71話 守れ
ヴェロニックが目覚めたのは、PLUTO-0001が牙をむいてから数分後だった。
発射の衝撃に巻き込まれた彼女は、周囲のものと一緒に成すすべなく吹き飛ばされた。
その時に頭を打ってしまったらしく、さっきまで気絶していたのだ。
彼女が最初に目にしたのは、グエッラのものと思しき色々な残骸だった。
張っていたテント、物資の破片、動かなくなった対人兵器……
それが雑多に転がっており、大規模な砲撃の後を彷彿とさせられる。
しばらくの間、自分の身に何が起きたのかヴェロニックは理解に苦しんだ。
だが、遠くから聞こえる兵士の声が現実へと引き戻してくれた。
そのただならぬ様子から、ヴェロニックも他の仲間と同じ考えを抱いた。
(逃げないと、まずい……!
生き残ることだけ、考えないと!)
ヴェロニックは慌てて立ち上がろうとした。
しかし、それができなかった。
左手が思うように動かない。
それ以前に、感覚がなかった。
恐る恐る見ると、左腕が飛ばされた瓦礫の下敷きになっていた。
下からは血が滲んできており、肘から下が完全に麻痺している。
「――――っつ!!!」
すべてを理解した瞬間、手が潰れた痛みに襲われた。
声を上げそうになったが、敵が近くにいてもおかしくないため必死に堪えた。
そして震えながらも自由な右手で瓦礫を取ろうとした。
だが重くて動かせない。
仲間を呼ぼうにも、声はするが姿が見えない。
助けは期待できなかった。
ふと、近くに鋭く尖った長い破片を見つけた。
恐らく、剣か何かの残骸だろう。
ヴェロニックはそれを手繰り寄せると、ある覚悟を決めた。
まずは、自分のズボンのベルトを外す。
それはお面をずらして露わにした口に咥え、歯でしっかりと噛む。
次にポケットからハンカチを取り出し、破片の端にぐるぐる巻きにする。
右手で握っても、怪我しないようにするためだ。
そして金属片を手にし、瓦礫から出ている自分の左腕に添える。
そして息を荒げながら、意を決して左腕を切り始めた。
「――んんんんんんんッ!!!」
凄まじい激痛が、ヴェロニックを襲った。
だが彼女は躊躇せず、左腕を切り落とす。
そして解放されたヴェロニックは、しばらく痛みで動けなかった。
「はぁ……はぁ……」
彼女は口から離したベルトを、残った左腕に巻き付けた。
そして止血のためにきつく縛り付けると、再度激痛に襲われる。
だが悲鳴を上げることなく、ヴェロニックはのろのろと立ち上がった。
「……にげ……ないと…………」
そう言って彼女は姿をくらました。
***
……戦争が、こんな悲惨なものだとは思わなかった。
周囲から、悲鳴と怒号が聞こえてくる。
あまりにも辛くて、ジャッドはその光景を見ることはできなかった。
だが仲間が一方的に殲滅されているのは分かる。
中には彼女に助けを求める声もあった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
オランドを置いてきた以上、自分は生きないといけない。
王女という立場上そうせざるを得ない。
本当は立ち止まって、今すぐ助けに行きたい。
しかし、オランドのある一言がそれを許さなかった。
『あなたの場合、ここで死ぬのはみんなが許さない』
だからジャッドは、俯きながらただ馬を走らせるしかなかった。
戦場の比較的敵が少ないエリアを抜けながら、チュテレールの本陣に向かって。
そこなら敵の侵攻は比較的小さく、エーベル総司令官もいるはず。
それ以外にどうすればいいのか分からなかった。
突然、馬が悲鳴を上げた。
「――!?」
ジャッドが何が起きたのか理解する前に、馬はその場に倒れてしまった。
その勢いで、彼女も地面へと投げ出される。
しばらくジャッドは転がった後に立ち上がると、馬は既に動かなくなっていた。
(首に銃弾の痕……まさか、見つかった!?)
頭を上げると、奥から対人兵器がこちらに近づいているのが見えた。
しかも毒ガスの仕組まれた、一番厄介なタイプ。
だが逃げられそうにもない。
ジャッドは意を決して、ライフルを召喚した。
その時だった。
「ジャッドさん! そこから動かないで!!」
ジャッドが声の主の方を向くと同時に、横から強い突風が吹いた。
その勢いで、近寄ってきた兵器がはるか後方へと吹き飛ばされる。
風魔術の使った主は……ナタンだった。
「けがはない!? 大丈夫!?」
ナタンは咄嗟にジャッドに近づいた。
彼の顔は既に真っ白で、なぜか少しやつれてしまっている。
ここまでに彼も相当の地獄を見てきたようだ。
ジャッドは大きく首を横に振り、ナタンの手を借りて立ち上がった。
直後、彼に引っ張られて走り出す。
「ナタン、あなたは調査チームにいるはずじゃ……」
「話はあと!
今はとにかく逃げよう!」
2人が逃げている間も、何度か敵に目をつけられた。
しかしジャッドが銃で応戦する間もなく、ナタンが全部適当な場所に吹き飛ばしていた。
そうして少しずつチュテレールの本陣に近づいていき、敵の数が少なくなっていた。
だが、そう簡単には行かなかった。
必死にナタンとジャッドが走る中、後方から空を切る音が聞こえてきた。
「――ナタン危ない!」
ジャッドが彼を抱えて突き飛ばすと同時に、ナタンがいた場所から急に土煙が上がった。
どうやら爆撃にあったらしい。
2人は爆風に吹き飛ばされながらも、近くの地面に叩きつけられた。
「……いてて……っ!?
ジャッドさん! しっかりして!!」
ナタンを庇ったジャッドは、頭を打って気絶していた。
頭から血を流していること以外大した怪我はないが、どんなに揺さぶっても起きない。
その間にも、爆音でこちらに気付いた何体もの敵が近づいてくる。
数は2体、3体……いや、10体はいる。
(まずい……この人を守るには、敵を倒さないと!)
ナタンはジャッドの前に立ち、臨戦態勢を敷いた。




