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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
43/53

第43話「それぞれの覚悟と、旅立ちの予感」

「この夏休み、皆で“強化合宿”をしないか?」


 不意に告げられた提案に、皆が一瞬だけ固まる。だが、次の瞬間――


「合宿!? 泊まり込みで特訓ってことか!? それ、めっちゃ燃えるじゃん!」


 ガイが勢いよく前のめりになった。目を輝かせ、拳をぶんと振り上げる。


「私も、やるべきだと思う。……さすがに今日の結果には納得いかないし」


 ララが静かに頷く。悔しさを内に秘めたまま、どこか冷静な瞳でルークを見つめている。


「僕も賛成だ。全員で力を上げられるなら、それ以上の方法はないと思う!」


 メイジスは口元に微笑を浮かべながらも、その目は真剣そのものだった。


「わ、私も!」

 

 モニカが勢いよく手を挙げる。小柄な体に力を込めるように、背筋を伸ばした。

 

 ミレーナは皆の様子を眺めつつ、やがて静かに笑う。


「当然、参加するわ。……このままじゃ終われないもの」


 彼女の声は静かだが、その言葉の端々に揺るがぬ意思が感じられた。


 その中で、ひとりだけ複雑な表情を浮かべていたのは――リオだった。

 

 彼はゆっくりと手を挙げる。どこか申し訳なさそうな仕草だった。


「……すまない。私は、今回参加できない」


「えっ……?」

 

 モニカが振り返る。ガイも驚いたように目を見開いた。


 リオは少し困ったように、けれど目だけは真っすぐにルークを見据えて言葉を続けた。


「夏休みは実家に戻らないといけない。剣聖になるために指南をつけてくれる人がくるんだ。今度来る人は、父の戦友だったらしくて……“剣聖”の名を継ぐなら、ちゃんと学んでおけって言われてるんだ」


 申し訳なさそうな表情をしながら、更に言葉を繋ぐ。


「でも、模擬戦で痛感したよ。自分の甘さとか、判断の遅さとか――全部、自覚した。だから私は私で、できる限り鍛えるつもりだ。ちゃんと強くなって、合流する。……それが今の私にできることだと思う!」


 リオの口調に言い訳じみたものはなかった。ただ、自分を律する誠実さと、悔しさがあった。


 ガイは拳を握りしめながら言う。


「そっか……なら、こっちも手を抜けねぇな。お前が戻ってきたとき、ビビらせてやるくらい強くなってやるよ」


「そうだね。帰ってきたとき、全員が見違えるほど成長してたら――それって、最高じゃん!」


 ララが頷き、メイジスも満足そうに目を細める。


「僕たち全員がそれぞれの場所で努力して、それを“ひとつ”にできたら、きっと勝てる!」


「うん! 私も……頑張る!」


 モニカの声に、リオは小さく笑ってうなずいた。


 そんな中、ガイがふと思い出したようにルークへ問いかけた。


「で、合宿って……どこでやるんだ? 寮じゃスペース足りないし、泊まり込みってなると、結構大変だと思うけど?」


 皆の視線がルークに集まる。ルークは軽く息を吐き、短く告げた。


「エルーラに行こうと思っている」


 その一言に、今度は本当に静寂が訪れた。

 

 鳥のさえずりさえ遠のいたかのような数秒間の後――


「……エルーラって、あの北東の小さな街よね? たしか、ギルド“金獅子”がある街だったような」


 ララが思い出すように呟く。


「ああ。俺が所属してるギルド《金獅子》の本拠地だ。施設の一部を使わせてもらえるよう、手配してもらう」


 ルークの言葉に、一同はさらにざわめいた。


「じゃあルークが所属してるギルドに行けるってことか……すげぇ!」


 ガイが興奮気味に声を上げる。


「お姉ちゃんが所属してるギルド……私も、気になる」


 モニカがぽつりとつぶやく。


「そうだな。他のメンバーにも、色々聞いてみるといい。サシャさんは人気だったから、きっといろんな話が聞けると思う」


 ルークの言葉に、モニカはぱっと顔を輝かせて頷いた。


「エルーラは首都から少し離れてるけど自然が多く、設備も整ってる。静かだけど、研ぎ澄まされた緊張感が漂ってる場所で、実戦的な雰囲気もあって訓練に集中しやすい場所だよ」


「え、えっと……その、ギルドの人って、怖くないのか……?」


 ガイが少し緊張気味に聞くと、ルークはくすっと笑った。


「まぁ、厳しい人は多い。けど、皆まっすぐだ。努力する者には、ちゃんと応えてくれる。安心していいさ」


「うわー、ちょっと楽しみになってきたな……でも怖いのも本音だぜ……」


「ふふ……ガイらしいね」


 ララが肩をすくめながら笑うと、皆の緊張も少し和らいだ。


 そして、改めてルークが言う。


「今回、師匠――ギルド《金獅子》のギルドマスターは不在だけど、ギルドの環境自体は申し分ない。思う存分、鍛錬できる場所になるはずだ」


 その声には、確かな決意が込められていた。

 

 誰もがそれを感じ取ったのだろう。沈黙の後――


「よっしゃあ! 決まりだな!」


 ガイが勢いよく拳を振り上げた。


「……地獄を見る気しかしないけど、今のままじゃ勝てないしね」


 ララが呟き、他の皆もそれぞれの覚悟を胸に、うなずいた。

 

 こうして、ルークたちの“強化合宿”は正式に始動する。

 

 燃えるような夏が、いま幕を開けようとしていた。

 目指すは、ただ一つ。


 ――学年別闘技大会、優勝。

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