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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第一章 忍び寄る灰の気配
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第36話「手がかりは過去の影」

 ララはしばらく黙っていた。

 記憶をなぞるように、言葉を選びながら口を開く。


「……昔、小さい頃に、変わった術式の本を読んだことがあるの。魔素を意図的に集めて、魔物を強化・進化させる内容だった」


 ルークは目を細める。


「強化や進化って……魔物を改造するための術ってことか?」


「うん、たぶん。でも、重要なのはその“仕組み”。魔素を一点に集中させるなら、理屈として“拡散”もできるかもしれない。応用すれば、ミレーナちゃんにとっても救いになるかもって」


 ララの言葉には確信よりも、“賭けてみたい”という切実な思いがにじんでいた。


「その本……まだあるのか?」


「わからない。どこで見たかも覚えてないし、内容も断片的にしか覚えてない。でも……学園の大図書館なら、似たような文献が見つかるかもしれない」


 ルークは一度だけ、ミレーナの顔を見た。

 彼女の頬は冷たく、皮膚の黒斑(こくはん)は首元にまで及びはじめている。


 拳を握りしめ、意志を固める。

 

「……ガイを呼ぼう。三人で探す」


 その声には、確かな決意が宿っていた。

 ララは深く頷いた。


 

 ◆


 

 王立アストレア学園・大図書館。


 ここを訪れるのは二回目だ。

 前回とは違い、今回は明確な目的がある。かつては興味本位で訪れたこの場所に、今は救いを求めて足を踏み入れている――その重みを、ルークは嫌というほど感じていた。


「相変わらず、でけぇな……この本の山のどこに目的の一冊が眠ってんだか……」


 ガイが軽く息を吐く。

 

 ララは既に手順を決めていた。


「今回は、“魔素操作”“強制進化”“高次儀式魔術”あたりの分類を優先して探そ。似たような概念でもいい。断片的な理論でも何か繋がるかもしれない」


「了解っと……。ってか、前も思ったけど、ララってこういうとき頼れるよな」


「うるさい。集中して」


 ぴしゃりと言い返され、ガイは苦笑しつつ奥へと向かう。

 

 一見軽口を叩いているようでも、彼なりに張り詰めた空気を和らげようとしているのは明らかだった。


 ララは迷いなく、目的の分類棚へと歩を進めていく。


 ルークも一冊の古書を手に取り、頁をめくりはじめた。


(頼む……何か、手がかりを……)


 祈るような気持ちで、ページをめくる音が静かな空間に響く。


 

 ◆


 

 一日目――手がかりなし。

 二日目――類似の術式の断片をいくつか発見したが、決定的な記述には至らなかった。

 三日目――積み上げた資料の山の前で、三人の表情には疲労と焦燥が滲んでいた。


「……なぁ、さすがにちょっとヤバいかもな……」


 ガイが机に肘をつき、呻く。


「記録されてる術式のほとんどが途中で研究放棄されてる。肝心なところが抜け落ちてて、再現できない……」


 ララも思わず目元を押さえた。


「本当に、何も残ってないのかな……」


「……いや」


 ルークがぼそりと呟いた。


「諦めるのはまだ早い。何か見落としてるかもしれない。……もう少し、探してみよう」


 そう言った声には、わずかに熱が戻っていた。

 焦りはある。けれど、希望を手放すには早すぎる。


 それでも、時間だけは容赦なく過ぎていく。

 ミレーナの容態もまた、悪化の一途をたどっていた。


(間に合わなかったら――どうすればいい)


 ルークの指が止まる。ページの文字が、霞むように見えた。



 そのとき――


 静かな足音が、階段の方から聞こえてきた。


 ララが顔を上げると、中央の螺旋階段を上ってくる一人の人物が目に入った。

 金の装飾が施された白いローブ、白髪に茶色の瞳。ゆったりとした所作で古書を手に歩いてくる姿。


「……あれ、まさか……」


 呟くララに、ルークも視線を向ける。


「……ヴェルディ学園長……?」


 王立アストレア学園を束ねる、伝説的な魔術師。

 その姿が、目の前にあった。


「どうして、こんな……」


「学園長は、たまに大図書館で研究資料を探すって聞いたことがあるけど……まさか、こんなタイミングで……」


 ララはちらりとルークを見る。


「……ダメ元でも、声をかけてみよう。もしかしたら、あの人なら――なにか知ってるかもしれない」


 ルークは一瞬だけ言葉を失ったが、すぐに静かに頷いた。


「……ああ、行こう」


 三人は立ち上がり、ヴェルディの背中へと歩き出す。


 それは、偶然という名の運命。

 彼らの希望を、繋ぎとめるための一歩だった。

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