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13話 立ち上がれ、レイモン

丘の上で激戦が繰り広げられる中、アデルとヴェベールも突如現れたロボットに刃を向けていた。


「ヴェル兄、俺に合わせろ!」

「ああ!」


アデルは再び魔術を使い、凄まじい勢いで相手に何回も攻撃を叩き込んだ。

敵は無機質にただ捌いているだけだったが、完全にアデルに注意を向けている。


そのすきに、ヴェベールは相手の脇に渾身の一撃を入れた。


「――ぐっ!?」


想像以上の硬さに、ヴェベールは戸惑いを隠せなかった。

これまでグエッラのロボットを何体も屠ってきたが、この攻撃で両断できなかった個体は居なかった。

にも関わらず、傷をつけるどころかビクともしない。

ほんの一瞬だけ、相手の動きを止めただけだ。



その間に、アデルは最大限とれる距離をとった。

そして足に全神経を向けつつ、居合の構えを取る。


「らぁぁぁぁぁ!!!」


アデルは、今までに見たことのないスピードで駆け出した。

音速を遥かに凌ぐ速さで走るその姿は、まるで赤い閃光のようだった。

そのまま彼はロボットに衝突し、後ろの壁にぶつかるまで疾走する。


アデルの勢いと重さに耐えきれず、ロボットの首は切断された。

しかし安心する間もなく、切り口から白いガスが噴出する。


「っ!?」


アデルは反射的に全速力で後退し、ガスが充満している範囲から逃げた。

だがその際に、無意識に煙を吸ってしまう。


「――ゲホッゲホッ……ゴボッ!」


アデルは咳き込んだかと思うとすぐに吐血し、バランスを崩した。

刀を地面に突き刺して意地で立ってはいるが、それがやっとの状態のようだった。


「おい!しっかりしろ!

……クソ!毒ガスか!?」


彼のもとに駆け寄ったヴェベールは、下唇を強く噛む。


アデルに意識はあるが、苦しそうに血を吐き続けている。

直ぐに治療しないとまずいのは一目瞭然だ。



だがそれよりも、事態の深刻さが問題だった。


相手を壊せば毒ガスが出てしまうため、倒してはいけない。

ただでも厄介なのに、それを知っているのは自分を含め実際に敵が壊れたところを目撃した者だけ。

中には既にガスを吸ってしまっている人もいるだろう。

早くこの情報を伝えないと、大惨事になりかねない。


ヴェベールの頭がせわしなく活動する中、シュヴァリエ伯爵が指示を下す。


「ヴェベール君、君は先生達に毒ガスのことを伝えに行きなさい!

アデル君はワシが医療班のところへ連れて行く。

そこの子達、ヴェベール君の手伝いをするんじゃ!」


シュヴァリエは、しっかりとした足取りで立ち上がった。

麻酔のせいでまだ動かすのも難しいはずだが、体に鞭を打って動いているのだろう。


「ま、待て……ゴブッ……

俺は……まだ……戦える…………!」

「お主、そんな体でどう戦う気じゃ!?

無茶と無謀の違いを知らんのか!?」


血を吐きながらも暴れるアデルを、シュヴァリエは無理やり背負った。

それでも抵抗するためやむなく頭突きでアデルを気絶させた後、年を感じさせない速さでどっかに行ってしまった。


「……分かりました。

よし、二人とも。オレについてこい」


ヴェロニックは静かに頷いた。



しかしレイモンは、腰を抜かしてガタガタ震えている。

命を懸けた本当の戦いを初めて目の当たりにし、怯えてしまっていたのだ。


これまで実際の戦場がどういったものなのかは頭の中で想像してきた。

圧倒されるような殺気、血の匂い、仲間の亡骸……

それだけでも悪夢になりそうだったが、戦場に赴いた際にはもっと悲惨な光景が待っていると覚悟していた。


だが実際に見ると、想像の遥か上だった。

僅かな隙で命を落としかねない過酷な状況が、こんなに恐ろしいものだとは思っていなかった。

それにあんな強いアデルが、あっけなく動けなくなるなんて。

こんな戦場で、弱い自分が生きていけるはずがない。


(逃げたい……でも、逃げたら、どうなる?

本当にただの腰抜けになっちゃうんじゃ……)


レイモンは恐怖に押しつぶされそうになりながら、全く動けなかった。




突然、ヴェベールがレイモンの胸倉をつかんだ。


「おい、しっかりしろ!!」


彼はバチンと大きな音を立てて、レイモンの頬をひっぱたいた。

レイモンが我に返ると、恐ろしい形相をしたヴェベールの顔が目の前にある。


「慣れろとは言わない。

だがな、これよりも悲惨な光景が戦場ではごまんとある。

死にたくないなら、必死に抗え!

それが兵士に求められるものだ!」


彼の一喝により、レイモンの邪念は少しずつ晴れていった。


……そうだ。

絶対に生き残って両親に元気な姿を見せようと心に誓っていたんだった。

だったらこんなところでしり込みをしている場合ではない。


戦わないと。

戦って、絶対に生き残らないと……!


「……すみません、おかげで目が覚めました」


レイモンの顔はまだ強張っていたが、迷いが消えしっかりと前を見据えていた。

恐怖を克服したと判断したヴェベールは彼からそっと手を離す。

そして剣を一本召喚し、覚悟の決まったレイモンに投げ渡した。




ヴェベールはついてくるように合図を送り、その場から離れようとした。


「……待って」


引き留めたのは、ヴェロニックだった。


「確かめたいことがある。

火矢を貸してほしい」

「……え?」


ヴェベールは疑問を持ちつつも、火矢を召喚して彼女に渡した。

ヴェロニックは矢に火をつけた後、毒ガスが充満する方に向けて弓を引き始める。


「下がって」


言われるがままレイモンとヴェベールは彼女の後ろに下がった。

そして狙いが定まった瞬間に、ヴェロニックは火矢を放つ。



すると、火がガスに触れた時大きな爆発が起こった。

振動が内臓にも伝わり、危うく吹き飛ばされそうだった。

少し落ち着いてから前方を見ると、さっきまであった白い煙が跡形もなくなっている。

レイモンとヴェベールは絶句した。


「……グエッラの使う毒ガスは、大抵可燃性。

師匠から教わった。

少し危険だけど、これが一番だと思う」


彼女が言いたいのは、恐らく遠くから攻撃してわざとガスを噴出させた後に引火させるのが、一番安全な対処法ということみたいだ。

爆発の威力はすさまじいが、ガスを吸って死ぬより遥かにマシだ。


「でかした!それも一緒に伝えに行こう!」


ヴェベールは晴れやかな顔を見せると、二人を連れてその場から立ち去った。

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