69話 勝利
PLUTOの放った光は、テアトロ全域に降り注いだ。
それは敵味方問わず、数多の人を飲み込んだ。
その中に、ヴェベールが含まれる。
アデルの目の前で、黒い光線は降り注ぎ続けた。
恐らく、30秒ほど。
だが放心状態の彼には、長い時間のように感じた。
それ以前に、時間の感覚などなかったが。
やがて、黒い雨は止んだ。
光が途切れたその時、アデルの目の前にヴェベールが現れる。
彼は光に飲まめる前の状態で固まっていた。
だが、それはコンマ数秒の出来事。
アデルの感情が戻る前に、ヴェベールはドサッと地面に倒れた。
「……ヴェル……兄…………?」
アデルは、消えそうな声で呟いた。
ヴェベールは動かない。
動く気配もない。
まるで糸の切れた人形のようだ。
彼の悪ふざけかと思った。
でも違う。
こんなにたちの悪いことは、彼は絶対にしない。
アデルは藁にすがるように、彼に近づいた。
体が温かい。
硬直はしていない。
外傷もない。
なのに……
息がない。
脈もない。
揺さぶっても、起きない。
……ヴェベールは、死んでいた。
「……あ……あ、ぁ…………」
アデルは頭を抱えた。
脳裏には、走馬灯のように見た光景が掛け巡った。
アデルがドジ踏んで、本気で怒ったヴェベール。
無茶をしすぎて、心配そうなヴェベール。
周りから無理難題を押し付けられ、困り果てるヴェベール。
そして……
お得意の冗談で、アデルを困らせて喜ぶヴェベール。
その光景が繰り返される度、どんどん自分の中で何かが壊れていくのをアデルは感じた。
彼は声になっていない声を漏らしながら、心の痛みに悶えた。
そんな中でも容赦なく近づく対人兵器を前に、アデルは精神的な限界を迎える。
「――うわあ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
アデルは怒り任せに、見境なく攻撃を始めた。
***
幸いレイモンとセレストがいる敵の拠点には、黒い光線は降り注がなかった。
攻撃の衝撃波をもろに食らうも、何とか無傷で済んでいた。
それは、グエッラ側も同じだった。
レイモンが恐る恐る戦場を見ると、数え切れないほどの人間の亡骸が転がっていた。
数は全体の2割、3割……
いや、下手すると半数を超えているかもしれない。
あまりもの光景に、レイモンは青ざめていた。
レイモンと一緒に、少し離れたところにいたセレストも心あらずの状態だった。
目の前の光景が信じられず、全く状況が読み込めない。
「ふっ、餞別だ。
貴様には特別に教えてやろう」
セレストは虚ろな顔で、ゆっくりと後ろを向いた。
そこには、彼の反応を見て満足そうなステファノが傘をさして立っていた。
「PLUTO-0001の光線は、照射された生命体を停止させる。
それは動きだけでなく、呼吸、鼓動、化学反応……何もかもだ。
その状態が30秒ほど続けば、生物は本来の生命活動を再開できなくなる。
要は機械の主電源を無理やり止め、再起動しても元の状態に戻らないのと同じだ」
ステファノは次々と立ち上がる配下達の間を縫うように歩き始めた。
そして少し皆よりも高い位置で立ち止まり、高らかに宣言する。
「聞け! グエッラの兵達よ!
PLUTOは我々の期待通り、敵を絶望へと突き落とした!
我はここに宣言しよう!
此度の戦いは、我々の大勝利である!
そしてこの成果は、我々が目指す『平和』への礎となるだろう!!」
「――うおぉぉぉぉ!!!」
グエッラの兵士達は、喜びの雄叫びを上げた。
そして我らが君主と一緒に、右手を高く上げ勝利を分かち合う。
その姿は、皆輝いて見えた。
セレストはその様子を見て、肩を震わせ始めた。
同時に自然と刀を握る手に力が入り、刀身も振るえだす。
やがて息が荒くなっていき、恐ろしい形相で歯をギシギシと鳴らした。
「――ステファノォォォォォォ!!!!」
セレストは悲痛な叫びをあげながら、彼女に向かって走り始めた。
そして感情のままに刀を大きく振りかざす。
しかしあと一歩のところで、ビアンキが2人の間に入った。
そしてセレストが反応する間もなく、双剣で2つの弧を描く。
「がっ――!?」
セレストは胸に十字を深く刻まれ、鮮血が飛び散った。
冷静さを欠いていたせいで、防御も何もない状態だった。
攻撃無効化の魔術を起動するのさえ忘れるほどに。
彼は斬られた衝動で、刀を手放して後方に飛ばされる。
「セレスト!?」
レイモンは我に返り、一目散に駆け出した。
そして重傷を負ったセレストを受け止めるや否や、ビアンキに思いっきり蹴飛ばされた。
「あ――」
2人は崖の外に投げ出された。
レイモンがそれを理解したのと同時に、下へと落下を始める。
そして成す術がないまま、レイモンとセレストは崖下の川に消えていった。




