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48話 ぎくしゃくした再会

 気温が低くなり、紅葉が散り始めたある日の午前。

 レイモンは久々に、心温まる我が家のような第14部隊の本拠地に戻った。

 隊員達の掛け声が、僅かに聞こえてくる。

 それは近くて遠いような不思議な感覚を想起させた。


(やっと、元の生活に戻れる……)


 レイモンは安堵しつつも、敷地を跨ぐ直前腹部を無意識に抑えていた。



 レイモンの腹には、セレストに殺されかけた時の傷跡が残っていた。

 既に傷口は塞がっているものの、あの時の出来事は未だに脳裏に焼き付いている。

 それを思い出す度、心臓が高鳴り体に金属片が突き刺さったときと同じ痛みに襲われた。


(いてて、医者から時々痛むかもって言われたっけ……

 はぁ、でもセレストに会わないとなぁ……)


 レイモンは思わず、頭を抱えてしまった。



 ここまでトラウマになっているにも関わらず、レイモンは今回の事件の詳細に関して口を噤んだ。

 セレストはレイモンの心中を察しているだろうが、何を考えているのかは知らない。

 彼にとってこの決断は、不可解でしかないだろう。


 もちろん、セレストを許す気なんて毛頭ない。

 彼の狂気や価値観は、絶対に受け入れられないものだ。

 だからこそ、自分の考えを伝えて本当の気持ちをぶつけないといけない。


 正直向き合うのは怖いが、こうしないといけないのだ。

 でないと、あの時自分が戦う意味を決めたのが無意味になる。

 それに、彼と話せばこのトラウマを克服できるような気がした。



 聞いた話、彼はもう処分期間を過ぎて普通に復帰しているらしい。

 普通に生活していれば、どこかで会えるはずだ。

 だが彼がどういった心持ちなのかまでは、流石に分からない。


(とにかく、覚悟を決めて彼とぶつかり合わないと……)


 レイモンは少し伸びた髪をいじりながら基地に入り、自室へと歩を進めていった。




 病院から持ち帰った荷物をほどいているうちに、昼食の時間となった。

 きりが悪かったからもう少しだけ片づけをしようとした矢先、急にお腹がすき始めた。

 空腹を今まで忘れていたのかと疑いたくなる程に。


(ううっ、お腹が空いて力が出ない……

 仕方ない、散らかっているけどこのままご飯食べよ。

 少佐から今日はゆっくりしていいって言われたし)


 レイモンが部屋を出ると、廊下の奥から2人組の男が近づいてくるのが見えた。


「あっ! レイモン!

 もう帰ってきてたのか!」


 男の片方、ナタンはレイモンを視認すると笑顔で駆け寄ってきた。

 そして彼の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと激しく撫で始めた。

 レイモンが戻ってきて嬉しいのが、丸わかりだった。


「ちょっ!? 落ち着け!

 頭がボサボサになるから!」


 レイモンが慌てて制止しようとするも、ナタンは手を止めなかった。

 正直彼のテンションについていくのがやっとではあったが、無意識に笑みがこぼれた。


「そんなこと言わないでよぉ!

 黙って帰って来るなんて、いつの間に君は陰気臭くなったんだ!?

 この前見舞いに行った時に言ってくれりゃあ、無理してでも迎えに――」


 グウゥゥゥゥゥ――


 レイモンのお腹が、盛大に鳴った。

 ナタンは一瞬きょとんとしていたが、顔を真っ赤にしたレイモンを見て思わず吹き出していた。

 その二人の様子を、後から来たアデルが引きつった顔で眺めていた。


「死にぞこないの癖に、腹の虫は絶好調のようだな。

 呆れて何も言う気が起きんわ」


「うぐっ……」


 穴があれば入りたい気分だ。

 病院の食事が質素すぎて、久々の部隊の食事が楽しみなのがバレバレだった。

 レイモンは2人にいじられながら、食堂へと向かうことになった。




 食堂に入るや否や、他の隊員達から歓喜の嵐が吹き荒れた。

 どうやら付き合いの深さ問わず全員が、レイモンの心配をしていたらしい。

 その空気は、入隊当初の歓迎ぶりに引けを取らなかった。


「パイエット君、もう傷は痛まないのか!?」


「はい、まぁ……」


「良かったぁ! これで少佐のご機嫌も治りそうだ!」


「えっ? もしかして、ずっと心配されていたのですか?」


「そりゃもちろん!

