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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
48/53

第48話「静かなる決意、動き出す歯車」ルビここから

 数日が経ち、ギルド《金獅子》の訓練場では、今日も変わらず魔力の流れと気合の声が飛び交っていた。

 

 夕方を迎えた空は朱に染まり、訓練場の影を長く引き伸ばしている。


 その中央。ララとミレーナは、互いに向き合いながら集中の面持ちで立っていた。


「……ふっ!」


 ララの手元で、一瞬だけ小さな火花が飛び、弾ける。

 

 それは、簡易的な火球――初歩的な攻撃魔法ファイアショットの無詠唱版だった。


 小さな成果ではあったが、確かな前進だった。


「惜しい! でも今の、少しだけ“感触”あった!」

 

「焦らず、力まず、意識は魔力の流れに乗せるだけ。ね?」


 隣で微笑むミレーナが、ララにアドバイスを送る。

 

 彼女自身は、既にいくつかの魔法を無詠唱で扱えるようになっていたが、今は中級魔法アクアランスの無詠唱習得に取り組んでいた。


「うぅ、やっぱり術式が複雑だと、無詠唱って難しいわね……」

 

「それは、頭で考えすぎてるからだ。大事なのは“どんな風に発動させたいか”ってイメージだよ」


 ふと近づいてきたルークが、ミレーナの構築中の術式を覗き込みながらそう助言する。


「詠唱がない分、魔力の回路はより直感的になる。中級魔法も、初級と同じで“形”を描くんじゃなくて、“結果”をイメージするんだ」


「……なるほど。“水の槍を放つ”んじゃなくて、“相手を貫く流れ”をイメージする、ってことね?」


 ミレーナは頷きながら、新たな集中の色を瞳に宿した。


 互いに支え合い、教え合うふたりの姿は、ほんの少し前までは想像もできなかったものだった。その成長の風景に、ルークはどこか満足げな微笑みを浮かべる。



 ◆

 


 その後、ルークは訓練場の端へと足を運んだ。

 

 ガイとメイジスの模擬戦がちょうど行われており、その様子を見守る。


 重なり合う剣戟の音が、空気を震わせる。かつては勢い任せだったガイの斬撃に、いまや鋭い“読み”と“間”があった。

 

 メイジスの足運びも軽やかになり、付与魔法を絡めたコンビネーションがしっかりと形になっている。


 さらに――


「はっ!」


 ガイの剣が空を切り、鋭い斬撃が飛翔する。

 

 それを見事にいなしながら、メイジスも魔法の刃で応戦した。


「……連撃の中に、飛ぶ斬撃を組み込んでるのか。応用もできてるなんて、すごいな」


 自然に漏れたルークの声に、


「だろだろ!? がっはは、いい感じに仕上がってきてるだろ!」

 

 横からダグラスが豪快に笑い声を上げた。


 「ええ、とても良い仕上がりです」

 

 ルークもまた笑い返し、頼もしい仲間たちの成長に心の中で拍手を送る。


 そのまま訓練場を歩きながら、次に視線を向けたのは裏手の休憩スペース。そこでは、モニカがギルドの若手冒険者たちに簡単な治療を施していた。

 

 擦り傷、軽い捻挫――日々の訓練で生じた小さな怪我たちだ。


「……よし、これで大丈夫。次の子、来て」


 その手つきは穏やかで、どこか凛としたものを感じさせた。

 

 ルークが見守る中でも、その集中は途切れることがない。


 その傍らに座るシエルは、一枚の紙をじっと見つめ、険しい表情で目を細めていた。


「……シエル?」

 

 声をかけると、シエルは顔を上げ、少し驚いた表情を浮かべた。

 

 それだけ集中していたのだ――報告書に書かれた内容に、彼女も危機感を覚えていたのだろう。


「《薄明の裂谷》で、“スケイルレイス”が目撃されたそうです」


 シエルは見ていた報告書をルークに手渡す。

 

「……また下層の魔物が、浅層に?」


「はい。ナイトグールに続いて、今度はスケイルレイス。異常接近が、立て続けに起きていると――ギルドからの正式な連絡です」


 ルークは報告書に目を通し、静かに息を吐いた。


「偶然、とは言えないな。何かが、確実に起きてる」


 モニカも手を止め、心配そうにルークの顔を見つめている。

 

 誰もが感じていたのだ――何かが、確かに“こちら側”に忍び寄ってきていることを。


「……一度、ちゃんと確認しに行くか。今のうちに、はっきりさせておくべきだろう」


 ルークのその決意の声は、訓練場の夕風に乗って、静かに消えていった。

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