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36話 特攻部隊 Take N.

オランドは突然、隠し持っていた煙弾を打ち上げた。

すると即座に再び大きな地響きが生じ、また丘の裏手から少人数の部隊が出現する。

そしてそのままジャッド達と同じように、グエッラの軍の後方横に衝突した。


「みんなさぁ、隠し玉は一つだけっていうつまんない常識に囚われているけど……

それだけで成功するなんて、誰が保証できるの?」


彼はボソッとどこかに吐き捨てると、不敵な笑いを見せた。


第二弾はオランド直属の兵士達で構成され、夜明け前に最初の部隊と一緒に既に待機していた。

丘は意外と大きいため、千人規模の人数を隠しても問題はない。

だからこそ、彼は最初から何回もの奇襲を行うことを想定して動いていたのだ。

第14部隊ほど勢いはないものの、既にかき乱された戦場をさらに混沌にするには十分だ。



彼が唯一懸念していたのは、潜伏兵が多すぎて正面突破部隊の少なさに気がつかれないかということだけだった。

しかしそれを補うかのように、ヴェベール達は大暴れしている。

初日の時よりも兵は少ないのに、勢いとパワーが桁違いだ。

そのおかげで戦場にいる者たちの視線は人数ではなく、目の前の勢いそのものに奪われていた。




しかし、第二弾の特攻部隊も障壁の門の前で失速し始める。

あまりにも防御が固すぎで、今いる戦力では突破しきれないようだ。


「へぇ、しぶといねぇ。

もしかして敵の首領は、粘り強いタイプ?

それはそれは、戦いがいがあって嬉しいよ」


オランドは再び、赤い煙弾を打ち上げた。

すると第三弾の特攻部隊が出現し、再び戦場をかき乱す。

部下も含め、敵味方問わずその光景を見ていた人達は思わず絶句した。


「さぁて、ここで問題!

……ボクが用意した特攻部隊は、一体いくつあるでしょう?」


オランドは意地悪そうに、視認できないほど遠くにいるグエッラの中将に向かって問いを投げかける。

その返答はもちろん返ってくることはないが、オランドは満足そうに障壁の見張り台を見つめていた。





***





戦場では、想像以上にカオスな状態になっていた。

オランドが送りこんだ特攻部隊は、第4弾にまで及んでいる。

そのせいでグエッラ軍はパニック状態になっており、防御網もどんどん押され始めている。


無理もないだろう。

オランドは的確に、敵に圧力をじわじわとかけているのだから。

これで終わりかと思った矢先に、新しい部隊を投入する。

そうすることでグエッラ軍に精神的負荷を与え、個々の兵士はどう対応すればいいのか混乱してた。


「おい!なんかどんどん敵が増えていないか……!?」

「くそっ!どうすればいいんだ!?上からの指示は!?」

「まずい!このままだと突破される……!」


そういった声が、障壁の前では聞こえてくる。

指示を出すべき兵士達も、何をすればいいのか分からなくなっていた。



更に、兵力が増えることで物理的な圧力も増していた。

正面突破部隊と、400を超える特攻部隊。

それらが一丸となって押し込んでいるのだから、敵としては肝を冷やす光景だ。



そんな中レイモンは、相変わらず武器を持たないで無我夢中で走っている。


「あ゙ぁぁぁぁぁぁ!!!」


彼は人間とは思えない声をまき散らして、ただ前進していた。

もう体の感覚や思考など、一切を捨てて本能のままに動いている状態だ。

そのおかげで敵陣に穴ができそうになっていたが、彼をカバーするセレストの負担はますます増えていく。


「おい!いい加減目を覚ませよ!!

こっちは十八番の冗談を言う暇すらないんだぞ!!!」


セレストは溜まった不満をレイモンにぶつけるも、全く反応がない。

ここまで来ると、気絶しながら突進しているのではないかと疑いたくなる程だ。

その様子を見たジャッドが、更なる無茶ぶりな命令を下す。


「お願い!もう少し堪えて!!

せめて門を突破するまでは……!!」

「がぁぁぁぁ!!!

それって最後まで面倒見ろってことだろうが!!畜生!!!」


彼女が言いたいことは分かる。

レイモンのおかげで、突破口が見え始めている。

それをここで無駄にするわけにはいかない。

こうなったら、刀を使うしか……




その時、周囲から一斉に敵のロボットがセレストに向かってやってきた。


「っ!!まずっ――――」


怒りのあまりに警戒を怠ったせいで、彼らが目の前に迫るまで気づけなかった。

セレストは咄嗟に、和傘で応戦しようとする。


だが、遅かった。


「うぐっ――!!!」


セレストは、四方八方から串刺しにされた。

反射的に発動された魔術のおかげで、命に別状はなかった。

しかし、刺されていることには変わりない。

彼は激痛を伴いながら、動きを封じられてしまう。


「ごい、づ……らぁ……!」


どうやら敵側も、セレストの危険性と特徴を学んだようだ。

猛烈な痛みに耐えながらもがくも、びくともしない。

自力で抜け出すのはほぼ不可能だった。



そんな中レイモンの姿は、徐々に人の波に飲まれていく。


(くそっ!!ほっといたらアイツ、()()()死ぬ……!)


セレストは焦りを募らせるも、顔を必死に歪ませることしかできない。

ジャッドが率いる特攻部隊も、彼を助けるためだけに止まることはできない。

やむを得ず、彼女は苦悶の表情でそのままレイモンの後に続く。

その光景をセレストが眺めていると、徐々に焦りが募るばかりだった。




だが突然、セレストを抑えていたロボットの首が宙に舞った。

その勢いで彼を突き刺していた武器は全て抜け、セレストは解放される。

まだ残る痛みに耐えながら前を見ると、見慣れた同期の姿があった。


「――アデル!」


セレストが声を掛ける間もなく、アデルは咄嗟にレイモンの方に向かう。

そして彼を追いかけ、必死に食らいつく。


「おい!アイツの尻拭いを手伝ってくれ!!」

「俺に命令するな!!それくらい分かるわ!!!」


セレストとアデルは暴走中のレイモンに追いつき、共闘して立ちはだかる敵をなぎ倒す。

それはまるでグエッラの軍に鋭い暴風が吹いているように、かなり爽快な光景だった。



好機だと考えたオランドは、さらに第5弾の特攻部隊を出陣させる。

彼らはいともたやすく、グエッラの防御網を押す軍の中に溶け込んだ。

そしてさらに、東軍の勢いは増していく。


こうして二人が必死にレイモンのために道を開けていると、とうとう門の前にたどり着いた。

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