 『オレのお嫁さんに会えなくて寂しい』ってずっと愚痴溢していたぞ!」


「ワァッツ!?」


 レイモンから変な声が出た時、食堂は笑い声で満たされた。

 以前ヴェベールはレイモンと結婚したいという冗談を溢していたが、まさかそれを未だに使い回すとは。

 相当面白かったのだろうが、ここまで来ると本気なのかと疑いたくなる程だ。

 ……チュテレールでは同性婚は認められていないから無理だが。


 人だかりの奥に、ジャッドとヴェロニックの姿があった。

 彼女たちは目が合うと、手をこちらに振った。

 どうやら集団に混ざる気はないが、レイモンの復帰を歓迎しているようだ。


 やっと日常に戻れた安心感と共に、すごく引っ掛かりを感じて正直複雑な心持だった。

 だが、その原因は既に分かっている。



 隊員達の熱が収まったところで、レイモンはアデルとナタンと一緒に配膳を貰っていた。

 その時、ふと隅の方で一人寂しくご飯を食べている長髪の兵士の姿が目に入った。

 ……セレストだ。


「……皆彼のやったことを大体知っているから、流石に距離を置いているんだ。

 本人もなんかどうでもいい感じでさ、ずっと浮いててね。

 訓練中も基本一人だし、僕達もなんか近づきづらいんだよ……」


 ナタンがレイモンの耳でそっと囁いた。

 確かに本人は呑気そうだが、見ていてすごく痛々しい。

 なんだか別世界にいるのに、無理して平然を装っているような感じだ。



 一瞬、傷が痛んだような気がした。

 だがいてもたってもいられなくなり、2人の制止をよそに彼の目の前に立った。


「……前、空いてる?」


「――!?」


 お盆を持ったレイモンを見た途端、セレストは驚愕していた。

 持っていたパンを静かに皿の上に落して、そのまま時が止まったかのように硬直していた。

 レイモンはそれを肯定だと判断して、正面に座って食べ始めた。

 セレストはしばらく動かなかったが、何かを諦めたかのように渋々食事を再開する。


「……」


「……」


 会話は一切出なかった。

 と言うより、何から話せばいいのか分からなかった。

 更にただ黙々と食べる2人に皆釘付けになっているらしく、すごく視線を感じる。

 そのせいで久々の美味しい食事も、レイモンは味わうことができなかった。


 そんな中、セレストが小さく言葉を溢した。


「何で……何も言わなかったんだ……?」


「……」


 レイモンは、一気に頭に浮かんでいたことをまとめた。

 同時に言うべきこと、伝えたいことをピックアップして、それを文章としてつなげる。

 思ったより時間はかかったが、レイモンは彼の目を真っ直ぐ見つめながら口を開いた。

 

「……お前がやったことを肯定するつもりは全くない。

 でも僕は兵士である以上、お前と同じ殺人鬼だ。

 お前を真っ向から否定するのは、その事実から目を背けるだけな気がする」


 喉がすごく乾いて、むせそうになった。

 しかしそれを必死にこらえて、少しだけ水を口に含んで話を続ける。


 「それに、お前は自分の価値観に基づいて動いていただけ。

 だったら僕も僕の価値観を貫かせてもらう。

 その為ならお前を全力で止めるべき。

 そう……思ったんだ」


 セレストはポカンとしていた。

 やがてボソッと「なんだよそれ」と言って、パンを口の中に放り込んだ。

 彼の目には呆れと安堵、戸惑いが複雑に入り混じっていた。

 それ以上、セレストは何も言わなかった。



 言いたいことを言えて満足したレイモンの横に、突然お盆が荒々しく置かれた。


「ふん! 貴様は甘すぎる!

 拳骨の一発くらい食らわせてやったらどうだ?」


「え、アデル、それは……」


「何を躊躇する!?

 だったら俺が代わりに殴ってやる!」


「ま、待て待て待て!

 何でそうなるんだよ!?」


 アデルは右手を高く振り上げて、セレストに襲い掛かろうとした。

 つかさずレイモンは彼を取り押さえて、必死に抵抗するのを何とか抑え込み続けた。

 それを見たセレストは、懐かしい意地悪な笑みをこぼした。


「ありゃりゃ、おチビさん。

 威勢はいいみたいだが、それじゃみっともなよなぁ?」


「誰がチビだぁぁぁ! この弱虫が!」


「――誰が弱虫だって!?」


「セレスト! ストップ! 拳をひっこめろ!

 ……アデル! 話がややこしくなるからこれ以上逆撫でするなよ!」


「あ゙ぁ!? ナタン、貴様も大概だ!

 この甘ったれのボンボンが!」


「……今なんて言った?」


「ちょっと3人とも、いい加減頭を冷やしてくれ!」


 机をはさんで、アデルとセレスト、そしてセレストを抑えているナタンから火花が飛び散っていた。

 レイモンが必死になだめようとも、誰も聞く耳を持たない。

 周囲の人達はというと、皆笑いながらご飯のおかずにしていた。



 結局、他の隊員達と一緒に食事していたヴェベールが4人に拳骨を落としたことで、この喧嘩は収束した。

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