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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
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第47話「揺らぐ訓練場、歪むダンジョン」

 ギルド《金獅子》の訓練場。夕暮れが近づく中、風が微かに熱を帯びていた。


 ルークはララとミレーナを前に立たせると、静かに言葉を落とした。


「次の課題は二つだ」


 ふたりの視線が自然と引き締まる。


「まずは、アンチマナブロックを弾かれることなく、瞬間的に完全に覆い、その状態を維持できるようになること」


「……っ!」


 ララがごくりと唾を飲む。さっきまでの成功が“入口”に過ぎなかったことを思い知らされたのだ。


「そしてもう一つ。簡単なもので構わない。戦闘用の魔法を一つ、無詠唱で発動できるようにすること」


「無詠唱……!? 私、出来る自信ないなぁ……」


 戸惑いを隠せないララが思わず声を上げた。ミレーナがすかさず得意げに口を開く。


「私が教えてあげますわ。一応、いくつかなら使えますから」


「えっ!? ミレーナちゃん、無詠唱使えるの!? すごっ!」


「ふふ、まあ、努力の賜物というやつですわね」


 思わぬところで明かされた事実に、ララの目がきらきらと輝く。

 

 先ほどまでの焦燥は、すっかり和らいでいた。


 ――その変化に、ルークもひとつ安堵の息をつく。


 少し前まで衝突ばかりだったふたりが、今は並んで訓練に向き合っている。それは、何よりも大切な成長だった。


「なら、そっちは任せていいな。ミレーナは……そうだな、中級魔法の無詠唱をひとつ、完成させてくれ」


「わかりましたわ。お見せします、私の“本気”を」


 ミレーナは胸を張り、誇らしげに答える。


 夕陽が訓練場を橙色に染める中、ふたりは新たな課題へと挑み始めていた。


 

 ◆

 


 ――夜。


 街エルーラの北側に位置する、《薄明の裂谷》と呼ばれる初級小型ダンジョンの入り口。そこに、ルークとシエルの姿があった。


「……この空気、なんだか変ですね」


 シエルが周囲を見渡しながら、警戒の色を浮かべる。


 岩肌に囲まれた谷を抜け、ダンジョンの内部へと足を踏み入れると、空気はぐっと冷え込んだ。地面からは淡く白い霧が立ち込め、奥には小さな森のような空間が広がっている。


「このダンジョンって……本来は、初級者向けですよね?」


「ああ。出てくるのもせいぜいE~Dランクの死霊系が中心だ。だが……」


 その言葉を遮るように、足元の草陰から、低く唸るような咆哮が響いた。


 次の瞬間、霧の中から現れたのは――

 鋭い牙と灰色の体毛を持つ、ナイトグール。本来ならこのダンジョンの下層に現れるはずの、Cランクの強敵だ。


「上層に……上がってきてる?」


 シエルの声に、ルークは剣を抜きながら頷く。


「どう考えても異常だな。こんな浅い階層に、あんなやつが出てくるなんて」


 素早く間合いを詰めたナイトグールが、鋭い爪で切りかかってくる。だがルークの一閃がそれを断ち切り、グールは呻き声をあげることもなく、霧の中へ崩れ落ちた。


「……数は多くはなさそうだ。けど、質が違う」


「例の男……が関係しているのでしょうか?」


 シエルがぽつりと呟く。最近、何度か目撃されている、あの“魔術師風の男”――


「今はまだわからない。ただ、定期的に確認しに来た方がいいな」


 ルークは剣を納め、霧の立ちこめる空間をもう一度見渡す。


 霧は静かに、しかしどこか不穏に――まるで“誰か”の気配を孕んでいるかのように、揺れていた。


 


 ――荒れ狂う闇は、静かに。

 その足元へと、確実に近づいてきていた。

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