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67話 止めろ

 アンギレーリは自分が撃たれたことに気付かないまま事切れ、その場に倒れた。

 周囲の部下達は一瞬何が起きたのか読み込めず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 しかし彼の頭の下から地面に血が広がっていくのを見て、やっとアンギレーリが死んだことを理解する。


「――た、大将!!??」


 部下達は大慌てで彼の亡骸に近づいたが、もう遅い。

 アンギレーリの眉間には既に風穴が空いていたのだから。




 そうしてあわてふためき始めたグエッラを見て、オランドは満足そうに狙撃手に向かって親指を立てた。


「ナイスぅ! ジャッド(ヴァルキュリャ)様!」


 ジャッドは煙を吹く狙撃銃を降ろすと、次にいつでも狙撃できるように弾の装填を始めた。



 ジャッドはオランドが敵を翻弄している間、スコープ越しに指揮官をずっと探していた。

 少し時間がかかったものの、どんどん追い詰められていく内に部隊のリーダーらしき人物が慌てて兵に命令しているのがはっきりと確認できた。

 ジャッドはその様子を見て彼がここを仕切る人物だと確認し、一発撃ったのだ。

 

 そのおかげでグエッラ側は一気に統率が取れなくなり、大混乱に陥っている。

 またとないチャンスだ。



 オランドは迷わず、2本目の鏑矢を放った。

 その音が響き渡ったと同時に、チュテレール軍は再び動き始める。

 敵陣に入り込んでいた陽動チームが、一気に左右へと敵を追いやったのだ。

 

 そして一本の細い道ができたかと思った矢先に、オランドの部隊から一部の兵士が拠点に入り始める。

 彼らは第14部隊の攻撃チームであり、陽動チームと同じくずっと軍の中に紛れ込んでいたのだ。

 そして2つ目の合図があった今、チームは本来の目的のために行動を始めたのだ。




 攻撃チームが防御網を難なく突破すると、灰色の長髪の兵士が雄叫びを上げて前へ出た。


「うおぉぉぉぉぉ!!!」


 セレストは解き放たれた野獣のように、一直線に敵の中枢に向かって走り出す。

 グエッラは大慌てで彼の目の前に躍り出るが、彼の闘志を底上げするだけだった。

 セレストは一切スピードを緩めず、機械人間問わず邪魔な敵を一振りで蹴散らし始めた。

 せっかく作った攻撃チームが役に立っていないほどに。



 その後ろからレイモンは全力で追いかけたが、追いつける気配がない。

 むしろどんどん差が開いている。


(うそ……本気のアデル並みの勢いじゃん、コレ!

 うっぷんが溜まっていたとはいえ、セレスト強すぎでしょ!?

 それをずっと隠していたのかよ!?)


 そう思っている間も、セレストはチームを置いて一人で突き進んでいる。

 よく耳を澄ませると、彼が発している声は叫びではなくなっていた。

 ……笑っている。


「アハハハッ……!

 アハハハハハハ!!!」


 あれは喜びではなく、狂った笑い方だ。

 確実に自分の感情が制御できなくなっている。

 一刻も早く敵の新兵器を壊さないとと切羽詰まりすぎて、タガが外れてしまったらしい。


 今彼を止めるわけにはいかないが、全部終わった後にどうなるか分かったもんじゃない。

 レイモンは無意識に、生唾を飲みながら剣を強く握りしめた。






 セレストは難なくPLUTO-0001とステファノ達がいる中枢にたどり着いてしまった。

 彼は最後の防御を勢いよく突き破り、ビアンキとステファノの前に躍り出た。

 2人が驚いてセレストを凝視しているのをよそに、彼はすぐ近くにあるPLUTOを視界に収める。


 兵器は既に修理が完了しており、再び魔力の充填が開始されていた。

 技術師たちが大慌てで話している内容から察するに、もう95%まで完了しているようだ。


 だがここまでだ。

 セレストは不気味に満面の笑みを浮かべたかと思うと、一切迷わず大きな斬撃を放った。


「ビアンキ」


 ステファノが冷静に言い放った瞬間、双剣を持ったビアンキが兵器の前に立ちはだかった。

 そして防御の態勢をとると、全力でセレストの攻撃を受け止める。


「ぐっ……! おっも!!

