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64話 不穏な動き

 開戦とともに、チュテレール軍はさらに全方向に散った。

 そして敵とぶつかり刃を交え始めるも、一向にどこかにまとまる気配はない。

 グエッラ側が意図的に取り囲んでもだ。


 にも関わらず、軍としての統率は取れていた。

 もちろんそれは各指揮官の采配によるところも大きいが、元々情報伝達の速さはエベールの専売特許でもあった。

 彼女は必ず事前に軍の情報網を綿密に練り、例え全体が危機に晒されても情報が行き渡るようにすることができた。

 それ故、たとえバラバラに散ったとしても指示伝達は隅々まで行き渡る。

 だからこそ、軍の細分化という案は飲まれたのだ。




 そんな中、レイモンは皆と同じように敵兵器を壊し続けていた。


「はぁぁぁぁぁ!!」


 自分に向かってきていた最後の一体を破壊した時、近くにいたセレストの不満が爆発した。


「おい! 俺達はメイン拠点に向かわないとだろ!?

 こんな所でちまちま雑魚屠ってどーすんだよ!?」


 口調とともに、彼の刀の軌道はかなり荒々しかった。

 攻撃チームに配属された以上、一刻も早く敵の拠点に向かいたい気持ちはわかる。

 でも、ここはぐっと堪えなくては。


「我慢しろ、セレスト!

 今突っ込んだってただ格好の餌食になるだけだ!」


「あ゙ぁぁぁぁぁ!!! それくらい分かるわ!!

 でもイライラすんだよ! 畜生!!」


 セレストは当たり散らすように、敵兵に刃を向け続けた。

 その気迫は凄まじく、周囲にいた仲間達でさえ度肝を抜かれるほどだ。

 しかし一応我慢は出来ているから、良しとしよう。


(とにかく()()()()まで待たないと。

 その間に死んだら元も子もない!)


 レイモンは剣を強く握りしめて、暴走機関車の如く戦うセレストの後を追った。




 そんな時、セレストが急ブレーキをかけた。

 何事かとレイモンが首を傾げていると、崩れて積もっている石壁の方をぎろっと睨む。


「……見っけ」


 そう言った矢先、彼は黄金の刀を大きく振って斬撃を飛ばした。

 それが石壁にぶつかった途端、複数人の悲鳴が聞こえてきた。

 どうやら人間の敵兵がそこに潜んでいたらしい。


「マジか……よくわかったな、セレスト」


「ここにいる敵兵は、どこか屋根のある隠れ場所に隠れている。

 多分兵器の特性上、そこが最も安全なんだろうな。

 気付かなかったのか?」


「――えっ!? そゆことは早く言えよ!!」


 レイモンは近くにいた伝達係の兵にセレストが言ったことを伝えた。

 もし彼の推測が正しければ、屋根のある場所に行けば新兵器の攻撃から逃れられるかもしれない。

 真偽はともかく、大きな収穫だ。




***




 その頃、ビアンキは慌しく部下に命令を下していた。


「敵の誘導作戦は!?」


「だめです元帥、敵は1か所に固まるのを断固拒絶しています!」


「ちっ! なら仕方ない、このままで行こう。

 ……そっちのお前、PLUTOの準備は!?」


「はっ! 只今配備がすべて完了しました!

 これから魔力の充填を開始します!」


「よし、予定通りだな。

 だがなるべく巻きで行け!

 急ぐことに越したことはないだろう!」


「了解しました!」


 テキパキと任務をこなすビアンキを横目に、突然ステファノが鼻で笑った。


「貴様、こんなところに留まってよいのか?

 元帥らしく、現場に向かうべきなのではないか?」


 一瞬、ビアンキの動きが止まった。

 彼女の指摘が、とても的を得ているのが分かっていたようだ。

 しかしすぐに諦めたかのように頭を抱え、弱々しく呟く。


「本当はジャコモにあなたの護衛を任せたかったのですが……

 当の本人が今使い物にならないので、仕方なく俺がここにいるわけです」


「ふん、律儀な奴め」


 そう言ってステファノは、椅子の上で肘をついて戦場を眺めた。




 開戦から約5分後。

 ステファノは、チュテレール軍の不思議な動きに目が留まった。

 最初は気のせいかと思っていたが、それが大きくなるにつれ無意識に不気味な笑いを浮かべ始める。


「……ビアンキ、始まったぞ」


「は? それは一体……」


 ステファノは戦場をステッキで指し示し、ビアンキに見るように促した。

 不思議そうに言われた通りに眺めていると、数多ある敵のグループの中に異様な動きをしているものがあった。

 それは他のグループが切り拓いた道を辿って次第にこちらに向かってきており、少しずつまとまって部隊を形成し始めている。

 それが一体何を指し示しているのか、すぐにビアンキは理解した。


「防衛部隊に伝えろ!

 間もなく敵がこちらに来る!

 臨戦態勢を敷け!」


「はい!」


「それから敵の指揮官を調べろ!

 ああして統率が取れている以上、誰かしらいるはずだ!」


「かしこまりました、元帥!」


 ビアンキは2人の部下に指示を出した。

 彼もエベールと同様、情報の扱いが上手い。

 しかしそれは軍内部の情報伝達ではなく、徹底した管理と収集力によるものだ。

 そのため彼は、チュテレールの将官全員の特性を熟知している。

 相手が誰なのか知れれば、その人に応じた対処を柔軟に行うことが可能なのだ。


「ここまで忠義を尽くすのは愚の骨頂だぞ、ビアンキ。

 敵が攻めてくる以上、貴様が前線に立たないでどうする?」


「おっしゃるとおりですが、殿下。

 防衛部隊を任せているのは、俺の右腕であるアンギレーリ大将です。

 経験も豊富で俺の後釜として期待を寄せられている人物ですから、ご心配なく」


「……」


 ステファノはそれ以上何も言わなかった。

 部下の頭の固さに呆れたのか、それとも問題なしと判断したのか。

 彼女の考えはわからなかったが、ビアンキはそのまま護衛役に徹することにした。




 崖の上からだと、数千の部隊が戦場で編成されていくのがよく見える。

 それは猛スピードで前進し、あと数分でグエッラの拠点の防衛部隊に衝突しそうな勢いだ。

 その様子を固唾を飲んで眺めていると、先程調査を命じた兵士が大慌てで駆け寄ってきた。


「元帥殿! 敵の指揮官が判明しました!

 ――マルク・オランド少将です!」


「っ!? いっちばん厄介なやつが来たな!」


 ビアンキが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ステファノの視線を感じた。

 振り返ると彼女は「そいつは誰だ?」といった様子でこちらを見つめている。

 歯ぎしりをしながら彼は、渋々知っている情報を共有した。


「……マルク・オランド、通称スローロリス。

 チュテレールの中で最も頭が切れるとされる策略家です。

 以前のイニーツィオの戦いでも、彼のおかげで相手が勝利を収めたと言っても過言ではありません。

 おい! その情報は確かなんだろうな!」


「はい!

 先の戦いに参加したものが、彼が先頭にいると言っているので間違いありません!」


 ビアンキは大きく舌打ちした。

 しかし、ある違和感に気づいた。

 それは半信半疑で部下の言葉をよく噛み砕くと、徐々に大きくなっていく。


「……お前、『オランドが先頭に立っている』と言ったか?」


「え? あ、はい、そうですが……」


 一気に血の気が引いた。

 普段なら後方にいる策士が、今回我先にと部隊を率いている。

 これは彼らしい行動ではない。

 嫌な予感がする。

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