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46話 これが戦争というもの

 レイモンは医療班の努力のおかげで、なんとか一命を取り留めた。


 だが生死の間を彷徨ったのは確かだ。

 金属片が体を貫いていただけではなく、内臓まで傷ついていたらしい。

 そのせいで大手術する羽目になり、起きた時には何本もの点滴針が腕に刺さっていた。

 担当医の話では、仲間達による止血処理がなければ確実に死んでいたとのことだ。



 だからレイモンは、何ヶ月にも渡る入院を余儀なくされた。

 最初の頃は起き上がれないし、少し動いただけで激痛が走って大変だった。

 今では少し歩ける程度に回復したものの、痛みはまだ残っている。

 かなり、憂鬱な毎日だった。




 心の支えになったのは、やっぱり仲間達の存在だった。

 セレストを除く同期は、一週間に一回必ず顔を出してくれた。

 バラバラで来ることが多かったが、みんなが揃ったときはジャッドが買ってきた高級菓子を摘んで楽しく談笑していた。


「そういえば……

 空気を悪くするようで申し訳ないけど、君に伝えたいことがある」


 突然、ナタンが真面目な表情でレイモンに話しかけた。

 さっきまで先輩の噂話で盛り上がっていた空気は急に重くなり、皆黙り込んでしまった。

 しかしそれを責めるようなことは誰もせず、ナタンが再び口を開くのを静かに待った。


「セレストのことなんだが、今は謹慎処分になってる。

 と言っても、ただ部屋に引き篭もってるだけなんだけどね。

 あの地下で起きたことは、みんなセレストの真偽不明な言い分でしか分かってない。

 だから罰を下そうにも下せない状態なんだ」


 レイモンは俯いた。


「だからそのうち、少佐が見舞いがてら事情聴取に来るらしい。

 その後に彼をどうするか、正式に判断を下すんだって。

 このままで済ませるか、あるいは犯罪者として扱うか。

 言い換えれば……セレストをどうしたいのか、君が決められるということだ」


「……」


 あそこで起きたことは、今でも鮮明に残っている。

 悪夢として出てくるくらいだ。

 そこで、セレストの言葉がずっとこだまし続けていた。

 まるで頭の中に焼印を押されたかのように。


『確かにここの人間は非戦闘員だ。

 だがな、その頭脳はこの世界を滅ぼしうる危険分子だ』


『だからここを壊滅させる必要がある』


『……お前も人、殺してるじゃないか。

 ”戦争”という名目で』


 ずっとそれが何度もループして、気が狂いそうだった。

 そのせいで見たくない根本的な疑問に向き合わされてしまい、それがさらにレイモンを追い詰めていた。



(……僕は一体、何のために戦っているんだろう?)



 ここ何週間も考えているが、全く答えが出なかった。

 そのせいで、セレストを責めたいのに責められなかった。

 確かに殺されかけたけど、彼の行動を全部否定できない。

 何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなってしまったから。


 だから彼の命運が自分にかけられているって言われても、どうすればいいのか検討さえつかなかった。




 そんなことを考えていると、ヴェロニックがナタンの方を向いた。


「……彼の様子は?」


「うーん、なんと言えばいいかな……

 開き直ってるけど上の空というか、何か悟りを開いているというか……

 よく分かんない状態だよ」


 少なくとも、いつものご機嫌な状態ではないらしい。

 彼の性格から鑑みるに、反省はしていないだろう。


 でも彼が仕掛けた命がけのテストをレイモンはギリギリでパスしたのだ。

 そのことで何か色々と考えているのかもしれない。

 レイモンはそう考えることにした。



 それに対して、アデルは物凄く不機嫌そうな顔を見せた。


「ヴェル兄も甘いものだ。

 あいつが何かしたのは明白だというのに」


「あっれれぇ?

 今何か言ったかなぁ?アデルくーん?」


 いつの間にか、ヴェベールがアデルの背後霊として姿を現していた。

 みんな彼の存在に気づくと、同時に「うわっ!」と声を上げてしまった。



 ここの病室は個部屋だが、扉が開いた開いた気配はなかった。

 かと言って人が隠れられるような場所はないし、そもそも隠れる意味すらない。

 本当に、ヴェベールがそこから生えてきたのではないかと錯覚してしまいかけた。


 そんな皆の慌てふためく様子を見て、ヴェベールは腹を抱えて笑いだした。


「アハハハ!

 その反応、いいねぇ!

 いじり甲斐があって嬉しいよ!

 今度はもっと面白い登場方法を考えよっと」


 ヴェベールは意地悪そうに不気味な笑みを浮かべた。

 だが彼のおかげで、さっきまでの重い空気がどっかに飛んで行ってしまった。

 本当にこの人は、場の雰囲気を変えるのがうますぎる。


「し、少佐。

 あなたが来たのって、もしかして……」


「うん? ああ、ジャッドさんの想像通りだよ。

 事情聴取」


 そう言いながら彼は、レイモンの前に小さな紙袋を置いた。

 包装から見るに、お見舞い用のお菓子みたいだ。

 本人に了承を得て開けてみると、中身はカスドースだった。


(うげ、これってこの国で一番甘いお菓子じゃん……

 僕そこまで甘いの好きじゃないんだけど……)


 なるべくレイモンは、考えが顔に出ないように努力した。

 その甲斐あって、ヴェベールはすごく気分が良さそうだ。


「別に急ぎじゃないから、話し足りないなら外で待ってるけど。

 どうしたい?

 遠慮しないでいい、ここからかなり()()()()()になっちゃうから」


 同期の皆は、レイモンの顔を覗いていた。

 判断は君に委ねる、と言っているような気がする。



 確か以前、ヴェベールは「戦争に慣れなくていい」って言っていた。

 彼なりに、戦争との向き合い方を既に自問自答したことがあるのだろう。

 だったら「戦う意味」についても、ある程度答えを持っているのかもしれない。


 なら彼に自分の迷いと気持ちをぶつけてみたら、どうだろうか?

 完璧な答えが出なくとも、心の整理にはなるかもしれない。

 というよりむしろ、彼にどうしても聞きたい。

 ”兵器”になるのを拒む彼なら、きっと”人”としての考えを示してくれるはずだ。


「……大丈夫です。

 準備はできています」


 レイモンがそう言うと、仲間達は皆静かに病室を出ていった。

 少し心配そうな様子を見せていたが、レイモンが笑顔を返すと少し安堵してくれた。


 そして病室には、真剣な眼差しのヴェベールとレイモンだけが取り残される。

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