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58話 追い詰められた狂戦士

 レイモンたちは1時間近く走った末に、何とかチュテレール本軍の野営地付近まで戻ってくることに成功した。

 全員その場で息を切らして倒れる中、ヴェロニックは五感を研ぎ澄まして周囲の気配を探った。


「……敵は居ない。

 逃げ切れたみたい」


 その瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。

 一時はどうなることかと思ったが、無事にみんな帰ることができた。

 しかも収穫付きで。



 突然、セレストがヴェロニックと対峙した。


「さて、落ち着いたことだしそろそろ教えろ。

 どんな情報を入手した?」


 威圧するような態度はともかく、レイモンとしてもそこは気になるところだ。

 ヴェロニックは頭を整理するためか、少し黙り込んだ。

 しかし間もなくボソッと漏らす。


「……グエッラの君主が来てる。

 何か実験したあとに、勝利宣言するらしい」


「――!」


 空気が冷たくなった。

 誰も何も言わない。

 言葉を絞り出せない。

 

 その代わり、血の気が引くのが分かる。

 皆、唖然として真っ青だ。

 それ程、彼女の短い情報は強烈だった。




 レイモンでも、事の深刻さがよく分かった。

 敵のトップ二人が揃った状態での実験。

 しかも相手は技術大国。

 であれば一番可能性が高いのは――


「……新兵器の、試運転?」


 無意識にレイモンは呟いていた。

 もしそうだとしたら、国の全てを注いでいるはずだ。

 どんな被害が出るかなど想像もできない。

 違っていたとしても、それと同等の絶望的な何かが裏で蠢いているのは確かだ。





 そんな中、セレストが目を見開いたまま頭を掻きむしり始めた。


「……あ……あぁ…………」


 彼の声は、どこか空虚でありながら熱を帯びていた。

 目の焦点も合っておらず、発狂しかけている。

 レイモンがぎょっとして見ていると、その状態でうわ言を発し始めた。


「始まる……始まってしまう……

 あれが……滅亡、大戦が…………

 施設は壊した、なのに……何で……?

 もう……手遅れだったのか……?

 だったら……僕は一体……何ために、大事なものを捨てたんだ……?

 う……あぁ…………!」


 彼は支離滅裂なことを言ったかと思うと、髪の毛を強く引っ張り始めた。

 しかし感情が爆発することなく、脱力して空を眺める。

 3人に見守られる中、半ば放心状態のセレストは再び消えるような声で言葉を漏らした。


「……ころさ……ないと…………」


 セレストはガクッと項垂れた矢先、突然背中にある刀を勢い良く握った。

 そして重力に任せるように引き抜いた後、おぼつかない足で一歩前へと出る。



 彼の様子を見たレイモンとナタンは、大慌てで道を塞いだ。


「ま、待ってくれ! 一体どこに行くつもりなんだ!?」


 ナタンが声を荒らげると、セレストは俯いたまま目線だけ上げた。

 その恐ろしい顔を見て、その場にいた全員の肩が一瞬跳ねた。


「ころす……てきを……

 ひとり、のこらず……ぜんぶ…………」


 反射的にレイモンは叫んだ。


「無謀だ! お前がいくら強くても限界がある!

 一人で1万越えの兵の相手なんてできるはずないだろ!

 目を覚ませ、セレスト!」


「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!!」


 セレストは急に体を起こしたかと思うと、鬼の形相で刀をレイモンに向けた。

 レイモンは驚いて、無意識に剣を構えた。

 ヴェロニックもナタンも、レイモンと一緒に臨戦態勢を敷いている。


「お前にぃ、一っ体なにが分かるって言うんだよぉぉぉ!!

 僕はぁ! ぜぇんぶ! 犠牲にしてぇ! 全部のぉ! 可能性をぉ! 排除したんだよぉ!!

 なのにぃ! 何でぇ! こうなるんだよぉぉ!?」


 あまりもの狂気っぷりに、思わずレイモン達は一歩後ろに引いた。


 彼の声のトーンは異常だった。

 酔っぱらっていて呂律が回っていないのと違う。


 イントネーションがおかしいのだ。

 声の抑揚の仕方が不自然で、明らかに正常ではない。

 それに加え体がずっと左右に揺れ、目もずっと泳いでいる。




 セレストは涙目になりながら、何かに縋るような表情を見せた。

 

「なぁ……お前も僕のぉ邪魔をするのかぁ?

 僕の行動がぁ、どんな利益をぉもたらすぅのか、わかってぇるのか!?

 お前も……お前もぉ! 僕にぃ殺されたいのかぁ!?

 い、いひひ……なぁなぁ!? お前たちはぁ、どこまでぇ、僕を追い詰めれぇば気が済むんだよぉぉぉ!!??」


「……っ」


 痛々しすぎる。

 初めて知った、彼がここまで一人で何かを背負い込んでいるなんて。

 

 しかもまだ完全には壊れていない。

 言っていることを慎重に噛み砕くと、全部意味を理解できてしまうのだ。

 それが余計に心にくる。


 レイモンは心臓を掴まれるような痛みに襲われながらも、震える剣先を必死に抑え込んだ。


「……僕はお前と戦うつもりはない。

 でも、少し冷静になってくれ!

 確かに僕達は不利だし、生きて帰れるかも分からない!」


 セレストはレイモンから目を離さなかった。

 相変わらず刀を向けているが、確実にレイモンの話に耳を傾けている。

 ナタンとヴェロニックに見守られるような形で、レイモンは続けた。


「だけど、まだ方法はあるはずだ!

 そうだ……戦いのどさくさに紛れて、敵の拠点に突入しよう!

 それで兵器を壊して、相手の策略を阻止しよう!」


 ただの思いつきで提案したため、作戦も何もなかった。

 しかし、これ以外の妙案を導き出すことはできない。

 レイモンは他の2人と一緒に、セレストの反応を固唾を飲んで伺った。




 セレストはほんの少しだけ、刀を下げた。

 だが何を思ったのか、再び恐ろしい顔をしたかと思うとまた武器を構える。


「……遅い」


「えっ?」


 反射的にレイモンが聞き返すと、セレストの感情がまた爆発した。


「それじゃあ遅すぎる!!

 それで失敗したら、どうするつもりなんだよ!?

 もしこの戦いに負けたら、僕達は――」


 その時だった。

 突然空を切る音がしたかと思うと、セレストの首筋に何かが刺さった。

 その正体は……麻酔銃の弾だった。


「っ!? あ…………」


 セレストは糸が切れたかのように刀を落とした。

 そしてそのままなす術なく地面に倒れ込み、ゆっくりと意識を手放す。

 レイモンたちは口をあんぐりと開けたまま、彼が眠るのをただ見ていた。



「――3人とも、大丈夫!?」


 振り返ると、森の奥からジャッドとアデルがこちらに駆け寄って来る姿が見えた。

 ジャッドの手には、先程撃ったと思われる麻酔銃が握られている。


「向こうで休んでいたら、急にセレストの叫び声が聞こえてきて……

 大慌てで来たら、彼の様子がおかしかったから撃ったんだけど、最悪の事態にならなくて良かった」


 レイモンたちは思わずその場で脱力した。

 あのままでは、本当に殺し合いになるところだった。

 彼女の機転に感謝せざるを得なかった。


「おい、この阿呆を運ぶのを手伝え。

 ここでうだうだしても無意味だ、戻ったら一部始終を教えろ」


 アデルに促されるように、レイモンはセレストを担いだ。

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