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52話 アデルの説得方法

 ――結論から述べよう。


 レイモンは3回負け、一勝もできなかった。

 それも、話にならないレベルで。



 今まで試した銃や魔術と比べれば、明らかに適正はあった。

 しかし、それはあくまで他と比較した時の話。


 1回目は急展開についていけずに負け、2回目は反撃の隙を付かれて腹蹴り。

 そして3回目は何とか噛り付くも、結局背負い投げされた。

 そのせいで今、レイモンは地べたにくの字に横たわっていた。


「きゅう……」


 レイモンは情けない声を出しながら、落ち込んでいた。


 体格はレイモンの方が有利だったのに、ヴェロニックは隙を突くのが上手かった。

 反撃でできた僅かな隙や防御の穴を絶対に見逃さず、確実にそこを攻めてきた。

 一方レイモンも攻め時を見極めようとするも、一切そのチャンスはなかった。


 彼女は恐らく、そうやって相手の隙にナイフを突き刺して戦っているのだろう。

 そういうことをレイモンは否応でも体感せざるを得なかった。


「……全然ダメ。

 精密さが全くない。

 これじゃあ、ナイフを握った瞬間にやられる。

 扱いを教えるだけ無駄」


「うぅ……

 ヴェロニック、お前に良心はないの……?

 さすがの僕でも立ち直れそうにないんだけどぉ……」


 彼女が冷たいのは知っていた。

 だがここまでド直球に言われるのは、心にくるものがある。

 レイモンが涙目になっているのに気付いたヴェロニックは、あからさまに引いていた。




 そこに助け舟を入れてくれたのは、ずっと2人を見ていたジャッドだった。


「ヴェロニック、少しは励ましの言葉を掛けてあげた方がいいわ。

 彼、かなり粘っていたんだから」


 ヴェロニックはジャッドの方を向いて首を横に振った。


「王女様、甘い。

 彼は多分甘やかしたらダメなタイプ。

 魔術も銃もまともに扱えないし、正直に言わないとダメ」


「へ……? 銃、も……?」


 レイモンは驚きながらジャッドを見た。

 彼女はそれに気がついた途端、汗を額に滲ませながらそっぽを向いた。

 そこで初めて、レイモンは自分に銃の素質がないことを知った。


「――」


 レイモンは雷に打たれたかのような衝撃が、全身に走った。



 いろいろと試してきたのに、そのすべてに適性がなかった。

 ここまで来ると、自分にはそもそも戦闘の素質がないのかと疑ってしまう。


(なら僕は、これ以上強くなれない……?)


 そう考えた瞬間、視界が暗転しそうになった。


「レイモン!? 大丈夫!?

 気をしっかり持って!」


 白目をむきそうになる彼の意識を、ジャッドは必死に繋ぎ止めようとした。

 しかしいくら声を掛けて揺さぶっても、レイモンは戻ってこない。

 どうしようかと考えた矢先、ヴェロニックが突然口を開いた。


「……アデルのところに行った方がいい」


 その瞬間、レイモンは現実に戻ってきた。


「1回、刀を試した方がいい。

 あなたの感じている違和感は、斬撃そのものに対してじゃない気がする。

 もし違ったら、そもそも剣をろくに扱えない。

 アデルは教えるの上手いし、相談に乗ってくれるはず」


 確かに、刀はまだ試したことが無い。

 今扱っている剣に最も近いし、彼女の言う通りかもしれない。


 それにアデルは指導が上手だ。

 この前トレーニングの基礎を教えてもらった時は、説明がとてもうまかった。

 それに的確に改善点を指示してくれるし、ずごく参考になった。




 だがレイモンの顔は、一向に晴れることはなかった。

 アデルの性格が一番大きな問題なのだ。

 頼んで開口一番に発せられるのは、恐らく文句だろう。

 それに前の指導の時は少しパワハラ気味だったし、何度も木刀を投げられた。

 

 そんな彼に頼む勇気など、全く起きなかった。


「確かにヴェロニックの言うとおりね。

 でもアデルは絶対に素直に聞き入れないでしょう」


 ジャッドの発言に、レイモンは全力で肯定の意を示した。

 しかし彼女は、レイモンの目をまっすぐ見つめながら話を続ける。


「だから、1ついいことを教えてあげる。

 もし彼が拒否してきたら、こう言うといいわよ?」


 そうしてジャッドは、嫌がるレイモンに無理やり入り知恵を仕込んだ。




***




「……はぁあ?」

 

 案の定、アデルは物凄く嫌そうな顔をした。


「貴様、自分が何言っているのか分かっているのか?

 剣聖の息子である俺が、お前に刀を教えろと?

 ふざけるのも大概にしろ。

 この前は仕方なく教鞭を取ってやったが、これ以上はごめんだ。

 分かったらとっとと寝ろ」


 土下座をして頼み込むレイモンを、アデルは不快そうに見下した。

 アデルはそのまま寝支度を整えると、頭を挙げない同期を無視してベッドに入ろうとする。


「……何している?

 不愉快だ、早く寝ろ」


 レイモンは床に額を擦りながら、力強く下唇を噛んだ。

 試す前に、ここで足を止めるわけにはいかない。

 こうなったら、ジャッドに言われたことを試すしかない。

 レイモンはさっきの彼女の言葉を頭で反復させながら、ある単語をボソッと呟いた。


「……エクレア」


「は?」


 アデルが思わず反応したのを皮切りに、レイモンは顔を上げた。


「お前の大好きなエクレア、今度外出許可が降りた時に差し入れしてやるから!

 だから僕に刀を教えてくれ!

 他に頼みがあるんたら何でも聞くから!」


「――」


 アデルは絶句していた。

 しばらく顔色を伺っていると、やがてピンク色になったかと思いきや真っ赤に染まった。

 そして眉を吊り上げて、怒りのまま言葉をまくし立てる。


「貴様ぁ! 食べ物で俺を釣ろうなんて良い度胸しているではないか!?

 俺は子供ではない!

 そんな容易く頷くわけがないだろうが!!」


 アデルは部屋全体が震えるくらいの声量を出していた。

 レイモンの耳も痛くなるくらいだ。

 恐らく、隣の部屋まで筒抜けだろう。



 アデルはしばらく息を荒げながら黙り込んだ。

 なんとか自力で気持ちを落ち着かせた後、恐怖で固まっているレイモンをまじまじと見た。

 そして目を逸らし、何か複雑そうに考え込み始める。


「……ディ・メタイユ」


「へ?」


 アデルが発した単語の意味が分からなかった。

 そのレイモンの反応が気に入らなかったのか、彼は再び恐ろしい顔をした。


「ディ・メタイユのエクレアしか、俺は認めないからな!

 分かったらとっとと寝ろ!

 お望み通り、明日からしごいてやる!」


 そういった後、アデルは勢い良く掛け布団の中に潜り込んでしまった。

 どうやらお店を指定されたものの、何とか彼の説得に成功したようだ。

 レイモンはホッとしてお礼を言いかけるも、またあの剣幕でグチグチ言われるのも嫌だったのでやめた。

 そしてそのままレイモンも、ベッドの中に入った。

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