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76話 穏やかな日々

 レイモンはしばらく金の君に介護される日々が続いた。

 毎日彼女は薬草を煎じてくれ、包帯やタオルを取り替えてくれた。

 

 その度に態勢を変えないといけないせいで激痛に襲われた。


「少し辛抱していただけますか?

 ……あ、体を捻ってはいけません。

 悪化しますよ?」


「え、少しだけ待っ――

 グワァァァァァァ!!??」


 彼女は励ましながらも、容赦なくレイモンをベッド上にうつ伏せに寝かせた。

 

 何回か接して分かったのだが、金の君はすごく優しいのに遠慮という言葉を知らない。

 単に躊躇しても意味がないだけかもしれないが、少しは労ってほしい。

 それに食事もずっと彼女任せの状態になっていて、毎回心臓に悪い。


(でも、こんなに親切にしてもらってるのに文句言うのもなぁ……

 うう……慣れるしかないかぁ……)


 レイモンが考え事をしている間に、金の君は彼の体を湿った温かいタオルで拭いてあげた。

 そして薬草のエキスを含ませた別のタオルを背骨に沿わせるように乗せ、包帯で固定する。

 直後再びレイモンが激痛で悲鳴を上げるのも厭わず、彼を仰向けに寝かせた。




 それ以外の時間は、完全に暇を持て余している状態だった。

 ベッドから出れないせいで、最初の頃はただ綺麗な天井を無心に眺めていることしかできなかった。

 

 それを見兼ねてか、ある日金の君は手持ちの本を少し持ってきてくれた。

 推理小説にラノベ、ノンフィクション、短歌集……

 種類が豊富な上に数もかなりあるため、おかげでそこまで退屈はしていない。


(でも仕方ないとはいえ、ずっとこうしているのも申し訳ないな……

 動けるようになったらなんか手伝おうっと)


 それに隣室に居るセレストのことも気になる。

 大丈夫だと金の君が言っているとはいえ、やはり心配だ。

 一刻も早く怪我を直して彼の様子を確認して、それから――


「――っ!」


 部屋の花に水やりしている金の君の後ろで、突然レイモンは頭を抱えた。

 金の君はそれに気付き、近くのテーブルに持っていたジョウロを置いた。

 そして足早にレイモンのそばにより、苦痛で歪んだ彼の顔を覗き込んだ。


「また頭痛が起きましたか?」


 レイモンは歯を食いしばりながら1回だけ頷いた。




 目が覚めてから、レイモンは毎日のように突発的な頭痛に悩まされていた。

 最初は怪我が原因だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 金の君から薬を貰っても、どんどん酷くなっていった。

 最近では、キーンという嫌な耳鳴りと目眩まで出てくる始末。

 それでも彼女は、頭痛薬と冷たいタオルを持ってきてくれた。


「また戦争のことを思い出されていたのですか?」


「……」


 レイモンは額にタオルを乗せられながら、黙り込むしかなかった。



 原因は分かっている。

 それはあの、テアトロでの戦いだ。


 レイモンは時折、みんなどうしているのかと自然に考えてしまうことがある。

 そのたびに同期の顔が浮かんできたかと思うと、すぐにあの禍々しい兵器が出てくる。

 直後、毎回のように頭痛が起きるのだ。


 なるべくそのことは考えないように努力しているのだが、どうしても思い出してしまう。

 それほど心と頭にあの脅威が刻みつけられたのだろう。

 そこまでトラウマになっていないと思っていたが、自分の想像以上に心の傷は深いもののようだ。


 

 しかも時が経つにつれ、更に嫌なことを考えてしまう。


 皆も心の傷を負ったのか?

 そもそも生きているのか?

 これからチュテレールは……どうなるのか?


 そんなことが自然と頭に浮かんできてしまい、完全に悪循環だ。

 そんなのことは分かっているのに、自分ではどうしようもできない。

 ただレイモンは、痛みに耐えながら天井を見ることしかできない。

 金の君もそれを分かっているようだった。


「……だいぶ参っているようですね」


 彼女はレイモンの脂汗をハンカチで拭いながら、ボソッと呟いた。


「ここ数日食も細くなっておりますし、顔色も優れません。

 睡眠は取れていますか?」


「……いいえ」


 レイモンは金の君が居る方向とは違う方を見た。

 彼女がかなり心配しているのは声色で分かる。

 でもどういう顔をすればいいのか、さっぱりだった。


「あの……僕、どれくらいで帰れますか?」


「正確にはわかりませんが、早くて1ヶ月くらいでしょう」


 それまで、精神が持つだろうか?

 

 早く仲間のもとに戻りたい。

 合って無事を分かち合いたい。

 それで馬鹿なことで笑い合って、日常に戻りたい。

 そしてその日常を、いつまでも守っていきたい。


 そんな思いが募るばかりだった。




 レイモンの沈んだ様子を見兼ねてか、金の君はその場で考え込み始めた。

 少し違和感を感じて彼女の方を向くと、すごく複雑そうな顔で目を瞑っていた。

 しばらく気まずい空気が漂っていたかと思うと、意を決したように金の君はレイモンを見た。


「……確認、したいですか?」


「……え?」


 レイモンが聞き返すと、彼女はそのままじっと彼を眺めた。

 まるで覚悟を確認するかのように。


「私の力ではあまり大したことはできませんが……

 お仲間の無事、確認したいですか?」


「…………できるんですか?」


 金の君はゆっくりと頷いた。


「はい、少々危険を伴いますが。

 それに確認をすることで、知りたくないことを知ってしまうかもしれません。

 ……それでもよろしいですか?」


「……」


 確かに、確認することで最悪な事実を知ってしまうかもしれない。

 もし本当に仲間が死んでいたら、さらに気が落ち込んでしまう気がする。


 でもいつかその事実は知ることになる。

 それが早いか遅いかの問題だ。

 たとえ危険な方法だとしても、今のこの心の突っかかりが軽くなればそれでいい。



 レイモンは覚悟を決めて、首を縦に振った。

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