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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
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第45話「鍛錬の地に立つ、“灰”の気配」

 ギルド《金獅子》の訓練場。

 

 昼を回ったばかりの太陽が空高く照りつける中、ルークたちは既に汗ばむ空気の中にいた。


「さて、落ち着いたところで……さっそく特訓に入るぞ」


 ルークが声を上げると、仲間たちが自然と顔を引き締めた。


「俺が見るのはララとミレーナ。ダグ兄はガイとメイジス、シエルにはモニカの指導をお願いする」


「おうよ、燃えてきたぜ! まずは体力測定からでもぶち込むか!」


 ダグラスが木剣を肩に担いで笑う。言葉とは裏腹に、その目には真剣な光が宿っていた。


「モニカさんは、回復魔法の適性が高いと思います。サシャ様と同じ“聖属性”の資質がありますから」


 シエルの穏やかな声に、モニカが緊張しながらも微笑を返す。


「……よろしくお願いします」


 それぞれの担当に別れていく中、ルークはララとミレーナを呼び止めた。


「まずはこれを使う」


 そう言って、懐から取り出したのは黒く光る結晶体。アンチマナブロックだった。


「……それって、あの時の……?」


「そう。ミレーナを救うきっかけになった、例のアイテムだ」


 ルークは二人にそれぞれ手渡すと、静かに説明を始める。


「このアンチマナブロックは、マナを拒み弾く性質がある。これを右手で包み込むようにマナを付与しつつ、左手では灯火の魔法を持続させる。そして三十分ごとに左右を交代。これを繰り返す」


「……なるほど。魔力回路の偏りを均す(ならす)ってことね」


 ララがすぐに理解し、指先でブロックを転がす。


「無意識のうちに利き手側の回路が強化されてる奴は多い。けどそれじゃ、高速戦闘での多重詠唱には対応できない」


 ルークは言いながら、実際にブロックへマナを流し込む。黒い結晶の形に沿うように綺麗にマナの膜が形成される。


「アンチマナブロックに身体強化の要領でマナの膜を弾かれずに張ることが出来れば、魔力の立ち上がりが早くなる。実戦でも一手が速く、強くなる」


「……すごい。しかもこれ、エイネシア様が作ったんですよね?」


 ミレーナが食い入るようにブロックを見つめた。


「ああ。だからこそ、お前にはこの訓練が合ってると思った。師匠に憧れてるお前なら、きっとやり遂げられる。そして、魔力量が多く多重詠唱を行えるララにも、この修行はもってこいだ。出来るようになれば、魔法発動の際のロスが減り、出力、回数ともに今の何倍も良くなる」


 その一言で、ララとミレーナの瞳が燃えるように輝く。


「絶対にできるようになってみせますわ……!」

 

「任せてよ! こんなのあっという間に会得してやるんだから!」


 二人の言葉にルークは満足げに頷き、三人はそれぞれの訓練へと移っていった。


 

 ◆

 


 訓練場の別区画では、ダグラスの怒号が飛び交っていた。


「そこだ! 止まるな、ガイ! その一歩が生死を分けるんだよ!」


「は、はいッ!!」


「メイジス、もっと腰を落とせ! 剣は力で振るんじゃねぇ、体重で流せ!」


 ひたすらに汗を飛ばしながら、二人は必死に木剣を振るっていた。


 一方で、木陰の芝生の上では、シエルがモニカの手を両手で包み込んでいた。


「恐れず、魔力を感じてください。あなたの想いが魔力を導きます。回復の力は“救いたい”という感情に反応します」


「……うん」


 モニカの手のひらに、小さな光が灯る。頼りない光だったが、確かな“希望”の輝きだった。

 


 ◆


 

 陽が傾き始める頃には、訓練場に疲れ切った息遣いが広がっていた。


 倒れ込む者、座り込む者、それでも誰一人として、文句を言わなかった。


「……やべぇ、足が棒ってこういうことか……」


「でも……なんか、ちゃんと“修行してる”って感じするよね……」


 笑い声が、少しずつ空気を和ませていった。



 ◆

 


 ――その日の夜。ギルドマスター室にはルーク、ダグラス、シエルの三人が集まっていた。


「よく動いたな、あいつら。初日からあそこまで喰らいつくとは」


 ダグラスが、酒瓶を軽く振って呟く。


「そうですね。……それだけ、強くなりたい――誰もが、その想いを背負ってるんだと思います」


 ルークは椅子にもたれながら窓の外を見上げる。日が沈み暗くなった空に、一番星が瞬いていた。


「そういえばルーク様、ギルドメンバーの子から気になる報告が上がってます」


 シエルが静かに言い、ルークは目を細める。


「……聞こう」


「ギルドの子が言うには、“得体の知れない魔術師風の男”が近くのダンジョンで何度か目撃されているみたいです。何処かのギルドに所属している感じでもなく、不審に思ったそうで」


 瞬間、ルークの瞳が鋭く光る。


(まさか――ここにも、“灰の焔”が?)


 不穏な気配が水面下で再び動き出そうとしていた――。

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