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14話 底辺兵士の奮闘

試験会場は、至る所で戦火が上がっていた。

試験監督の先生がメインでロボット達を足止めし、学生たちはその隙に皆避難していた。

中には武器を召喚したり、魔術を駆使して応戦している学生もいる。

レイモン達は、本当に争いのど真ん中に立っていたのだ。


「よし、一番近いところから行くぞ!」


ヴェベールは二人の返事を待つことなく、付近で戦っている先生のもとへ走り出す。

レイモンも遅れを取らないよう、彼の後に続いた。



だがヴェロニックは、その場から動かない。


「……どうした?」


レイモンが気が付いて近寄ると、彼女は遠くを指差す。

その先を見たレイモンは、言葉を失った。




ジャッド達がいるはずの丘の上が、白いガスで覆われていた。

下の方を見ると例のロボットが何体もおり、皆頂上を目指している。

そして僅かではあるが、金属同士が激しくぶつかるような音が耳に入った。


(まさか、あんな状況で戦っているのか!)


慌ててイヤリングから皆に声を掛けたが、何も返ってこない。

激戦で返事する余裕がないのか、あるいは――

最悪な事態が頭に浮かんだが、すぐに首を横に振り考えないようにした。


「おい!こんな所で立ち止まって何している!?」


二人のただならぬ様子を見て、ヴェベールも駆け寄って丘の上を見た。

彼も驚愕して青ざめている。


「……オレが行く。

お前達はこのまま他の先生のところに行くんだ」


ヴェベールは二人から離れようとした。

しかしレイモンが彼の袖を引っ張り、引き留めた。


「待ってください!

あそこで仲間が戦っているんです!

僕達に行かせてください!」


レイモンは必死に彼を説得しようとした。

肩を震わせている彼を見て、ヴェベールは目を逸らした。


「気持ちは分かるが、見ての通りかなりひどい有り様だ。

この中で一番強いオレが、王女様を助けられる可能性が高い。

お前たちだけでも仲間に敵の性質と攻略法を伝えないと、事態はさらに悪化しかねない!

安心しろ、必ず皆救い出す」

「……っ」


確かに、彼の言うとおりだ。

あんな毒ガスが充満した危険地帯で状況を打破できるのは、実戦経験を多く積んでいるヴェベールだけかもしれない。

ここら適材適所に動くのが、最も最善の策だろう。


……でも、本当に彼だけで大丈夫なのだろうか?

ただでも敵が集まっているのに、その上ガスに注意してジャッド達を救うなんて、本当にできるのだろうか?

彼を死にに行かせるだけのような気がしてならない。



そんな中、ヴェロニックが口を開く。


「……ヴェベールさんが情報を伝えに行った方がいい」


予想外の発言に、二人は空いた口が塞がらなかった。


「ヴェベールさんが一番足が早い。

だから、すぐに皆に情報が伝わる」

「そうかもしれないが、あれを何とかできるのは――」


彼女はヴェベールの反論を遮るように、話を続ける。


「策がある。

うまくいけば、一瞬であの丘の上に行って救出できる。

……でもそれには、二人必要」


ヴェロニックがそこまで言うと、ヴェベールは押し黙ってしまった。

そのアイデアを詳しく聞きたいところだが、そんな余裕はない。

しかしこれまでの彼女の貢献を鑑みるに、浅はかな考えで提案しているわけではないだろう。


ヴェベールは深くため息をついた。


「はぁ、全く。

本来なら上官の指示に従わないのは罰則ものだ。

……だが、本当にその策に自信があるのなら今回はお前の意見を受け入れよう。

但し、絶対に王女たちを助けるんだ!」


ヴェロニックは頭を下げた。


「……行こう、レイモン」


ヴェロニックは上手く状況が追いついていない彼をそのまま引っ張り、丘の上へと向かう。

ヴェベールは少しの間だけ二人を見送った後、アデルにも引けを取らない速さで試験会場を走り回った。







二人が丘の麓にたどり着くと、激戦の音がはっきりと聞こえた。

中には銃声らしきものも交じっていて、それだけでジャッドの無事は確認できた。


しかし、これからどうすればいい?

周囲にいるロボットは上へ一直線へと向かっているため、こちらには一切攻撃してこない。

だが個体数が多すぎて、まるで金属の壁のようになってしまっている。

間をすり抜けて行けはするが、到着までかなり時間がかかりそうだ。

もし既に誰かがガスを吸っていたとしたら、そんな悠長に向かっていたら死んでしまう。


そんなことを考えているレイモンに、ヴェロニックは火矢を押し付けた。


「……魔力を込めれば、火が付く」


それだけ言うと今度は懐から魔導書を取り出し、パラパラとめくりだす。


「昔、本で読んだことのある方法を使う。

着地はウチが何とかする。

でも、制御が下手だから他は自力で何とかして」

「え?ん?着地……?」


レイモンは何のことか分からなかった。

だがヴェロニックはそれ以上説明することなく、そのまま魔法陣に魔力を込め始めた。

嫌な予感がする。


「ちょっと待って、もう少し詳しく――」


レイモンが言い終わる前に、彼の足元から風が吹き始めた。

それは徐々に強くなり、やがて彼の体が少しずつ軽くなっていく。

ここでやっと、レイモンは彼女が何を考えているのか察した。


「う、ウソでしょ……うにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


レイモンは青ざめたまま、悲鳴を上げて空高く舞い上がった。

かなり本気の風魔術を使ったらしく、ヴェロニックの姿がとても小さく見えるほどだ。

彼はかなり高いところまで上がったかと思うと、やがて地面に引っ張られるように落下を始める。




恐怖で心臓が止まりそうになる中、ガスが充満している丘の上が目に入った。

そこではセレストが黄金色に輝く刀を振り回し、狂った野獣の如く敵を一撃で破壊し続けている。

その度にガスが噴出するも、彼は一切気にしない。

そんなセレストの暴れっぷりを、レニエはひたすら怯えて見ていた。


二人から少し離れたところには、ジャッドとナタン、ジェラールがいる。

ナタンは毒のせいで意識が朦朧としているみたいだが、それでも防御魔術を駆使してガスの入らない安全地帯を作っている。

その中で、ジャッドは微力ながらも銃でセレストの援護をしている。

ジェラールも毒にやられてうまく動けないみたいだが、三人のいる場所に入ろうとするロボットを必死に抑え込んでいた。


正直、かなり不利だ。

ナタンの意識が途切れば、ジャッドも毒の餌食になってしまう。

セレストは何故か大丈夫そうだが、彼にも体力の限界がある。

レイモンでもこの状況がまずいことはすぐに分かった。



レイモンは咄嗟に弓を構え、矢先に火をつけた。

しかし矢を射ろうとした時、すぐにその手を止めてしまった。


(待って……このまま引火させれば、みんな爆発に巻き込まれる!)


この状態で爆発すれば、到底みんなが無事に済むような気が全くしない。

もしかすると、自分がみんなを殺してしまう可能性だってある。

そう考えると、レイモンの手には力が入らず矢が惨めに震えてしまった。


「撃てぇぇぇ!!!」


突然、鋭くて高い声が響き渡った。

声の主を見ると、ジャッドがレイモンの方を見ている。

その顔には、指揮官としての覚悟と肝の据わった力強さがあった。

まるで自分達のことは心配するなと言わんばかりに。


「――っ!」


レイモンは意を決して、皆に向かって火矢を放った。

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