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11話 災い来たる

ナタンとジェラールは、ジャッドの肩から血が流れていることに驚愕した。

大慌てでナタンが彼女に駆け寄ると、幸い大した怪我ではなかった。


しかし、この試験で相手を怪我させること自体あってはならない。

それに攻撃の軌道から察するに、彼女の頭を狙った可能性が高い。

であれば試験のルールを破ったという、軽い話の範疇を超えている。



ナタンが応急処置をする中、ジェラールは犯人がいる方向を睨みつけていた。


「……貴様、一体何のつもりだ?」


彼の威圧に答えるように姿を現したのは、なんと誰もが知る人物。


特別チームの一員であり、軍学校の魔術教師……レニエだ。

彼は見慣れない防護服のようなものを着ていて、異質な雰囲気を漂わせている。


「何って、お前は脳みそも筋肉でできてるんか?

見ての通り、そこにいる王女様を攻撃したんだが?

まぁ、外れちまったがな」


レニエは簡単に自分の犯行を認めた。

言い訳を諦めただけかもしれないが、それにしてもあっさりしすぎている。

皆、彼が何を考えているのか微塵も分からなかった。


そんな中、ナタンが気持ちを抑えられなくなった。


「レニエ先生、それが何を意味しているのか分かっていますか?」

「あーはいはい、国家反逆罪だろ?死刑レベルの重罪だな」

「だったら何故!?」


レニエは眉間にしわを寄せながら頭を掻いた。

説明するのが面倒で、どうするか迷っている様子。

だがジェラールが威嚇すると、レニエはため息をついた。


「……グエッラの奴に協力を持ちかけられたんだよ。

スパイの潜入を手伝ってくれれば、重要ポストを与えるってな。

教師の仕事って、薄給の癖に激務で昇給の望みもなくて将来がない。

だったら敵国にこの身を売るっていうのも筋だろ?」


悪びれず淡々としている彼に、ジェラールは言葉を失った。

同じ教師として、彼の言ったことに憤怒している。

今襲い掛かってもおかしくないほどだ。


「だがな、なぜか潜入するはずのスパイが殺されちまってよぉ。

面倒なことに、俺が奴らの仕事をやる羽目になっちまった。

……はぁ、さらに上のポストを確約されたとはいえ、こんな大仕事をする羽目になるとはな」


レニエは指を鳴らすと、魔術で姿を隠していたロボットが突如三体出現した。

この国の技術では到底作れない、重厚で高度なものだ。

二メートル以上の人型で、片手に銃や剣、槍と個体によって異なる武器が取り付けられている。

そして胸には、技術大国グエッラの紋章が刻まれていた。


ナタンとジェラールは、ジャッドを庇うように前に出た。


「昔のよしみで教えてやるぜ、ジェラール。

コイツは最新作でな、グエッラの君主様は戦闘データをご所望らしい。

王女を狙うのは、まぁ……俺の勝手な判断だ。

だってお偉いさんの首を献上すりゃあ、さらに高い地位を得られるはずだろ?」


ロボット達は臨戦態勢を敷いた。

どうやら本気で、ジャッドを殺す気のようだ。


レニエは狂ったような笑みを浮かべ、欲に目が眩んでイカれてしまっている。

もう話が通じる状態ではない。

この事態を収束するには、彼を無理やり止めるしかない。


そんな中、ジャッドは彼女を守ろうとするナタンたちの前に出た。


「ジェラール先生、一応確認するわね。

ここからは本物の武器を使っても構わないかしら?」

「っ!……勿論だ!オレが責任を取る!!」


ジャッドは大剣をジェラールに手渡し、その後実弾の入った銃を召喚した。

二人が武器を構えると、これまでの脳天気な模擬戦から本当の殺し合いへと切り替わった。

静かな張りつめた空気が、その場にいた全員の頬を撫でる。




***




特別チームの本陣で、最初に違和感を感じたのはヴェロニックだった。

彼女が辺りを不審そうに見回しているのを、レイモンは疑問に思った。


「どうした?」

「…………微かに、血の匂いがする」


彼女の発言に、一同は顔をしかめる。

この試験で血が流れるはずがない。

ましてや匂うほどの量となれば、戦場でないとあり得ない。

大方、彼女の勘違いだと皆は思い込んでいた。




しかし、アデルが急に叫び出す。


「レイモン!上だ!避けろ!!」


地面に寝そべるレイモンが上を向くと、何かがこちらに向かって落ちてくるのが目に入った。

彼が本能的にその場から離れた途端、ドシンッと大きい音と砂埃をたてて何かが目の前に現れた。



煙の中には、巨大な何かが佇んでいるのが見える。

そのシルエットは、明らかに人間ではない。

一体何が起きているのか、レイモンには理解できなかった。


「……お主、何者じゃ?」


シュヴァリエは先程までの朗らかな様子ではなく、とても冷たく牽制した。

周りにいる皆も、毛が逆立つほどの警戒心を見せている。

そんな殺気にレイモンは飲まれ、子鹿のように震えそうになった。



徐々に砂煙が晴れるのと同時に、敵の姿が鮮明になっていく。


それは、誰も見たことのない機械兵器だった。

取り付けられた右手の剣、胸には敵国の紋章――

本物の敵だ。



ヴェベールは即座に、赤い信号弾を空高く発射した。

試験を取り仕切る本部に、”緊急事態”を知らせるためだ。

この信号が上がった場合、直ちに試験は中止となり武器を持った先生が介入する手筈となっている。


だが試験会場の真ん中に急に現れたことから察するに、相手は念入りに計画を練っているはず。

それにさっきヴェロニックの言ったことが本当なら、敵が他の場所にも現れて既に怪我人がいる。

もしかすると、死んでいる人も――



そんなことが頭の中を駆け巡る彼の額には、汗がにじんでいた。


「ヴェベール君!」


シュヴァリエの声に驚いて、ヴェベールは振り向く。

すると、目の前でロボットが剣を高く振り上げていた。


ヴェベールは咄嗟に試験用の刀で相手の剣を振り払った。

だが刀はあまりにも脆く、一撃で粉々に砕け散る。


「――ちっ!」


ロボットは再び剣を振り上げた。

しかしそのすきにアデルが高速で割って入り、敵を遠方に蹴飛ばす。

相手は少したじろいだが、すぐに体勢を立て直しこちらに迫ってくる。


「アデル!」


ヴェベールはジャッドと同じ召喚魔術で、刀を二本召喚した。

そして片方を、振り向いたアデルに投げ渡す。



直後二人は刀を構え、敵に向かって走り出した。

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