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80話 奇跡の再会の果てに

 いつの間にかレイモンは、ベッドの上に戻っていた。

 体の感覚とともに意識が戻り始めると、彼はゆっくりと目を開けた。

 薬を飲む前は普通に横になっていたのに、いつの間にか上半身だけ起き上がっていた。

 ゆっくり顔を上げると、金の君が近くの椅子に腰かけてこちらを見ていた。


「……あれ? 僕いつの間に――いっ!!??」


 突然、背中から猛烈な痛みが走った。

 どうやら負傷した背骨のことなんざ忘れて体を酷使したみたいだ。

 あまりの痛みで全身に鳥肌が立ち、壊れた機械のようにただブルブルと震えるしかなかった。


「ガガガガガガ――」


「大丈夫ですか? すぐに鎮痛剤をお持ちしますね」


 金の君は、すぐに外から薬を持って来てくれた。

 レイモンは大慌てでそれを飲み込み、痛みが引くのをじっと待った。

 幸いにも怪我は悪化していないようで、体が麻痺しているような感じはない。


「横になれそうですか?」


「ううっ……無理ですぅ…………」


「それでしたら痛みが和らぐまでそのまま楽にしていてください。

 お辛いようでしたら何かで背中を固定いたしますよ?」

 

 レイモンは涙目になりながらも「大丈夫です」と何とか答えた。

 さっきよりはましになったが、少しでも動かすとまた激痛に襲われる。

 なにがなんでも、今は絶対に動きたくなかった。


「あの、僕はどうして起き上がっているんですか?

 全く記憶にないんですけど……」


「それは……」


 金の君は考え込んでしまった。

 どこから話そうかと悩んでいるようだった。

 

 

 ふと、左手に何か違和感を感じた。

 冷たくてさらさらしている、何か平べったいものを持っているような感じだ。

 レイモンが疑問に思い目を向けると、そこには二通の手紙があった。


「あ……」


 ゆっくりとそれらを顔に近づけると、自分のではない筆跡で宛名が書かれている。

 さっき手渡された、ヴェベールの手紙だった。

 信じられずに何度も表裏をひっくり返して確認したが、間違いない。

 レイモンはしばらく、ただそれらを眺めていた。


「夢じゃ、なかったんですね……?」


 金の君は小さく頷いた。

 その瞬間、胸が締め付けられてすごく息苦しくなった。

 自然と唇に力が入り、目頭が熱くなっていく。

 手は震えながらも脱力し、手紙を持ったままベッドの上にどさっと落ちた。




 金の君の話では、魔術を発動させてしばらくした後突然レイモンが起き上がったらしい。

 しかも背中の痛みを気にすることなく、まるで操り人形のように。


「……どうかされたのですか?」


 金の君が話しかけるも、レイモンは何の反応も示さなかった。

 目は虚ろで首をうなだらせ、生気が全くなかった。

 それに雰囲気もどこか違和感があり、別人のようだったらしい。


 そこで金の君は、レイモンの体に呼び寄せた魂が入り込んだのだと察した。


「……て……が……み…………」


 魂はレイモンの声帯を借りて、不器用に1つの単語を呟いた。

 それが「手紙」だと分かった時、金の君は紙とペン、封筒を別室から持ってきた。

 そしてレイモンの視界に入るように、ベッドの上に置いた。


「…………」


 死者の魂は何も言わず、ゆっくりとペンを手に取った。

 そしてインクをつけて、さらさらと紙に何かを書き始めた。

 彼女が言うには、こうやって魂が入り込むことはとても珍しいことらしい。

 それだけ、彼に強い未練があったということみたいだ。



 魂は手紙を書き終えた後、宛名を書いた封筒にそれを入れた。

 そのまま封を閉じ、左手にそれを握ったまま彼は気を失った。

 直後魂はどこかに立ち去ってレイモン本人が目を覚ました、というわけのようだ。




「それじゃあ、僕が見た皆の姿って……」


「おそらく、その方が見た少し前の記憶でしょう。

 体を使っている間、あなたに幻を見せていたのではないかと。

 ご安心ください、彼は嘘はついていないはずですから。

 レイモン……さん?」


 急に金の君は少し困ったかのように首を傾げた。

 まるでレイモンの名前が一瞬分からなくなってしまったかのように。


 

 だがレイモンはそのことに一切気づかなかった。

 聞かされた事実が、あまりにも衝撃的過ぎたからだ。

 彼はただ手紙をゆっくりと胸に押し当てて、自分の感情を消化し始めた。

 

 手紙はとても無機質なはずなのに、まるでカイロのように温かい。

 それが手紙を渡されたときの光景を、何度も想起させた。


(絶対に、この手紙を皆に届けないと)


 気が付くと、真下の布団の上に透明なシミができていた。

 やがてそれは徐々に増えていき、やがて斑点のようになっていく。

 レイモンがその正体が自分の涙だと気づいたのは、少し時間がたってからだった。


「あ、れ……? 僕、なんで泣いているんだ……?」


 そう口に出した瞬間、急に胸の痛みが増した。

 目からは止めどなく大粒の涙が零れ落ち、手紙を濡らさないようにするのがやっとだった。

 レイモンが自分の気持ちに戸惑っていると、やがて無意識に声が漏れ始めた。


「う……あぁ……ああああ――!」


 レイモンは声をあげながら、号泣した。

 手紙を必死に握りしめるも、全く感情が収まることはない。

 ただただ疲れ果てるまで、レイモンは泣き続けるしかなかった。



 そんな彼を、金の君は優しく抱きしめた。

 まるで泣きじゃくる子供をあやす母親のように。

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