表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/81

51話 ナイフの捌き方

 ナタンの予想通り、レイモンは何日経っても銃をまともに撃つことができなかった。


 原因は、何故か頻発する弾詰まりだ。

 どんなに詰まった弾を出しても、絶対にまた撃てないのだ。

 ジャッドはエアガンを別のものに変えたり、時にはその場で分解して原因を探った。

 引き金の引き方もしっかり確認したし、直前にちゃんと自分で試し撃ちしたりもしていた。



 しかしどんなに試しても、全て無意味だった。

 徹夜して専門書を読み漁っても、詰まる理由は分からずじまい。

 昼食の時間、クマができたジャッドはナタンの前で思わず愚痴を溢していた。


「ここまでジャム……弾詰まりになることは、現実的にあり得ないわ。

 しかも原因すら分からないなんて。

 正直、彼が銃に相当嫌われているとしか思えない。

 完全にお手上げだわ……」


 ジャッドは食事に一切手を付けようとせず、額に手を当てながら大きなため息を漏らした。

 ナタンも無意識に顔が引きつっていた。

 ここまでレイモンに銃のセンスが無いとなると、逆に凄すぎる。


「だったら、他の武器を勧めてみる?」


「それが一番ね。

 でも素直にそれを伝えたら、またショックで動かなくなりそうね。

 何か適当に誤魔化さないと」


 それはごもっともだ。

 ナタンが魔術のセンスがないと直球で言ったときでさえ、魂が抜けたような状態になったのだ。

 ジャッドに同じことを言われれば、最悪気絶しかねない。



 ナタンは腕を組み、唸りながらレイモンに示すべき道を模索した。


「因みに、レイモンは何に適正がありそう?」


「そうね……

 やっぱり、剣に近いものがいいんじゃないかしら?

 例えば刀とか、ナイフとか……」


 ナタンは強くうなずいた。

 レイモンは今のところ、剣が一番向いている。

 今まで魔術とか銃とか全然似つかないものを扱っていたせいで、悲惨なことになっているのだろう。


「指導をお願いできる人は……

 刀なら少佐、セレスト、アデルか。

 ナイフなら、やっぱヴェロニックがいいかもね」


「でも少佐は忙しいし、アデルは口が悪いからレイモンが嫌がると思う。

 セレストは……多分指導に向いていないわ」


 ナタンは首を傾げた。

 ジャッドが言うには、セレストとレイモンで実力差がありすぎるらしい。

 セレストにとって当たり前のことが、レイモンにとってはそうではない。


 それに加え、2人の考えは相容れないところがある。

 例えセレストが指導を了承しても、意見が分かれてぶつかり合うのは確実だ。

 それでは、訓練どころではなくなってしまうだろう。

 ジャッドはそう推測していたが、ナタンでも2人が喧嘩する光景は想像に難くなかった。


「じゃあ消去法で、ヴェロニックにお願いしようか」


「そうね。

 彼女は良心的じゃないから、説得する必要はあるかもしれないけど……

 私の方で何とかしてみるわ」


 そう言うとジャッドは、ずっと置いていたスプーンを手に取った。






 その日の夕方、レイモンはいつも通りグランドの裏手に来ていた。

 あの時ナタンを呼び出してから、毎日そこに行くのが通例となっていた。

 しかしいつも何も前進しないせいで、足取りはとても重かった。



 レイモンがたどり着いた時には、既に2人の人物がそこにいた。

 1人は最近彼を指導しているジャッド。

 そしてもう1人は、ずっと特訓に付き合ってくれるナタン……

 ではなく、腕を組むヴェロニックだった。


「え? 何でお前がいるの?

 ナタンは来てないんだ?」


 ヴェロニックは付けている狐のお面を傾けることなく、淡々と話した。


「……ナタンは急遽、先輩達に魔術を教えることになった。

 ジャッドからあなたに銃の素質がな――」


 突然、ジャッドが二人の合間に無理やり入った。


「じ、ジャムが起きる理由が分かるまでは銃の講義をお休みしようと思って!

 代わりにヴェロニックを呼んで、ナイフの扱い方をその間やってもらうことにしたの。

 自分に適した武器を見つけたいなら、色々チャレンジした方がいいから!

 え、えっと……余計なお世話だったかしら?」


 レイモンは不可解に思いながらも、首を横に振った。

 ナタンがいない理由は分かった。

 ヴェロニックが代わりに自分にナイフを教える経緯も分かる。


 だが、ジャッドがかなり焦っているように見えた。

 とても早口で、まるでヴェロニックが口を滑らそうそしたのを大慌てで止めたような感じだ。

 一体、ヴェロニックは何を言いかけたのだろう……?



 ヴェロニックは周囲の空気を一切気にせず、レイモンに向かって一歩前に出た。


「構えて。ウチと戦って」


「……え? このまま? 武器は?」


 レイモンが間抜けな顔をしている間、ヴェロニックは手ぶらで彼の間合いに入った。

 そして思考が追い付く前に、彼女は全力でかかとを落とす。

 レイモンは咄嗟に腕を前に出して防御を取った。


「――重っ!?

 ちょ、ヴェロニック!

 流石に言葉が足りないよ!

 ナイフを扱うのに何で僕達素手で戦っているんだよ!?」


 レイモンの戸惑いを一切気にせず、ヴェロニックは足を落とした。

 そう思った矢先、今度は真横から首に向かって手刀を入れようとしてくる。

 それも持ち前の反射神経で、何とかレイモンはそれを腕で防いだ。


「……ナイフはあくまで補助。

 ウチは主に格闘術で戦っている。

 もし3回戦って1回も勝てないなら、教える価値ない」


 彼女の言葉を意訳するなら、格闘術のセンスがなければナイフは扱えないということみたいだ。

 どうやら今、その相性を確かめているらしい。



 一応普段の訓練で格闘術はある程度学んでいるから、戦うことはできた。

 でも、ヴェロニックが想像以上に強かった。

 レイモンよりも身長が低くて華奢な体つきのに、パワーは段違い。

 力の入れ方が上手いのか、防御する度に重みと痛みを感じる。


 そうこうしているうちに、レイモンは反撃できないまま鳩尾(みぞおち)に彼女の拳が入り込んだ。


「うっ――ごはっ!!」


 手加減が一切なかったため、レイモンはそのまましゃがみこんだ。

 そして咳と共に、痛みが引くのを必死に待った。

 しかし、ヴェロニックはそれすら許さない。


「……あと2回。次」


 彼女は再び足を振り上げ、レイモンの顔めがけて蹴りを入れようとしてきた。

 気がついたレイモンは短い悲鳴を上げた直後、転がるように避けることに成功する。

 ヴェロニックは直後、再び彼の間合いに入って猛攻を浴びせ始めた。



 ジャッドはその2人の様子を、困ったように額に手を添えながら眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