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黄金が再び輝く時  作者: 清月 郁
第一幕 始まりの事件
4/6

3話 怒涛の一週間

その一週間は、正に地獄だった。


朝と夜の訓練に加えて、レイモンは隙間時間を有効活用して猛特訓をした。

走り込みに筋トレ、そして基礎的な構えの確認……

思いつく限りのことは、できるだけ全部やった。



特に力を入れたのは、剣の素振りだ。

大剣はその大きさと重さゆえに、スピードを犠牲にしている。

そのためアデルの猛攻との相性は最悪。

アデルについていくためには、なんとしても早く大剣を振えるようにしないといけない。


レイモンは一日に百回以上は素振りの練習をしていた。

腕と腰の筋肉が悲鳴を上げても、アデルに追いつかんと努力を続けた。

そのおかげか、気持ち程度に大剣を素早く振るえるようになった気がした。

……無論、気持ちだけだが。




ある日、特訓中のレイモンに見知った顔が声を掛けてきた。

黒緑の短髪に、翡翠色の瞳の男子学生。

チームの仲間の一人、ナタンだった。


「よう、頑張っているみたいだな。

聞いたよ、宣戦布告の話。

『今度はお前みたいなチビガキに負けるもんかバーカ!!』ってアデルに言うなんて、見直したよ。

あいつ、顔を真っ赤にしてカンカンだぞ?

君ってもしかして人目のないところではやんちゃなタイプ?」

「なっ!セレストの奴……」


そんなこと一ミリも言っていないのに、余計なこと言いやがって!

確かにアデルは性格に反して低身長、童顔といった可愛らしい見た目をしている。

だからこそ、ああいう人は外見に触れられることを最も嫌う。


彼の地雷を踏んだとなると……

再戦当日、殺されかねない。

只でも難しい試練のハードルを上げるなんて、一体彼は何を考えているんだ!


ナタンは人生のどん底に立ったような顔のレイモンを見て、経緯を察したようだった。


「あー……ドンマイ」


ナタンは同情するかのように、レイモンの肩に手を置いた。

その肩は震えていて、レイモンの静かな怒りがナタンにも伝わった。


「じゃあ、手っ取り早く用件だけ伝えるな?

ヴェロニックからの伝言だ。

『武器が合っていない』、だそうだ。

多分大剣じゃなくて別の武器に切り替えた方がいい、って言いたいんじゃないか?

……とはいえ、今から変えるのはきついかもしれないが」


彼はもう少し話したそうにしてはいたが、レイモンの限られた時間を考えて我慢したようだ。

ナタンはそれだけ言うと、手を振りながらその場を後にした。



ヴェロニックの指摘は、的を射ているかもしれない。


そもそもレイモンが大剣を選んだきっかけは、父からの入学祝でもらったからという理由だった。

レイモン自身も戦えればいいと考えていたから、武器の種類にこだわりはなかった。

それ以前に、大剣以外の武器に触れた事すらなかった。


でもナタンのいう通り、今から切り替えてもアデルとの対戦までに調整が間に合わないのは明白だ。

ヴェロニックの気遣いは、本当にありがたかった。

けれど、すぐには無理だ。

レイモンはやむなく、彼女のアドバイスを心に刻み込むしかなかった。






こうしてあっという間に、一週間が過ぎた。

レイモンとアデル達五人は、以前対戦した場所に再び集まっていた。


唯一姿がなかったのは、セレストただ一人。

アデルにレイモンからの伝言を伝えて以降、ぱったりと姿を見せなくなったそうだ。

彼がどこで何をしているのか、誰にもわからないらしい。


「やつのことなんざどうでもいい。

それよりも貴様、いい度胸をしているな。

俺に対してあんな暴言を吐くとは、どうやら前回の屈辱では足りなかったようだな」

「ち、違うんだ!あれはセレストが勝手に――」

「黙れ!!」


レイモンの事情を聞く間もなく、アデルの怒号が響き渡った。

彼のこめかみに血管が浮き出ている。

相当頭に来ているようだった。


「さっさと構えろ!この凡人が!!

俺と貴様の実力差を、その体に刻み込んでやる!」


アデルは刀を人のいない場所に向かって投げ捨て、怒りのままに鞘を構えた。

これが試練でなければ、今すぐ斬りかかってきそうな勢いだ。


これでは何を言っても火に油を注ぐだけだ。

誤解を解くどころではない。

レイモンは思わず、生唾を飲み込んだ。


深呼吸をして気持ちを整えながら、レイモンは大剣を構えた。

そして前回のようにジャッドが号令を掛けようとした。




その時だった。


「ちょっと待ったぁ!!」


聞き覚えのある声が、張りつめた空気を切り裂いた。

振り返ると、遠くから長い灰色の髪を一つに束ねた学生が走ってくる。


セレストだった。


「あなた、いったい今までどこにいたの!?」

「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。

ちょっと野暮用があってな。

すこーし時間をくれるか?

レイモンと話をしたいんだ」


あまりにも身勝手な発言に、皆は呆れ返っていた。

アデルに関しては、鬼の形相でセレストを睨みつけている。


しかし、彼の手には布で包まれた少し大きめのものがある。

もしかすると、それを準備するので時間を要したのかもしれない。


「――はぁ、少しだけよ。

アデルが爆発寸前だから、急いでね」


ジャッドがため息交じりに言うと、顔を真っ赤にしたアデルをなだめ始めた。

セレストはそんな彼に構わず、レイモンのところに駆け寄った。


「何とか間に合った。

これ、お前のために準備したんだぜ。

受けとってくれ!」


セレストは持ってきたものをくるんでいた布を取っ払った。



彼が持ってきたものは、一本の剣だった。

レイモンが扱う大剣と比べると、明らかに小さい。

それにどこにでもあるようなシンプルなもので、何か特別な感じは一切ない。


「お前さ、武器が合ってないんだよ。

だから特別に入手してきたんだ。

礼はいらないぜ?

今からこれ使って戦えよ?」

「セレスト、ありが――あ?え?今から?」


彼もヴェロニックと同じことを感じ、準備をしてくれたようだ。

レイモンは素直に礼を言おうと思ったが、セレストの最後の発言に戸惑いを隠せなかった。


……今からということは、アデルとの模擬戦を剣でこなせということだ。

そんなの、無謀にもほどがある。

只でも強い相手に、新しい武器を使えなんて出来っこない。


「ってなわけで、大剣は没収な」

「あ、おい!バカ!!」


セレストは無理やり、レイモンの大剣を奪った。

レイモンは奪い返そうとしたが、セレストの死守を突破できなかった。


「おい!まだか!」


少し離れたところから、アデルの怒号が聞こえた。

これ以上は我慢の限界のようだ。


「そんじゃ、頑張れよー」


セレストは注意の逸れたレイモンの背中を押し、アデルと対面させた。

アデルはもうやる気に満ち溢れていて、もう一時も待てそうにもない。


(くそ!なんなんだよ、もう……!)


レイモンの中で、セレストは疫病神認定された。

でも、もう引き返すことはできない。


レイモンは腹を括り、真新しい剣を不慣れのまま構えた。

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