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37話 防御網を突破せよ

窮地に追い込まれた弱者ほど、恐ろしいものはない。

本来のレイモンの実力では、特攻部隊を目的地まで導くことなんて到底不可能だ。



でもオランドは、彼の秘められた膨大な底力を見抜いた。

卒業試験の事件の幕を閉じたレイモンこそが、自分の作戦を成功させる重要な駒の1つと考えていたのだ。

だから彼には大きすぎる負荷を掛け、レイモンを無理やり限界突破させた。


結果、レイモンは理性を代償に並の兵士以上の突破力を発揮した。

その気迫に押され、特攻部隊の士気と勢いまで増すというおまけ付きで。

防御まで捨て去ってしまったのが難点だが、仲間が上手くカバーしたため及第点だ。

まだ未熟なところはあるが、レイモンは軍の上層部が認める期待の星になりつつあった。




……にも関わらず、レイモンの暴走は止まらない。


「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――!!!」


チュテレール軍は、レイモンのおかげで障壁の門前にたどり着いた。

だが今自分がどうするべきで、何をしているのかすら分かっていない。

目の前の閉じた分厚い門に衝突することさえ、理解できないまま。



流石にまずいと思ったアデルは、咄嗟にレイモンを地面に押さえつけた。

そして羽交い絞めにして、彼の動きを無理やり止めようとする。


「止まれ!!これ以上は貴様の命に関わるぞ!?」


アデルは必死にレイモンをなだめようとするも、全く効果がない。

彼は獣のような咆哮をしながら、全力でアデルの拘束から逃れようと藻掻いている。

その力は想像以上に強く、体格の小さいアデルでは抑え込み続けるのに限界があった。


「ちっ……!この、アホがぁ……!!」


レイモンがアデルを押しのけようとしたその時だった。

セレストが二人の前に出てきて、一切躊躇わずに両手を振り上げる。


「……わりぃ!」


彼はそのままレイモンの脳天めがけて、傘をドンッと叩きつけた。


次の瞬間、レイモンの体はピタリと止まった。

そのまま力が抜けるように崩れ落ち、ぐったりと失神する。



レイモンが気絶したことを確認したアデルは、ゆっくりと拘束を解いた。

そして隣で息を切らしながら、大の字になって仰向けに倒れ込む。


「コイツの世話、大変すぎだろ……」

「ぜぇ……ぜぇ……全くだ……!」


膝をつきそうになるセレストの呟きに、アデルは呆れた様子で返す。

そんな中レイモンは、安らかな笑みを浮かべていたように見えた。

まるで役目を全うしきって、安堵したかのように。

その様子を見た二人は、どうしてか文句を言う気力を失ってしまった。



これで、残る問題は一つだけ。


「この門をどうやって開けるか……か」


セレストが眺めている巨大な障壁の門は、明らかに頑丈で分厚い鉄製の扉で閉じられている。

レイモンと一緒にたどり着いた特攻部隊が開けようと必死に扉を押すも、びくともしない。

恐らく金属製の閂で、せき止められているのだろう。


しかし突破しないと、ここを落とすことはできない。

それこそ、今までの努力を全て無駄にすることになる。



ここで時間を食っている間、ヴェベール率いる正面突破部隊も門前に到達した。


「敵を抑え込め!!

特攻部隊に絶対に近づけるな!!」


ヴェベールは咄嗟に指令を出した。

すると部隊はすぐ盾のように特攻隊の周りに立ち、大慌てで攻め込んでくるグエッラ軍を足止めしている。

これなら、ある程度時間を稼げるはずだ。

後はこれから、どうしたものか……





***





一方その頃、オランドはずっとその場を行き来していた。

門がなかなか開がないことで、落ち着かないらしい。

愛馬と部下に見守られる中、彼はずっと頭を抱えながら歩き続けている。


オランドの指示したのは、門に到達するまでだった。

故に、このあとどうすればいいのか誰も分からない。


(もしかして、そこまで考えていなかったんじゃ……)


付き添う部下達は、皆そのように考えていた。



ふと、オランドが驚愕の速さでブツブツ何かを呟いているのが耳に入る。


「……早くこのままじゃ敵の餌食になっちゃうよねぇなんで気づかないの見てるんだよねわかってるんだよね人力であの頑丈な扉なんとかできると思ってんの無理に決まってんじゃんせっかくそんなに都合のいい武器を持ってきてるんだからとっとと使ってよもしかして嫌がらせしてるそんなの今している場合じゃないの分かるでしょボクより上の立場のくせにそんなちんたらしないでよ察し悪すぎだよ……」


速すぎるせいで、聞き取れはしたが内容が入ってこない。

だがかなりイライラしているのだけは伝わってきた。



しかしよく聞いてみると、彼は誰かに文句を言っているようだ。

要所要所の単語を拾って繋ぎ合わせると、その相手はレジェだった。

どうやら状況を察して、彼が持ってきた大砲で門をこじ開けてほしいらしい。

だがその意図がレジェ本人に伝わっていないようで、憤慨しているみたいだ。


(「察しろ」って言っても……

ちゃんと伝えないと無理なのでは……?)


部下達は口には出さなかったが、心の中で愚痴をこぼしていた。




そうしているうちに、本軍の拠点が騒がしくなり始めた。


「な、何だ……!?」


慌てて部下達が駆け寄ると、兵士達が必死に動いているのが目に入った。


彼らは大砲の一斉射撃をやめ、ゆっくりと前進している。

やがて止まったかと思うと、今度は射角を調整し魔力のチャージを始める。

その時間はとても長く、かなり高威力のものを発射しようとしているようだった。


(この角度と想定される威力を考えると……まさか……)


「――きたぁぁぁぁ!!!」


オランドは突然、穏やかな見た目と似つかわない太い声を出した。

全員が肩をはねらせた後振り返ると、明らかにハイになっている上司の姿がそこにあった。


「遅い!遅すぎる!!

ボクがどれだけこの時を待っていたことか!!」


オランドはそそくさと、煙弾を空に発砲した。

色は黒……”緊急事態”を示す色だ。


「しょ、少将!?」


部下達は戸惑うしかなかった。

今絶好の好機だというのに、味方に危険を知らせる理由が分からなかった。

オランドはそんな彼らを察することなく、興奮状態で口を激しく動かす。


「このままだと、みんな砲撃の餌食なっちゃうからね!

ヴェベール君とヴァルキュリャなら絶対に伝わる、ボクの意図が!」


オランドは門を開こうと奮闘している部隊の人間たちを、真剣な眼差しで見つめていた。

彼らが自分の予想通りに動くことを、じっと待つように。

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