 セレストは疲れたような乾いた笑いを漏らした。

 まるで想像していた答えが返ってきて呆れているかのように。

 そのせいか、セレストは笑いながら一言だけ呟いた。


「そうか……そうだよなぁ……

 あーあ、お前ってそういう奴だもんなぁ……

 あはは……」


「……?」


 レイモンが不可解な視線を投げかけると、セレストはむくっと起き上がった。

 そのまま彼は背中を向けて、手を振りながらテントの中に入ってしまった。

 残されたのは釈然としないレイモンと、何も知らずに輝いている無数の星だけだった。

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