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黄金が再び輝く時  作者: 清月 郁
第一幕 始まりの事件
3/6

2話 アデルの試練 (1)

ジャッド王女の声が掛かると同時に、アデルが視界から消えた。

レイモンは慌てて周囲を警戒するが、どこにも姿は見当たらない。

噂で彼はスピード特化と聞いていたが、まさかこれ程とは――!



ふと、真横から強い殺気を感じた。

レイモンは慌てて武器を構えた。

同時にアデルが姿を表し、鞘を振り下ろす。


――間一髪だった。

コンマ一秒でも遅れていれば、強力な打撃が脇腹に入っていただろう。


「ほう、勘はいいようだ。

たが、生ぬるい!」


アデルは一瞬引いたかと思うと、今度は素早い斬撃を何度も繰り出してきた。

容赦は一切なく、本気で殺しにかかっている。

そんな圧巻の攻撃を、振りの遅い大剣で捌ききれるわけがなかった。




開始から十秒。

あっという間に、勝敗は決した。

アデルの鞘がレイモンの溝内を突き、勢いよく吹き飛したのだ。


「うっ、ゲホッ、ゲホッ――!」


急所を突かれた痛みで、レイモンは咳き込んだ。



話にすらならなかった。

圧倒的なアデルの勝利。

元々全てを躱せば合格だったが、半時も持たなかった。


……これがトップと底辺の実力の差なのか?

そう考えずにはいられなかった。


「これではっきりしただろ?

こいつには長所なんざまったくない。

ただの平凡な一般人だ」


ジャッドは黙り込んでいた。

優しい彼女でも、こんな大敗を見せられると言葉を失っていた。

近くにいた他の三人も、ただその場を見守ることしかできないでいた。

レイモンも、悔しくも返す言葉が見つからなかった。


「レイモンとやら。

貴様は試験の間、どこかに隠れているといい。

俺達は貴様抜きの五人で動く。

影で俺達が高得点を取るのをただ待っていろ」


そう言ってアデルは地面に突き刺した刀を回収し、その場を立ち去ってしまった。


「あまり気を落とさないで、レイモン。

ああ見えて、彼はあなたをとても心配しているの。

アデルは父親に連れられて既に何度も戦地に赴いているから、その厳しさを身に染みて分かっている。

だからあんなに厳しく当たって、しっかり精査したかったんだと思う。

でもね、うまく生き延びることも立派な戦術よ。

今回は私達に任せて、あなたは生き残ることだけを考えなさい。

……行きましょう、みんな」


そう言ってジャッド王女はヴェロニックとナタンを連れて、アデルの後を追ってしまった。




「…………」


王女の言うとおりかもしれない。

自分は両親を支えたいがために、ここまで来た。

別に名声を上げたいわけじゃない。


だったら、アデルの指示に従って試験の間は身を潜めたほうがいいだろう。

あんな優れたメンツなんだ。

こんな自分がいない方が、より高得点を取れるだろう。


 

そうレイモンは自分に言い聞かせた。

しかし心の中は、とてもざわついている。


……何か違う。

このままじゃ駄目な気がしてならない。

逃げ続けても、自分の弱さを磨くような気分になりそうだ。

それに――


「――納得できない、だろ?」


突然背後から声をかけられ、思わずびっくりした。

振り返ると、今まで空気と化していたセレストがレイモンの顔を満面の笑みでのぞき込んでいた。

無意識に不気味に感じるほどに。


「いやぁ、見事な大敗だったな!

あそこまでの圧倒的な勝負、久々に見て楽しかったぜ!

ありがとな!

今度飲みモンでも奢ってやろうか?」


セレストは馴れ馴れしく、レイモンの肩に腕を回した。


(こいつ、僕を貶してるのか……?)


楽しそうにゲラゲラ笑う彼を見て、不快に感じざるをえなかった。

一体何を考え、何を言いたいのか全く分からない。

それにみんなが去る中わざわざ残ってこんなことを言ってくるのだ。

まともな人間ではないだろう。


「――で、どうなんだよ?」

「は?何が?」


要領を得ない発言に、レイモンは戸惑いを隠せなかった。


「だから、お前はこれで納得してんのかって話だよ」

「――――っ」


そんなの、当たり前だ。


できるわけない。

仲間が必死に命を削る中、一人で何もしないで生き残るなんて、自分自身が許せない。

そんなの、人としてどうかと思う。

折角頑張って過酷な学校生活を乗り越えてきたのに、こんな結末なんて嫌だ。


「へへっ、やっぱりな!

じゃあ俺がチャンスを作ってやる」


セレストはレイモンの心の自問自答をすべて聞いていたかのように言った。

正直気味悪いが、それ以上の激しい感情がレイモンを支配していた。


彼は満足そうに、レイモンの目をまっすぐ見つめた。


「アデルの奴に『一週間後の再戦を望む』って伝えて、代わりに宣戦布告してやるよ。

それで勝てば、今日のことはチャラになるはずだぜ?」

「せ、宣戦布告!?」


そんなことをすれば、気が強いアデルの神経を逆撫でするのではないか?

そうすれば、もっとひどい目に合うかもしれない。


「いや、無理無理無理!僕を殺す気!?」

「えー?お前のことを思って言ってるんだぞ?

一週間もありゃなんとかなるだろ」

「んな無茶な!」


一週間という短い期間で、強くなれるわけがない。

もしかして、遊んでいるのか?

それとも、底辺が這いつくばるのがそんなに面白いのか?

そうレイモンは考えずにはいられなかった。


「無理は嘘つきの言葉だぜ?

じゃ頑張れよー」

「あ、おい!待てよ!」


セレストはレイモンが止める間もなく、颯爽と姿を消してしまった。

残ったのは、唖然とするレイモンと静かに吹き付けるそよ風だけだった。




「……ああ!もう!!

やりゃいいんだろ、やりぁ!

こうなったら、意地でできることは何でもしてやる!

うおおおおお!」


やけくそになったレイモンは、感情の赴くまま走り込みを始めた。

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