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82話 金の君の工房

 扉を開けた途端、少しジメジメした風が吹いた。

 別に埃やカビの臭いが気になることはないものの、古い建物独特の香りが鼻につく。

 中はと言うと、階段が地下へと伸びていて真っ暗で先が見えない状態だった。


(先が見えない……

 そうだ、確かズボンにライター入れてたはず)


 実際にポケットを探ると、いつも持ち歩いている携帯用のライターが出てきた。

 レイモンは蓋を開けてそれを着火させると、手を前に伸ばして奥の方を照らそうとした。

 だが火が小さすぎるせいか、この先に何があるのか見えない。


(これじゃあ、開けた意味ないよなぁ。

 でもここ降りるのなんか怖いし、どうしよ……)


 金の君は今、夕飯の支度を始めたところだ。

 降りてすぐ戻ってくれば、おそらくバレることはないだろう。

 なんせもう確認したいという気持ちは止められそうになかった。


「……よし」


 レイモンは転ばないように足元を照らしながら、ゆっくり通り始めた。

 階段は古い木で作られているせいで、踏むたびにギィと言う音が聞こえた。

 そのせいで彼はずっと金の君が気付かないかとビクビクしていたが、何とか一番下に辿り着くことができた。

 そこには、入り口と同じような古い扉が佇んでいた。


「っ……今度こそ」


 レイモンは一度深呼吸をした。

 そして勇気をだして、目の前のドアノブを押した。




 扉の先は、実験室のような部屋だった。

 元々のデザインなのか天井から月明かりが差し込んでいて、石造りの壁と床がはっきりと見える。

 

 そこにはこれでもかと敷き詰められた大量の本棚と、床に散らばった本。

 手に取っていくつか表紙を確認すると、全部魔術に関する本だった。

 しかも専門家でもないレイモンでも分かるくらい、とても古くてマイナーなものばかり。


 近くの机には、見たことのない道具が散乱していた。

 それらは全部、ナタンが個人的に持っている魔術の専門器具になんとなく似ている。


「……あれ?」


 机の中心には日記らしき一冊の本が置かれていた。

 興味本位で開いてみると、専門用語のようなものがぎっしりと書かれている。

 多分、魔術にまつわる記録だろう。


「駄目だ、全然わからない。

 って、ん……?」


 ざっくりと目を通すような形でパラパラとページをめくっていると、最後のページに紙が挟まっていた。

 手にとって見てみると、日記の文章と書き方が全然違う。

 それにレイモンでも理解できるような内容だった。


「……これ、僕のことが書いてある……」


 最初はレイモンが川から脱出して、低体温で死にかけていたところからだ。

 その時彼女はたまたま薬草取りに来ていたらしいが、その一部始終が事細かに書かれている。

 その後も名前はおろか、目覚めた時の会話、介護時の反応、好みの食べ物まで……

 全てレイモンに関することで彼女が見聞きしたことが、一切のもれなく書かれていた。

 少し不気味に感じてしまうくらいに。


(なんでこんなに詳細に書いているんだ?

 まるでストーカーじゃないか。

 でもそんな人に見えないし、なんかこうしないといけない理由があったのか……?)


 今考えてみると、レイモンは金の君に関して一切知らない。

 どこで生まれ育ち、ここに移住し、いつも何をしているのか……

 まるで全てを隠しているかのように空白だ。

 どうして今まで気づかなかったのだろう?



 それよりも、もっと気になるものがある。

 月明かりの下、部屋の真ん中に置かれている黒い棺だ。

 それは金箔で装飾がされており、上品な面持ちがある。

 まるで上級階級の人間がここに眠っていると主張しているかのように。


(誰か、眠っているのか……?)


 レイモンは日記を閉じて元通りにすると、ゆっくりと棺に近づいた。

 近くで見ると、黒い光沢が月明かりに照らされて少し幻想的に見える。

 手で触ってみても、とても冷たくて滑らかだった。


「……」


 さすがに開けるのは不謹慎な気がする。

 でも中身が気になって仕方がない。

 まだ誰も入っていないのか、それとももう入っているのか。

 少なくともこの中には、金の君のすべてが詰まっているような気がしてならない。


「少し……少しだけ、なら……」


 結局、好奇心に負けてしまった。

 レイモンは棺の蓋を両手で掴むと、そのまま持ち上げようとした。

 しかし想像以上に重くて、びくともしない。


「――うっ!? いだだだだ!!」


 無理をし過ぎて、背中の怪我に響いてしまった。

 痛みを感じて反射的に手を離したため、何とか大事には至らなかったようだ。

 

 だが悪化したのは確かなようで、背中のずきずきする感じが収まらない。

 戻ったらしばらく安静にした方がいいだろう。


(参ったな……横に押してずらすしかないか。

 背中に力が入らないようにしないと)


 レイモンは棺の横に座ると、蓋の部分に全体重をかけた。

 そして背骨に負担を掛けないように横に押すと、ギギッと耳に来る音とともに蓋は動いた。


 

 やがて中を覗けるくらい移動させると、レイモンは押すのを止めた。

 そして恐る恐る中を見ると、思わず声を上げてしまった。


「――ひっ! ほ、骨!?」


 バリバリに乾燥した黄色の大量の花。

 その中に、大人の白骨化した遺体が横たわっていた。

 自信はないが、骨格からして多分男だろう。

 それが月明かりに照らされ、なんとも言えない光景となっていた。


「ど、どうして、こんなところに!?」


 レイモンは腰を抜かしたまま後ずさりした。



 

 その遺体は、金の君の大切な人なのだろうか?

 それとも、彼女が殺した人?

 だとしても、どうしてこんなところに保管しているのだろう?


 確か彼女は、死霊魔術を扱えるはず。

 だとしたら、死にまつわる何かを研究しているのだろうか?

 そして、この遺体を実験体として――


「……見てしまったんですね」


 レイモンが恐る恐る振り返ると、扉の前に金の君が立っていた。

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