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50話 銃の扱い方

 絶望の淵に立たされたレイモンを見て罪悪感に襲われながらも、ナタンは彼に現実を突き付けた。


「見た感じ、かなり集中力と忍耐力はあるんだけど……

 センスが皆無だね。

 多分これ以上練習しても、時間を浪費するだけだと思う」


「――」


 レイモンは口を開けたまま、動かなくなった。

 余りものショックで、意識が飛びかけていたのだ。

 優しいナタンが心を鬼にして言っているのだから、本当に魔術が向いていないのだろう。

 ここまで相性が悪いのが想定外過ぎて、ナタンの言葉がずっと頭の中で木霊していた。


 レイモンの足元がふらつき始めると、ナタンは大慌てで思いついた励ましの言葉を並べた。


「で、でも良かったじゃん!

 これで君に合う戦い方を絞れたんだからさ!

 これから他の方法を試してみるのがいいよ!」


「……」


 ナタンの言葉が届くことなく、レイモンは体のバランスを崩した。

 咄嗟にナタンが彼を支えるも、完全に上の空だ。

 どんなに呼んで揺さぶっても、魂が戻ってくることはなかった。


 そんな時、遠くから女性の声が聞こえた。


「ナタン! どうしたの!?」


 声の主ジャッドは、ただならぬ二人の様子を見て顔を真っ青にして駆け寄った。

 レイモンをとりあえず地面に座らせた後、ナタンから事の次第を詳細に聞いた。




 経緯を知ったジャッドは、溜息をつきながら頭を抱えた。


「そうだったの……

 ナタン、あなたは何も悪くないわ。

 もちろん、レイモンもよ」


「ありがとう。

 君にそう言われただけでも、心がすごく軽くなったよ……」


 2人は未だに抜け殻状態のレイモンを見つめた。

 ジャッドは彼に近寄って、小腹がすいた時に食べている飴を取り出す。

 そしてそっと口の中に入れてあげるも、何の反応も示さなかった。


「重傷ね……」


「そうなんだよ……

 ジャッドさん、こういう時ってどうすればいいんだ……?」


 ジャッドは髪をいじりながら、小さく唸り始めた。

 だがやがてある結論に至ったようで、彼女はしゃがんでレイモンの肩を両手で掴んだ。


「レイモン、ナタンから聞いたわ。

 あなた、人並み以上に集中力あるそうね。

 だったら、銃が向いているかもしれない。

 銃の名手と呼ばれている人達は、皆並外れた集中力を持っているもの。

 せっかくだし、良かったら私が教えましょうか?」


 その瞬間、レイモンの目に輝きが戻った。

 そして項垂れていた頭を持ち上げ、藁にもすがるように彼女をじっと見つめた。

 その顔にはまだ絶望の色が色濃く残っている。


「……いいの?」


「もちろん、むしろそうしたいわ。

 だって仲間が強くなるために努力しているのを、黙って見ていられないもの。

 ナタン、せっかくだしあなたも試してみる?」


 ナタンは苦笑いを浮かべると、ゆっくりと頷いた。

 レイモンに明るい希望の光が差し、いつもの調子を取り戻ってきている。


「ありがとぉぉぉ!」


 レイモンは嬉しすぎて、半泣きになりながら思わずジャッドに強く抱きついてしまった。

 ジャッドは驚いて一瞬頬を赤らめるも、お返しとして彼の頭を優しく撫でた。




 翌日、ジャッドの銃の講義が始まった。

 彼女はハンドガンを召喚すると、2人によく見せるように持った。


「銃の発射の仕組みは簡単よ。

 まずトリガーを引くと、このハンマーが勢いよく倒れてファイアリングピンが叩かれる。

 するとカートリッジの底にあるプライマーに強い打撃を与えて、内部の火薬が弾丸の装薬まで引火する。それで発射されるんだけど、銃に残った薬莢も同時に排出される。これは作用反作用の法則で――」


