57話 グエッラの狙い
レイモン達は足音を必死に押し殺しながら、グエッラの兵士が夕食を摂りに集まっている場所の近くまで来た。
幸い兵士達は隠れやすい茂みの近くにたむろしていたため、近寄るのはそこまで難しくなかった。
でも、会話が聞こえるまでの距離を詰めるのは流石に厳しい。
ヴェロニックは3人にギリギリ聞こえるくらいの声量で、口を開いた。
「……ウチが聞きにいく。
あなた達はここで待機。
万が一の時は任せる」
セレストは明らかに不服な顔をしたが、ヴェロニックに睨まれたことで言葉を飲み込んだ。
ここでは、潜伏に長けたヴェロニックだけ行くのが一番だ。
余計に大勢で行ってしまっては、ただ気付かれるだけだろう。
彼女の言う通り、残りのメンバーは万が一バレた時に逃げる手助けをするのが一番だ。
本当は、セレストは自分の耳で敵の情報を手に入れたいはずだ。
しかしヴェロニックの提案が適しているのは分かっている様子。
仕方なく、彼女からのまた聞きで済ませるのを了承したようだ。
レイモン達3人は、その場で息を潜ませた。
それを確認したヴェロニックは、体に刻まれた迷彩魔術を起動させる。
彼女はそうして姿をくらませたまま、気配と音を全て消して敵兵に近づく。
その手腕は、仲間達でも居場所が分からないほどだった。
ヴェロニックは兵士達のいる真後ろの荷物の影に隠れた。
そこで周囲に警戒しつつも、耳をじっくりと澄ませる。
(身内の話ばかり……くだらない)
聞こえてくるのは、ほとんど雑談だった。
自分の奥さんがどうとか、小さい自分の子がハイハイし始めたとか……
聞きたいことは一切話題に上がっていなかった。
(あっちに移動しよう)
ヴェロニックは渋々、潜む場所をもっと奥の方に変えることにした。
再び物陰に隠れてみると、今度は興味深い話が耳に入ってきた。
「そういや、元帥殿はいまどこだ?
いつもならあの人、俺達と一緒に飯食うはずなのに」
「はぁ? お前、知らねえのか?」
2人組の片方が、不思議そうに首を傾けていた。
もう片方の兵士は周囲を少しチラチラと見た後、声を小さくして仕方なく相手に教えた。
「――我々の君主、ステファノ様のお迎えだよ」
(――っ!?)
思わず、声を上げそうだった。
元帥ならまだしも、国のトップが戦場に来るなんてあり得ない。
万が一負けた場合、国自体が滅んでしまう可能性があるからだ。
既に勝利を確信しているから?
いいや、それだけではないだろう。
何か、もっと重大なものがこの戦いでは隠されている――
敵兵はそのまま続けた。
「俺達は下っ端だからよくわかんねぇけど、なんか実験するらしいぜ?
その後、チュテレールに勝利宣言するとか」
「はぁ? なにそれ?」
「さぁな、これ以上はよくわからん。
少なくとも、今回の戦いは面白れぇことになりそうだぜ?」
兵士が笑いあう中、ヴェロニックは冷や汗をかいていた。
(君主、実験、勝利宣言……一体どういうこと!?)
さすがに情報が多すぎて、頭が回らなかった。
一体彼らの言う実験が何を指しているのは分からない。
そこが一番重要なのところだが、軍の秘密事項のようだ。
だとしたら、向こうのトップクラスの人間に対峙しないと無理だ。
悔しいが、今の自分ではこれ以上の情報を収集するのは不可能だろう。
今ある情報から色々憶測するのも、後回しにした方がいい。
ヴェロニックはそっと、その場を後にしようと移動し始めた。
その時ヴェロニックの真隣にあった適当に積まれた荷物が、触れていないも関わらず大きな音を立てて崩れてしまった。
それに驚いた拍子に、誤って魔術を解除してしまう。
「――っ!? 誰だ貴様!!」
まずい。
ヴェロニックは癖で、驚くと魔力を止めてしまうところがあった。
そのせいで今敵陣のど真ん中で姿を晒すという、一番やってはいけない状況に陥った。
(師匠に注意されてたのに……!
急いで逃げないと!)
ヴェロニックは咄嗟に魔術を再起動させ、皆のいる方向へと全力で走った。
しかし冷静さを欠いていたせいで、音と足跡で居場所が隠しきれていなかった。
「敵襲! 敵襲!!」
その場にいた兵士達は武器を持ち、ヴェロニックの真正面に立った。
後ろからは呼び寄せられた他の兵士達が駆け寄る足音が聞こえる。
(人数多過ぎ……!
これじゃ対処できない!)
ヴェロニックは不利を悟りながらも、足を止めることなくナイフを握った。
その時、前方の敵兵の足元に瞬く間に魔法陣が描かれた。
そして彼らが気付く前に巨大な竜巻が発生し、全員を吹き飛ばす。
ナタンが風魔術を使ったのだ。
「……!」
ヴェロニックはそのまま地面を蹴り続けた。
道中兵士に襲われるも、少数だったため持ち前の格闘術で蹴散らすことができた。
そうしているうちに、今度はセレストとレイモンを姿を表す。
「こっち! 早く!!」
2人は道を塞ごうとする兵士達を屠り、彼女の退路をできる限り確保した。
そして声を張り上げて差し出されたレイモンの手を掴み、同時に茂みの中へと入る。
「逃げたぞ! 追え!!」
4人はグエッラの兵にしばらく追われながら、森の中をずっと逃げ回っていた。




