25話 部隊の持ち場
レイモン達第14部隊は、東軍の本陣へと合流した。
先輩たちの話を聞いたところ、どうやらチュテレール軍は本軍、西軍、東軍の3つに分かれているそうだ。
東軍と西軍は一人の少将が率いており、本軍を統括する大将の指示を受ける。
そして各軍は、いくつもの部隊が合併して構成されている。
レイモン達はヴェベールの指示に従い、陣の端の方に拠点を構えることになった。
彼は拠点を作った後に休むように皆に伝えた後、本陣へと向かってしまった。
どうやら部隊の動き方などを確認しに行ったようだ。
「あれ?ジャ……じゃなかった。
ヴァルキュリャとアデルは?」
拠点の設営を手伝っていたレイモンは、ジャッドとアデルの姿がないことにふと気付いた。
ジャッドの名前は、戦地で呼ぶと身分がばれてしまうため仮名で呼ぶように言われている。
それが、ヴァルキュリャ。
最前線で戦うことを望む、彼女らしい名前だ。
レイモンの近くにいたナタンが、作業をしながら質問に答えてくれた。
「ヴァルキュリャは少佐と一緒に、少将へ挨拶しに行ったよ。
アデルは彼女の護衛らしい」
なるほど、彼女はお偉いさんだから顔を合わせないといけないのだろう。
偉い人って色々気を回さないといけないことが多くて大変なのか。
そう自然と考えてしまった。
「二人とも、大変だなぁ……オランド少将、だっけ?
一体どんな人物なんだろう?」
レイモンがそう呟くと、意外にもセレストが反応した。
彼は仕事を放り投げ、荷物の上に胡坐をかき始める。
「マルク・オランド、別名”スローロリス”。
数年前の敵国との戦いで、最小限の犠牲で大将の首を持ち帰る。
その手腕は平凡なように見えるが、あっけなく相手を圧倒することができる」
彼はいつものふざけた感じは一切なく、ただ無表情で淡々と事実を列挙した。
二人は思わずポカンとしてしまった。
彼にもこんな真面目た時があるのかと、頭の中で同時に囁くほどに。
「君、詳しんだね……」
ナタンは頑張って言葉を見つけて、引き気味に呟いた。
するとセレストはいつものような怪しい笑顔を浮かべて、高揚気味になり始める。
「へっ!もっと褒めてくれよ!
俺は褒められると伸びるタイプなんだ!!」
そういってセレストはナタンに迫ったが、彼は迷惑そうな顔をして何も言わなかった。
……あっという間に、いつもの彼に戻っている。
セレストはどうやら、冗談を言っている時と真剣な時の落差が激しいタイプらしい。
だが今回の東軍のトップは、聞いた感じだととてもすごい人のようだ。
一体どんな性格の人で、どんな目をしているのだろうか?
(かなりがっしりとした体格で、頼もしい人なのかな?
それともジャッド様のような人柄なのかな?)
レイモンは、頭の中で少将のイメージをいくつも作りあげてみた。
そこで共通していたのは、頼りがいのあるしっかりした人物ということだった。
一体今回の戦いで、どんな作戦を立てているのか楽しみだ。
拠点が完成した頃には、既に日が傾き始めていた。
戦地についたのはお昼過ぎだったから、時間の流れって本当に早いものだ。
皆が英気を養いながら、夕飯の支度をし始める。
そんな中、ヴェベール達が帰還した。
「拠点の設営ご苦労!
此度の作戦を共有する故、みんなここに集合してくれ!」
レイモン達隊員は、一度手を止めて彼を囲うように集った。
そこには、ヴェベールと一緒に離れていたジャッドとアデルの姿もある。
ヴェベールは全員が集合したのを確認すると、声を張り上げて話し始めた。
「まず、相手の実力が分かるまでは各部隊が交代で正面から叩き込む。
第14部隊はまず初日を担当することになった。
編成に関しては当日伝える」
隊員達はざわつき始めた。
レイモンも内心穏やかではなく、眉間にしわを寄せる。
彼の言った作戦は、正直納得できるようなものではない。
第14部隊は戦局を大きく変えるために、重要な場面で導入されることが多い。
にもかかわらず、捨て駒のような扱いになるとは正直解せない。
少将に会いに行った人達はとても冷静に、皆の騒がしい様子を眺めていた。
まるでこうなることは想定済みだったと言わんばかりだ。
ヴェベールは「静粛に!」と一喝すると、話を再開する。
「お前達が不安に思うのは最もだ。
だが少将は、重要な部隊だからこそ犠牲が少なくて済むと考えている。
特に我々が相手する首領は情報が少なくて、どんな手を使ってくるか分からない。
だからこそ、第14部隊の出番というわけだ」
部隊に冷たい沈黙が流れた。
捉え方を変えれば、少将は厄介者払いをしたいと思っているとも考えられる。
ただでもヴェベールが若さゆえに上の人からのあたりが強いことは、皆知っている。
だからこそ、彼の言ったことを素直に受け取っていいのか誰も分からなかったのだ。
するとヴェベールは少佐としての態度を崩した。
彼の顔はいつも見せる、気さくな兄のような雰囲気を漂う笑顔だった。
「うーん?もしかしてみんな、オレのことを心配してくれるのか?
そんな……ぐすっ……上司思いの部下を持って、オレは幸せだよ……うえーん!」
ヴェベールはわざとらしく、みんなの前でウソ泣きを始めた。
それを見た隊員たちは、一斉にヤジを飛ばした。
まぁ、当然だろう。
凄くまじめな話の中で本気で心配していたのに、本人がこうだから。
おしとやかなジャッドやナタンでも、顔が引きつっている。
レイモンも正直、度肝を抜いていた。
「コホン!……まぁ安心してくれ。
他の部隊も一緒に参加するし、何しろオレ自身も前に出る予定だ。
お前達が考えているような理由で、この作戦が練られたわけじゃない」
ヴェベールの言葉で、その場の空気が一気に和らいだ。
やっぱり彼は、空気を和ませるのがとてもうまい。
緊迫した空気を冗談で壊し、そして隊員の心を緩ませる。
そんなメンタルケアこそが、彼の強みの一つなのかもしれない。
おかげで、レイモンも自然と笑みがこぼれるほど安心してしまった。
「オレからの連絡は以上!
ところで、例の準備はできているか?」
(準備……?)
レイモンは何のことか分からなかった。
しかし食事係の隊員が、元気よく「はい!」と答える。
「よし、それじゃあ景気づけに……」
ヴェベールは満足そうに、右手を高く振り上げた。
「宴だぁぁ!!!」
「うぉぉぉぉ!!!」
レイモン達新規隊員はついていけないまま、皆は一斉に歓声を上げた。