 ふとナタンとレイモンの様子を見ると、2人揃って目を丸くしてポカンとしていた。

 あまりにも楽しくて無意識にやってしまった、専門用語の多用と早口が相まってついていけてない様子。


 ジャッドは1回咳払いして、一度気持ちを落ち着かせた。


「コホン、要するにトリ……引き金を引けば発砲できるってことよ」


 男子2人は納得したように頷いた。



 ジャッドは事前に用意していたいくつかの風船を、近くのベンチの上に置いた。

 そして2人にエアガンを渡すと、自分自身もそれを手にする。


「今から実際に構えて、風船を銃で割ってもらうわ。

 そんな難しいことじゃないし、基礎を教えるだけだから肩を楽にしてね。

 まずは私が手本を見せるわね?」


 ジャッドは両手で銃を握り、銃口を風船の方に向けた。


「人によってそれぞれなんだけど、共通しているのは2つ。

 1つは、銃口がぶれないようにしっかり握ること。

 もう1つは、両足を開いて体を前に出す。

 それさえできれば、あとは撃つだけよ」


 そう言ってジャッドは、慣れた手つきで発砲した。

 弾丸は真ん中の風船に命中し、バンッという音を立てて破裂した。

 速すぎて見えなかったが、レイモンの目には弾が風船のど真ん中を貫いたように見えた。

 加えて全く銃口がぶれず、反動を全て抑え込んでいた。


(さすが、ジャッド様……

 屈指の銃の名手と謳われるだけあるな……)


 ジャッドは銃口から立ち上る煙を息で飛ばすと、二人に向かって優しく微笑んだ。


「先にナタンがやってみる?」


「えっ? いいのか?」


 レイモンはナタンに向かって首を縦に振った。

 どうやらジャッドは、同じ初心者であるナタンにも出来るということをレイモンに見せたいようだ。

 それで今からやることがどんなに簡単なことで、気負う必要はないと教えたいらしい。

 彼女の気遣いと頭の回転の速さに、思わず脱帽せざるを得なかった。


「じゃあさっきの私の姿勢をまねてみて」


「こう……かい?」


「そうそう、それで肩の力を抜いて……

 そのまま引き金を引いて」


 ナタンは言われるがままに、銃を撃った。

 すると弾が1つの風船をかすめ、その衝撃で割れた。

 ナタンは銃の反動で仰け反りかえるも、その光景をしっかりと見ていた。


「すごい、上出来よ!

 まさか一発で当てるなんて、あなた才能があるかもしれないわ!」


「それはよかった……

 でも反動は結構大きいんだね、手がしびれて痛いや……」


 ジャッドが言うには、どうやらこれは慣れのようだ。

 誰もが感じる痛みらしく、これを我慢できるかどうかも1つの課題らしい。



 ジャッドは、近くで見ていたレイモンに向かって手を差し出した。


「レイモン、あなたもやってみましょ」


「う、うん……」


 レイモンは彼女に誘導されるまま、的の前に立った。

 ジャッドの計らいのおかげで、かなり心に余裕はあった。

 しかしやっぱり初めて扱う武器を構えると、緊張はするものだ。

 レイモンの心臓は無意識に、鼓動を速めていた。


「力抜いて、怖がらないで。

 そのままゆっくり、風船をとらえたまま、人差し指に力を入れて」


 レイモンは一度息を深く吸って吐くと、引き金を引いた。


 ――カチッ


「……ん?」


 弾は発射されなかった。

 と言うより、引き金が最後まで引けていない感覚がする。

 レイモンの頭に、疑問符が生じた。


「ちょっと見せてくれる?」


 レイモンはジャッドにエアガンを渡した。

 彼女は回しながらそれを観察した後、その中を確認した。


「……弾詰まりね、たまに起きることだから心配しないで。

 ちょっと待ってね」


 ジャッドは手早く、中に溜まった弾を外に出した。

 そしてレイモンに渡して、再び撃つように促す。


 ――カチッ


 また弾詰まりだ。


「あ、あれ……?

 おかしいわね、こんなに頻繁に詰まることはないんだけど」


 ジャッドは少し焦りを見せながら、再び詰まった弾を捨てた。

 その様子を見ていたナタンは、あることが頭をよぎった。


(この流れ……銃も駄目なんじゃ……?)

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