 ――あぁぁぁぁぁあ!!!」


 ビアンキは腹から叫んだかと思うと、飛ばされた斬撃の軌道を変えた。

 彼はその衝動で仰け反ってしまったが、何もない方向にセレストの攻撃は行ってしまう。




 セレストは周囲の空気を凍てつかすような、凄まじい殺気と憤怒を露わにした。

 そして今度はPLUTOに急接近し、刀で直接破壊を試みる。


「させるかぁぁぁ!!!」


 ビアンキは体勢をすぐに整えて、セレストの前に立ちはだかった。

 そして剣を振り下ろし、相手の進行を封じた。



 セレストは何も言わない。

 ただ睨みながら、敵を斬ろうと躍起になっていた。

 だが彼がみているのはビアンキではない。

 奥の禍々しい兵器だ。


「――SOL-1987、2714!」


 ビアンキは近くの対人兵器に指示を出した。

 すると2体の兵器がセレストに駆け寄り、1対3の構成を作る。

 しかしセレストは難なく、2体の兵器の首を刎ねた。


「っ!? 2013、2026、2514!!」


 一瞬だけ驚くも、ビアンキは再度兵器を呼び寄せた。

 セレストもさっきと同じように、すぐにそれらの機能を停止させる。

 そしてビアンキはまた兵器を呼ぶというサイクルが出来上がっていた。



 2人の死闘を眺めていたステファノは、一切取り乱さずに技術師に声を掛けた。


「今の進捗は?」


「は、はい! チャージ率98%です!」


「……」


 ステファノは椅子に座ったまま、頬杖をついた。

 既にPLUTO-0001の先端には、今すぐはじけそうな黒くて大きな光の塊ができている。

 魔術に疎い彼女でも、少し気分が悪くなるような魔力の波動が漏れ出ている。

 ビアンキがここを耐えられるかどうかが、この戦いの全てを握っているのは明らかだった。



 しかしセレストの方が一枚上手だった。

 彼が周囲の対人兵器を屠った際に放たれた斬撃が、PLUTOの外付けの機械に命中してしまったのだ。

 機械からは火花が飛び散っており、機械の稼働音が消えてしまう。


「――魔力装填器、完全に破壊されました!

 現在のチャージ率は99%……完了しておりません!!」


 技術師は顔を真っ青にして周囲に事実を述べた。

 ビアンキは舌打ちをしながらも、セレストの猛攻に抗うのに手一杯だった。

 横目で現場をちらっと見ると、どうにかして直そうと試みているようだ。

 本当は指示出しをしたいがそれどころではなく、ただ下唇を強く噛むしかなかった。




 その時、ステファノが突然立ち上がった。

 彼女は配下がかざしてくれていた傘を奪い取ると、ゆっくりとPLUTOに向かって歩み寄る。

 グエッラの兵士はその意図を理解できなかったが、セレストは全てを察した。


「……止めろ」


 セレストは声を震わせながら呟いた。

 しかしステファノは一切気にせず、黒い兵器の真横に立ち止まった。

 セレストは血の気が引いた顔で刀を構え直し、ステファノに近づこうとした。

 だがそれをビアンキが止める。


「……止めろ、止めろ止めろ!」


 半ば叫びのようなセレストの訴えを聞くことなく、ステファノは兵器に触れた。

 そして自分の魔力を流し、光の弾を飽和させる。


「チャージ率、100%です!」


 技術師がそう言うと、ステファノはその人の方を向いた。


「――撃て」


「やめろぉぉぉぉぉ!!!」


 セレストの大きな悲鳴は届くことなく、技術師はレバーを引いた。

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