プロローグ
――世界の輝きが、死んだ。
肌から感じるのは、戦火の熱さだけ。
ただれるような痛みと、傷口の焼けつくような感覚が、全身を駆け巡る。
かつての人の温かさと感触は、とうの昔に忘れ去ってしまった。
握りしめる武器から、誰のものか分からない冷たく赤黒い液体が滴る感触が伝わる。
耳を澄まして聞こえるのは、鼓膜が破れるほどの大きな空爆の音。
相対するは、殺戮兵器と生きる屍の集団。
どちらも互いを滅ぼすために生まれ、駆逐されるまで止まることはない。
それは未来永劫、世界を支配する闇のように潰えることはない。
目を閉じて見えるのは、最愛の人の最後の姿。
かつては金色に輝き、誰もが彼女を崇拝した。
だが信頼する者達に裏切られ、無実の反逆者として断頭台でその命を散らした。
彼女の死に顔は悲哀に満ち溢れ、多くの人の脳裏に焼き付いたことだろう。
「…………」
……希望は、潰えた。
ただ唯一の拠り所は、この手にある禁忌の術のみ。
何百万もの人の命を糧に、時空を遡る奇跡の術。
それでも、この世界の運命が変わることは神にも保障できないだろう。
だとしても、僕は時間を巻き戻そう。
大切な人の幸せを取り戻せるのなら、何でも差し出そう。
僕は、アンデッド。
最愛の人の最高傑作。
何百万、何千万回死んでもこの肉体は砕け散ることはない。
数多の贄の死を全て肩代わりし、僕がこの世界の運命を変えてみせよう。
心が壊れ理性を失ったとしても、不死でも耐え切れぬ苦痛に耐えてみせよう。
今度こそ、あの黄金の輝きを守り抜いてみせる。
「……すべては、ミュリエルのために」