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38話 いざ、開門の時

チュテレール東軍は、ほぼヴェベールとジャッドが主体となって指示を出していた。

軍の大半はヴェベールに従い、門の扉に敵を近づかせまいと奮闘していた。


「――押せ!!ここを突破されれば、終わりだと思え!!!」


そう言って彼は兵士達の尻に火をつけていた。

中にはヴェベールと同様部隊を率いる指揮官もいた。

しかし文句を言うこともなく、何を優先すべきかをしっかりと判断して彼の指示に従っていた。

そのおかげで、門の前には大きな空間が広がっていた。


一方、ジャッドは扉を押し開こうと試みる兵士を眺めていた。


(まずいわ……こんな頑丈な扉、ここにいる戦力じゃ突破できない!)


彼女は焦りの色を露わにしていた。

ヴェベール達が頑張って時間を稼いでいるが、長時間は無理だ。

それにあまり時間をかけてしまえば、敵がどんな手を打ってくるか分からない。

だからこそ必死に頭を回転させたが、全く妙案が出てこない。


(早く……早く、何か考えないと!!)


ふと安全地帯にいるレイモンとアデル、セレストが目に入る。

三人とも、かなり疲労困憊な様子。

だからこそ、彼らの無茶と努力を無駄にするわけにはいかない。




そうやってジャッドが大汗を流していると、東軍の拠点から黒い煙が上っているのが目に入った。


「――き、緊急事態!?」


考えないといけないことが多すぎて、彼女の頭はパンクしそうになった。


(ちょっと待って!オランド少将は、一体何を伝えたいの!?

私は一体、どうしたら――)


一体どこから何を考えればいいのか、全く分からない。

思わず、目が回りそうになった。

ジャッドは一旦落ち着こうと、深く息を吸って吐いてみた。



そんな時だった。

ジャッドはふと、ある違和感に気付いた。


「……静かになっている?」


ジャッドがグエッラの軍に突撃した時、遠方からはっきりと爆音が何度も聞こえてきた。

恐らく、レジェが使用している大砲だろう。

音ももちろん地響きや衝撃波がこちらにも伝わってくるほどの、強力なものだった。


なのに、今はそのような騒がしいものはない。

聞こえてくるのは、兵士達の声だけだ。

いつの間にか、大砲の攻撃が止まっていたのだ。


「まさか――」


ジャッドが全てを理解した途端、近くにいたヴェベールが彼女に向かって声を張り上げる。


「そこを離れろ!!砲弾が来る!!!」

「はい!!!」


ヴェベールも、ジャッドと同様にオランドの意図を察したようだ。

ジャッドは扉を開けようとする兵士達に、防御陣に加われと指示した。

最初彼らは戸惑っていたが、咄嗟に扉の前から退きヴェベールの指揮下に移動した。




彼女の指示は、門の近くで休んでいた三人にも伝わっていた。

伸びていたアデルは大慌てで起き上がり、セレストに向かって叫ぶ。


「おい!ここを離れるぞ!!

レイモンを担げ!!」

「――はぁぁあ!?お前がやれよ!!」


正直セレストはかなりへとへとで、もうこれ以上労力を割きたくなかった。

でも、アデルは真剣な眼差しで一切引こうとしない。

彼も相当疲れているのは分かるが、なんだか解せない。


そんな中、ふとあることがセレストの頭をよぎりニヤニヤし始める。


「ははん、さては体が小さくて運べな――」

「ふざけるな!!俺に殺されたいのか!?

とっとと運べ!!道化が!!!」


アデルは耳が痛くなるような大声を出し、無理やりセレストを説き伏せた。

そのままアデルはそっぽを向いて、遠くに走り去ってしまった。

セレストはやれやれと言った様子で、意識のないレイモンを背負い始める。




その時だった。

空が急に明るくなり、白い光に包まれた。

それと同時に、ヒュゥと言う何かが飛来する音が響き渡る。


(ヤバッ……!もう来る!!)


セレストは大慌てで、レイモンを背負いながらその場を離れようとする。

すると、後方の門扉からとてつもない衝撃が伝わってきた。



一瞬、何か聞こえた後無音になった。

どうやら爆音を聞いたセレストの耳が、一時的に麻痺してしまったらしい。

それを理解した瞬間、背後から暴風が吹きつける。


「――っ!!??」


セレストは咄嗟に足を止めて、前を向いた。

背中のレイモンに瓦礫が飛んできてしまっては、まずい。

だから彼は風に飛ばされないように蹲りながら、レイモンを庇った。


しばらくすると、爆風は止み周囲の兵士達の声が聞こえ始めた。

思わず門を見ると、大きな砲撃で鉄扉がひしゃげている。

でもまだ、完全には開いてはいない。


「おい、急げ!!次の攻撃が来る!!!」


進行方向遠くから、アデルの声が聞こえてきた。

セレストは我に返り、再び走り出す。



それから間もなく、第二弾の砲撃が来た。

まだ十分離れられていなかったが、着弾直前にセレストは再び衝撃を受ける体制を取る。

直後また空気が一気に押し潰され、落ち着くと駆けだした。


しかし、まだ開門していない。

まだこの大規模攻撃は続くのが目に見えていた。


(くそっ!衝撃で地面が割れて、走りづらい……!!)


辺りの地面は、ひびが入りボコボコになっていた。

そのせいで必死に走るもスピードが出せない。

僅か数十メートル走ったところで、第三弾が着弾する。


「う――っ――!!」


幸い、最初からかなりの距離をセレストは走っていた。

そのおかげで、風圧は弱まっていた。

セレストは足を止めず、大きくなったアデルの姿に向かっていく。



だが、今回はそれで終わらない。

地面への衝撃は大きすぎたのが、下からゴロゴロと大きな音が聞こえてきた。

そしてひびの隙間から、土煙が立ち始める。


「急げ!!崩落するぞ!!!」

「分かっている!!!」


アデルの怒号に急かされるように、セレストは足を速くする。

後ろを振り返る余裕はなかったが、明らかに地面が大きな音を立てて落ち始めている。

このままだと、二人まとめて巻き込まれる……!




しかし、セレストの努力は徒労に終わった。

アデルの元にたどり着く寸前、足元の感触がふっと消えた。

何が起きたのか理解することなく、セレストは浮遊感を覚えた。

その後抗う余裕すら与えられず、セレストとレイモンは落下し始める。


「――セレスト!!レイモン!!!」


アデルが急いで駆け寄った。

そしてできた穴を覗くと、手の届かない底に二人が横たわっていた。

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