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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第二章 学年別闘技大会
41/53

第41話「夏の予兆、希望の知らせ」

 ――天暦七三二年、七月下旬。


 真夏の陽射しが、学園の中庭を容赦なく照りつけていた。

 

 虫たちの鳴き声が耳を満たし、木陰を渡る風さえもどこか熱を帯びている。

 

 そんな暑さの中――ルークたちは、妙に浮かれた様子で木陰のベンチに腰かけていた。


「ついに来るぞ……! 夏休みッ!」


 そう叫んだのはガイだった。

 

 制服の上着を肩に引っかけ、汗をぬぐいながら、拳を空に突き上げている。


「夏休み、っていっても来週からだし、まだ気が早くない?」

 

 ララが涼しい顔で冷たいお茶を飲みながら冷ややかに告げる。


「それでも! 自由な時間は正義だ! 水着にビーチにスイカに……夜の肝試しとか、ララとのツーショットとか、ロマンスの予感が――」


「黙れ」


 ララの冷たい視線が飛び、ガイは椅子の背もたれに全力でのけぞった。


 ルークはそんな二人のやりとりを微笑ましく見ながらも、ややぼんやりと空を見上げていた。

 

 夏――休息と再出発。これまでの騒動がようやく一段落し、しばしの静寂が訪れる……そんな予感がしていた。


「ルークは夏休み、何する予定なの?」

 

 ララがふと問いかけてくる。


「……特には。のんびりして、適度にクエストこなして、後は本でも読むかな」


「うわっ、真面目すぎて逆に不安になるわ」

 

 ガイが茶化しながら肩をすくめる。


「けど、それも悪くないな。たまには平和ってやつを満喫しようぜ、なっ?」


「……ああ、そうだな」


 ルークは小さく頷いた――そのときだった。


 手元の通信端末が震え、小さな通知音が鳴った。


(……メイジス?)


 画面には懐かしい名が表示されている。ルークはタップし、メッセージを開いた。


『“世界樹の実り”の入手方法が判明した。一度、皆で集まれないか?』


 その一文を目にした瞬間、ルークの胸に冷たい緊張が走る。


「どうしたの、ルーク?」

 

 ララが表情を曇らせ、のぞき込むように尋ねる。


 ルークは数秒黙ってから、画面をララとガイに見せた。


「……サシャを、救えるかもしれない」


 モニカの姉であり、自分のギルドメンバーだったサシャ。

 

 長い間、呪われた状態で眠り続けている彼女を救うには、伝説級の希少素材が必要とされていた。


 “世界樹の実り”。

 

 それは、希望であり、奇跡であり、絶望の果てにあるかもしれない存在だった。


「……本当なの? その方法って」

 

 ララの声が、そっと響く。


「わかんねぇけど……でも、メイジスが言うなら、試す価値はあるだろ」

 

 ガイが真剣な顔で言う。

 

 ルークは、二人の顔を見て――わずかにうつむいた。


「……俺、本当に行っていいのかな。あれから何もできてないのに……」


「……何言ってるのよ」

 

 ララが、すぐに切り返す。


「ルークはちゃんと、ミレーナを助けたじゃない。今さら引け目感じる必要なんてないよ! それにこれはサシャさんだけじゃなくて、モニカちゃんも救うことになるんだし、行こうよ!」


「だな。俺たちで一緒に迎えに行こうぜ、奇跡ってやつを」

 

 ガイが明るく笑って拳を突き出す。

 

 ルークは小さく笑い、二人の拳に手を重ねた。


「……行こう」


 

 ◆

 


 その日の夕刻。

 学園近くのカフェの一室に、六人の仲間が再び集まっていた。


「……久しぶり」

 

 モニカが照れたように手を振る。隣には、双剣使いのリオの姿もある。


「来てくれたか! 元気そうでなによりだ!」

 

 メイジスは以前と変わらぬテンションで、安心したように頷いた。


「みんな、揃ったな」


 ララ、ガイ、ルーク。互いに顔を見合わせ、自然と微笑みが浮かぶ。


 以前のような雰囲気が戻った、そんな予感があった。


「さて――本題に入ろうか」


 メイジスがそう口を開いた瞬間、場の空気が静まり返る。


「“世界樹の実り”の入手方法が見つかった。……方法はシンプルだが、かなり難しいぞ」


 その言葉に、ルークの喉がごくりと鳴った。


 ――その方法とは、一体……?

 次に語られるのは、希望か。それとも試練か――。

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