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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
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第46話「瞬間を掴め、魔力制御の核心」

 ギルド《金獅子》の訓練場には、連日変わらぬ熱気が漂っていた。


 昼を越えた陽射しが容赦なく照りつけ、乾いた空気に、若き冒険者たちの息遣いと汗の匂いが混じる。


 ガイとメイジスの動きには、すでに目に見える変化が現れていた。

 

 大振りだった剣筋は徐々に鋭さを増し、単調だったフットワークも、今では呼吸と連動するようになっている。無駄のない動作――それは、確かな成長の証だった。


 「おお、いいぞガイ! そのまま一歩踏み込めッ!」


 ダグラスの怒声も、もはや罵声ではなく(げき)に近い。

 

 メイジスの額には汗がにじんでいたが、口元は確かに笑っていた。


 一方、芝生の上ではモニカがシエルに手を包まれていた。

 

 かすかに光る掌。そこから生まれた癒しの力が、そっと花の蕾に触れると――わずかに、開く。


「……やった」


 モニカが小さく呟いたその声には、自信と喜びが滲んでいた。


 ――ただし、全員が順調というわけではなかった。


 訓練場の一角。

 そこには、ララとミレーナ、そして黒く光るアンチマナブロックがあった。


「くっ……やっぱり、はじかれる……!」


「今度は少しはいけた……って思ったのに……悔しい」


 何度挑んでも、結晶は彼女たちのマナを拒絶する。

 

 悔しさと焦燥が入り混じった表情が、その手元に滲んでいた。


 ララは静かに唇を噛む。自分は“できる側”であると、どこかで思っていた。けれど、現実はそう甘くない。

 

 ミレーナもまた、視線を下げていた。


 二人の額には汗が滲み、表情には焦りが浮かぶ。

 

 その様子を見つめていたルークは、ふと小さく息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「――二人とも、少し“出し方”を間違えてるな」


「出し方?」


 顔を上げたララに、ルークは手本を見せるようにアンチマナブロックを取り出した。


「魔臓からマナを捻出して、それを操作してるつもりだろうけど……問題は“緩やかすぎる”ことにある。詠唱や補助魔法ならそれでもいい。でも、こいつ相手には通じない」


 ルークは結晶の上に掌をかざし、一気にマナを放出する。

 

 その瞬間、ブロックの表面をぴたりと覆うように、薄いマナの膜が張られた。


「……!」


「瞬間的に、適量のマナを“撃ち出す”んだ。そしたらすぐに、それを切らさないように“循環”させる。イメージとしては、泉じゃない。“噴水”のように勢いよく溢れ出させるんだ」


 ララとミレーナは食い入るようにルークの手元を見つめる。


「――アンチマナブロックは、近づいた瞬間にマナを拒む。出力が遅れたら、それだけで覆うのは不可能になる」


 短く、明確な説明だった。


「……やってみる」


 ララが立ち上がる。指先に集中し、魔臓の奥から一気にマナを噴き出すイメージを――強く、明確に――


「っ……!」


 ピシリ、と結晶の表面を光が走った。完全ではない。しかし、明らかに“弾かれ方”が変わっている。


「……今、ちょっとだけ包めた気がした……!」


「わたしも……やってみます!」


 ミレーナもまた続く。

 

 強い感情が、魔力の通り道をこじ開ける。師と仰ぐ者の技に一歩でも近づくために、歯を食いしばる。


 ――時間は、夕暮れへと向かっていた。


 その頃には、二人のマナは一瞬だけだが、確かにアンチマナブロックを“包み込む”ことに成功していた。


「……やった、今の、ちゃんと……!」


「成功……した、かも……!」


 二人は息を切らしながらも、達成感に満ちた表情を浮かべる。


 そんな姿に、ルークはふっと笑い、腕を組んだ。


「この短期間で――上出来だ」


 けれど。


 その言葉のすぐ後に、冷たい風のような声色で続けた。


「だがまだ、その程度じゃ“本番”では通用しない。次の段階に進むぞ」


「え……?」


「次……って……?」


 二人の戸惑いをよそに、ルークは懐から一枚の羊皮紙を取り出す。


 そこには、複雑な術式と、次なる訓練の内容が記されていた。


「“応用編”だ。覚悟しろよ」


 ――新たな修行の幕が、いま上がろうとしていた。

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