表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/101

87話 またお会いしましょう

 セレストはそれから引き篭もってしまった。

 ご飯を3人で一緒に食べようとドア越しに誘っても、返事をしない。

 そのたびにレイモンはやむを得ず食べ物を部屋の外に置くと、気付いたら皿は空っぽになっていた。

 どうやらレイモンとミュリエルが食事している最中に食べているらしく、全く顔を見せてくれなかった。


 あまりにも心配で、レイモンはドアを開けようとしたことがある。

 だが、ミュリエルに止められた。


「今はそっとしてあげてください。

 大丈夫です、きっと山を降りられるときには姿を見せてくださると思いますから」


「……」


 レイモンは渋々ドアノブに触れた手を引っ込めた。



 あの日――セレストが目覚めた時、2人に何があったのかはわからない。

 掃き掃除をしていた時セレストの大声が聞こえたものの、何を言っているのかまでは分からなかった。

 直後出てきたミュリエルも何も教えてくれず、暗い顔のままどこかに行ってしまった。

 その後レイモンは何度か彼女に尋ねようとしたが、勇気が出ずに今でも聞けずじまいだった。




 そんな空気の淀みに反して、レイモンの怪我は殆ど回復していた。

 体をひねっても痛くないし、ある程度なら激しい運動もできる。

 ミュリエルも程々にと念押ししながらも、もう処置する必要はないと宣言してくれた。


「これで山を降りられますね、レイモンさん」


「そう、ですね……」


 夕食中嬉しそうにするミュリエルに対して、レイモンは浮かない顔をした。

 1ヶ月という短い間だったとはいえ、彼女と過ごした日々はとても楽しかった。

 本当はずっとここにいたいが、部隊に戻らないといけない使命がある。

 そのせいでレイモンは、2つの気持ちの間でずっと揺らいでいた。



 ミュリエルはそんな彼の迷いに気付いたようだった。


「ここで少々お待ち頂いても?」


「え? あ、はい」


 なんのことが分からず浮かない顔をするレイモンを置いて、ミュリエルは席を立った。

 そのまま彼女は自分の部屋に入ってしまい、しばらく出てこない。

 レイモンはずっとその部屋のドアを眺めながら、スープを啜った。



 恐らく、5分位は立った頃だろう。

 ミュリエルは細長いものを持って、やっと部屋から出てきた。


「お待たせしました。

 レイモンさんに差し上げます」


「え……」


 ミュリエルは彼に持ってきたものを手渡した。

 そしてさっきまで座っていた席に腰を下ろし、レイモンの反応を観察した。



 それは一本の刀だった。

 鞘には黒地に金箔で花のような紋様が施されており、持ち手も金と黒で統一されている。

 明らかに重厚そうなのにかなり軽く、明らかに名品だ。


「そちらは記憶を全てなくす前の私が残した、数少ない物の1つです。

 どうしてそんなものを持っていたのかは定かではありませんが、それは些細な事です。

 レイモンさんが刀を扱えるとお伺いしたのを思い出しまして、ちょうど良いかと」


「っ!? そんなに大事なものをもらうわけにはいきませんよ!」


 ミュリエルは微笑みながら首を横に振った。


「私は刀の握り方を知りませんので、持っていても仕方ないのです。

 元の持ち主も作者も、扱える方がお持ちになられた方が喜ばれると思います。

 なので遠慮なさらないでください」


「……っ」


 レイモンは言い返そうとしたが、彼女の優しい眼差しに押されてしまった。

 仕方なく彼は小さく頷き、試しに刀を抜いてみた。



 刀身は、眩しいくらいに金色に輝いていた。

 だが金で作られたようではなく、メッキがされているわけでもない。

 レイモンが知らない特殊な素材でできているようだった。

 一級品であるのはやはり間違いないらしく、刃は鋭くレイモンの顔がはっきりと反射している。


「綺麗だ……」


 レイモンは無意識に言葉を漏らしてた。

 ミュリエルはそれを聞いて嬉しそうにしたが、突然レイモンはある違和感を覚えた。


(ん? この刀、どこかで見たような……

 えっと、確かセレストの刀って――)


「お気に召しましたか?」


 思考の最中に、ミュリエルが話しかけてきた。

 多分わざとではないだろう。

 

 しかしそのせいで何を考えていたのか分からなくなってしまった。

 別に大したことはないだろうとレイモンは割り切り、満足そうに笑みを返した。


「はい、こんな貴重なものをくれるなんて。

 本当に、ミュリエルには感謝しきれないです」


「ふふっ。代わりにと言っては何ですが、その刀を見た時に私を思い出してくださるとうれしいです」


 レイモンはそのまま刀を収め、丁寧に自分が座っている椅子の真横に置いた。

 そして慎ましい食事を再開し、もう何度も味わえないこの幸せをじっくりと噛み締めた。




 それから、数日後。

 ミュリエルの予想では、しばらくは晴れの日が続くだろうとのことだった。


「山の天気はとても変わりやすいです。

 こんな雲一つない快晴が続くことはめったにありません。

 戻られるなら今が良いかと」


 正直迷ったが、ミュリエルからもらった刀とヴェベールの手紙がレイモンの肩を押した。

 結局彼は、セレストと相談して出発日を決めようという結論に至った。



 セレストは未だに部屋から出てこない。

 そのためレイモンは、彼が居る部屋に向かいドアをノックした。


「セレスト、大事な話があるんだ」


「……」


 反応はない。

 もしかすると寝ているかもしれない。

 だが今回ばかりはちゃんと顔を合わせないといけないと思い、勇気を出してドアノブに触れた。


「入るよ?」


「……」


 レイモンはドアを開けた。



 セレストは起きていた。

 だが布団に蹲り、こちらに背を向けている。

 彼がいると判断できる要素は、布団の膨らみだけだった。


 一瞬、彼に「大丈夫か?」と声を掛けようとした。

 だがミュリエルとほぼ喧嘩別れしたような状態のセレストには、その言葉はナイフのようなものだろう。

 レイモンは出かけた言葉を飲み込み、用件だけを伝えることにした。


「しばらく天気がいいから、そろそろ山を降りて部隊の基地に戻ろうと思うんだ。

 お前がよければ、その……明日発つつもりだ。

 もちろん一緒に降りるだろ?」


「……」


 少しだけ布団が動いた。

 だが彼は何も話さない。

 否定しないということは、別に構わないということだろう。

 少し釈然としないが、レイモンはそう受け取った。


「じゃあ明日の朝に出発するから、荷造り必要ならしておいて」


 それだけいうと、レイモンはくるっと反転して部屋の外へと歩き出した。



 その時、背後から突然声をかけられた。


「……その髪型、ダサすぎ」


 レイモンは驚いて振り返った。

 しかしセレストはさっきと同じように布団の中に隠れていた。

 そのせいか、声が少し篭っている気がする。


「切れよ、自分の髪くらい」


「……」


 レイモンはそのまま、部屋から出てしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