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63話 希望のない戦い

 12月の真っ只中、世間ではクリスマスと呼ばれる時期。

 テアトロの地には数えきれないほどの兵士が集まっていた。



 チュテレール軍はおよそ10万。

 将官以上の指揮官は12人おり、その中には総司令官も含まれている。

 これはチュテレールの歴史上指折りの軍の規模であり、この国の最高戦力と言ってもいいだろう。

 彼らは今、遺跡の残骸をうまく利用し四方八方に散らばった状態で待機している。


 一方のグエッラ軍の兵士は3万少ししか居ない。

 だがそれは、あくまで人間の数。

 対人用兵器を含めると、敵軍と引けを取らない戦力だ。


 彼らは今、自分のメイン拠点の真正面に分厚い壁のように待機していた。


「……ちっ、チュテレールめ。

 こちらが新兵器を使うのを察しやがったな」


 グエッラ軍のトップ、ビアンキ元帥は親指の爪を噛んでいた。



 数日前に敵兵が忍び込んでいたという情報を受けていた時からまさかと思ったが、流石だ。

 相手には頭がバカみたいに切れる輩が何人もいる。

 極力兵器のことは外にもれないよう努力していたが、少ない情報から推測してしまったらしい。

 そんなことを考えていると、女性の声が耳に入った。


「だが配置から察するに、アレの特徴は一切分かっていないのだろう。

 均等な兵の配置……ふっ、未知への対抗策としては最適な手段よ。

 貴様の情報管理能力は素晴らしいものだ、元帥の座につかせて正解だったな」


「す、ステファノ様!

 これは……お褒めに預かり光栄です」


 ビアンキが頭を下げる先からは、配下が指した傘の下を歩くグエッラの君主の姿があった。

 彼女はアルビノで日光に弱いため、全身真っ黒な服で覆われている。

 まるで喪服を来た王子のように。


「お加減の方は問題ありませんか?

 ご到着なされた際は持病で咳き込まれておりましたが」


「ふん、心配にも及ばぬ。

 数日寝ればこれくらい治るわ。

 それより、準備は出来ているんだろうな?」


「はっ、抜かりなく。

 予定通りの時間に充填が開始されます。

 チャージが完了しましたら、お好きなタイミングで号令をお掛けください」


 ステファノは満足そうに鼻で笑うと、ビアンキが用意した椅子に腰掛けた。

 

 彼らのすぐ目の前には、黒くて巨大な兵器PLUTO-0001が置かれていた。

 大きさは3メートルほどで、いくつものケーブルが剥き出しになっておりかなり禍々しい。

 しかも飛び出している円錐形の先端は空に向けられていて、何かが飛び出そうな勢いだ。

 その下で何人もの兵士や技術者達が忙しなく行き来しており、着々と発射準備が進められていた。

 

 ステファノは傘の下から満足そうにそれを眺めた後、戦場を一望した。


「……防御を固めろ。

 兵器の存在を知っているなら、確実に阻止してくるはずだ。

 どんな奇襲を受けても対応できるようにしろ」


「はっ! 直ちに!」


 ビアンキは自身がいる崖の高台と兵器のある場所の守りを固めるように、部下へ指示を出した。

 その時、ある人物がこの場所にいないことに気づく。

 どんなに見渡しても見当たらないので、近くて暇そうにしている部下を呼び寄せた。


「おい、ジャコモはどうした?」


「えっと、それが……

 昨日お酒を飲みすぎたようで、二日酔いで寝込んでいます」


「――!? あのバカタレがぁぁぁぁ!!」


 ビアンキは大絶叫しながら、自分の頭を掻きむしり始めた。

 その様子を横目で見ていたステファノは、呆れて大きな溜息を漏らした。




***




 その頃、エベール総司令官は一通の手紙を見て複雑な顔をしていた。

 差出人はガルニエ、諜報部のトップだ。


「『兵器は広範囲の大規模攻撃が可能。配備場所は本軍拠点の中枢』……

 最悪、一番厄介なパターンだわ」


 今回オランドの進言で今の兵の配置が決まったが、やはり最適解だったようだ。

 それに予想はしていたが、兵器は一番守りの固い場所にあるらしい。

 悪い情報とはいえ、ギリギリまで粘って調べてくれたガルニエに感謝するしかなかった。


「総司令官、いかがいたしましょう?

 今なら兵の再配置は可能ですが」


 確かに欲しい情報が手に入った今なら、作戦を組み直すことは可能だ。

 でも、どうやって?

 攻撃の範囲が広い以上、固まる方が愚策であるのが確定した。

 それに今ある情報は必要最低限しかない。

 本当ならもう少し詳しく知りたいところだ。


「……いいえ、このままで行きましょう。

 とにかく固まらないで、敵陣に向かって。

 それと突入部隊の調査チームも予定通り調査をお願いして。

 もちろん、この情報は軍全体に知らせるように」


「承知!」


「それと開戦時間を早めるって伝えて。

 一秒でも相手に時間を与えるわけにはいかない。

 準備が完了したらすぐに突入する」


「……っ!? は、はい!」


 伝達係の兵士が走り去るのを見送ると、エベールは近くに置いていた大剣を手にした。

 そしてそれを背負うと、敵の本陣をまっすぐ見据える。


(マルク、今回はあなたに全てを託すわ。

 あなたは責任を負うのをとても嫌うけど、やるときはやり遂げるって信じている。

 だからお願い、どうか必ず兵器の稼働を阻止して)


 エベールは深く深呼吸して、全てを受け入れ自ら前線に立つ覚悟を決めた。

 そして遠くて見えない敵に対して、小さく宣戦布告する。


「この戦いの勝敗は、全て敵兵器に掛かっている……

 チュテレールの総司令官として、必ずあなた達の出鼻をくじいてあげる。

 首を洗って待っていなさい……!」


 それから間もなく、戦闘開始のホラ貝の音が戦場に鳴り響いた。

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