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65話 腐ってもチュテレールの兵士

 ビアンキが感じた違和感は、アンギレーリにも伝えられた。

 彼がそれを聞いたとき思わず敵軍を覗き見したが、やはり馬に乗った指揮官が前に立っている。

 彼は思わず、拳を強く握りしめた。


「……銃撃チーム、構え」


 アンギレーリが短くそれだけいうと、銃を装備された対人兵器が一斉に前に出る。

 そして銃口を敵に向け、射程範囲内に入るまでじっと待っていた。



 オランドは突然、何処かに隠し持っていた弓を手にした。

 次に矢を取り出し、前方に向かって名一杯引き始める。


「……アイツ、何をする気だ?」


 アンギレーリがそう呟いたのと同時に、オランドは矢先を空に向けた。

 そして彼が遠目でもわかるほどニヤリと笑ったかと思うと、空高くに1本だけ射る。

 それはきれいな放物線を描きながら、防衛部隊の前衛に向かってくる。


 あんな軌道では、的に当てることなんざできない。

 確かに矢は放ち方次第で銃よりも射程距離は伸びるが、当たらなければ無意味だろう。


「血迷ったのか? それとも何か裏が――」


 アンギレーリが独り言を呟いている間も、矢は部隊の中へと落ちていく。

 やがてヒューと言う空を切る音と共に、地面に刺さった。



 その時だ。

 矢から急にビリビリと空気を割る音が聞こえてきた。

 それは徐々に大きくなり、はじけたように周囲に雷をまき散らし始めた。


 「ぎやぁぁぁぁぁ!!」


 雷は周囲の兵器と一緒に、部隊の後方にいた人間にも当たった。

 しばらく激しい光と共にバキバキと嫌な音が鳴り響いた後、徐々に落ち着き始める。

 アンギレーリが反射的に閉じていた目を開けると、円形に黒く焦げた跡ができていた。

 その中には数多もの兵器と兵士が転がっており、嫌なにおいが漂ってくる。


「やられた……付与魔術か!」


 アンギレーリは眉間にしわを寄せ、頭を抱えた。




 付与魔術。

 それは武器などに他の魔術を纏わせ、通常とは異なる方法で発動させることができる魔術だ。

 付与した魔術を起動するための条件は、付与対象が何かに当たること。

 オランドはこの魔術を、刻印として体に刻んでいたのだ。

 そして放った矢に雷魔術を付与させることで、爆弾のような芸当を成しえたというわけだ。


「だが魔導書なしに雷魔術を付与できないはず……!

 一体どこに魔法陣を仕込んでいる!?

 っ!? まさか――」


 よく見るとオランドは白い手袋をはめている。

 本来なら射撃の邪魔になるはずなのにだ。

 だとしたら考えられることは1つ。

 手袋に魔法陣が描かれているとしか考えられない。



 オランドの矢が着弾したのを皮切りに、チュテレール軍は勢いよく前進を始めた。

 慌てて生き残ったグエッラ兵が構えるも、攻撃が届かない場所からオランドは攻撃を続けた。

 一気に何本の矢を射られることはないものの、事前に矢の落下地点から離れる以外の対処方法がない。

 おかげさまで部隊はたった一人のせいで大混乱だ。


(まずい……あの攻撃を阻止する手段がない!

 このままだと敵の勢いに飲まれる!)


 敵兵は距離を詰めようとしないオランドを追い越し、もう目前まで迫っている。

 銃で進撃を阻止しようとも、それは止まることはない。

 こうして、オランドが率いる兵はグエッラの拠点の防御部隊と衝突した。


「策士とはいえ、相手は軍事大国チュテレールの軍人。

 考えてみれば戦闘力が高くてもおかしくない、か……

 はは、これは盲点だった」


 アンギレーリは呆れ返って、逆に笑みを浮かべるしかなかった。




***




 遠くからオランドの暴れっぷりを見ていたビアンキも、驚きのあまり絶句していた。

 だがすぐに我に返り、PLUTO-0001の操作を行っている技術者に向かって大声を出す。


「おい! 今どれくらい進んだ!?」


「現在魔力チャージ72%です!

 敵がこちらに辿り着くまでには完了します!」


「ならいいが、できるだけ急げ!」


 技術者は慌ただしく敬礼すると、すぐに自分の持ち場へと戻った。


 いきなりここまで追い込まれるのは想定外だった。

 あのオランドのことだから、下手するとまだ何か手札を持っているかもしれない。

 しかしあの状態では、彼を止めるのに全力を注がなければ防御網を突破されかねない。

 完全に、相手の掌の上だ。



 急に横から、ステファノがぼそっと囁いた。


「……チュテレールの奴、色々と察し始めておるぞ」


 釣られて戦場を見ると、敵兵はなるべく屋根のある場所にいるように動き始めているのが分かった。

 どうやらこちらの兵の動きから、そこが安全なのだと理解してしまったらしい。

 だとしたら、想像以上に残された時間は限られている可能性がある。

 このままではまずい。


 焦燥を隠せないビアンキを見て、ステファノは真顔で少し考え込んだ。


「……兵に伝えよ。

 可能な限り遮蔽物は壊せと」


「――!? 陛下、それではこちらも兵器の的になりかねません!」


 ビアンキは反射的に反論してしまった。

 だがステファノは彼の無礼を咎めることなく、ただ冷徹に話を続けた。


「兵士を戦場に立たせている以上、PLUTOの餌食になる同胞がいることは致し方あるまい。

 無論、全てを破壊しろとは言わぬ。

 己の身の安全を考慮しつつ、敵が潜伏できる場所を減らすのだ」


「っ……承知、致しました」


 彼女の言っていることは正しい。

 実際、新兵器によってこちらの兵が巻き込まれるのは既に想定済みだ。

 残酷ではあるが、今は可能な限り敵を多く屠ることに従事したほうがいい。

 そのための犠牲は、払うに値する。


 ビアンキは苦痛な顔をしながら、ステファノの命令を部下に伝達した。




 そんなとき、技術者の一人がビアンキの方を向いた。


「チャージ率、80%に達しました!

 今から放出準備を始めます!」


「――やれ!!」


 彼の合図と一緒に、技術者は操作台のレバーの1つを引いた。

 すると兵器は聞いたことのない不快な音を立てながら、先端に小さな黒い光の塊を形成し始めた。


 

 しかしそれが少し大きくなったと思った瞬間。

 急に光の玉は萎み、機械の稼動音が小さくなっていった。


「……おい、どうなっている!?」


「た、直ちに原因を確認します!」


 技術者は総出で機械の点検を始めた。

 それから間もなく、誰かが声を上げた。


「――メインケーブルが断線しています!

 何者かに切られたようです!」


「はぁぁぁ!? 何故!? 誰がやりやがった!?」


 ビアンキは歯を食いしばり、ぎりぎりと嫌な音を立てた。

 しかし直ぐに気持ちを切り替え、やるべきことの優先順位をたてる。


「直せるのか!?」

 

「は、はい! 予備のケーブルにつなぎ直せば……」


「だったらとっととやれ!

 時間はもうないぞ!!」


 ビアンキの焦りは向こうにも伝わったらしく、技術者は大慌てでケーブルのつなぎ直しを始めた。

 それを横目で見ていたステファノは、感情を表に出すことはなかった。


(ふふっ……これは想像以上に激戦となりそうだ。

 チュテレール、来るなら来るといい。

 我はここで逃げも隠れもせず、期待しながら待っておるぞ)

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