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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第一章 忍び寄る灰の気配
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第25話「剣が映す心、交わる視線」

「アストレア学園の裏の教育方針なんだよ」


 ハルナは穏やかな声で語り出した。


「ここでは、実力だけを良しとしていない。……僕が一年生の頃、学園長から言われた言葉がある。“力に固執すると力に溺れる。正しき力は、正しき知識と心を持たねばならぬ。――それすなわち初心にして究極の心得、心技体である”」


 静かに語られたその言葉は、ルークの胸に深く刻まれた。


(……確かに、そうだ)


 ルークの脳裏に、いくつかの顔がよぎった。


 入試で出会った白髪の男。

 かつて共に戦った仲間。

 リオの父、レグルス・ブラックリン――。


 そして、自分自身もまた、道を誤る可能性を持っていることを、ルークは自覚していた。


「……まぁ、でもルークくんは大丈夫だよ」


 ハルナはにっこりと微笑み、ルークの肩を叩いた。


「君の剣は、迷いこそあれど、とてもまっすぐだ。誰かを守ろうとする、優しい剣だよ」


「……ありがとうございます」


 不意に褒められ、ルークは思わず照れくさそうに頭を掻く。


「じゃ、頑張ってねー!」


 手を振って去っていくハルナの後ろ姿は、まさしく、頼れる先輩そのものだった。


(よし……気を引き締めていこう)


 ルークも立ち上がり、午後の授業に備えて体育館へ向かう。



 ◆


 

 授業開始直前。


 ルークは体操着に着替え、体育館の扉を開けた。


 すでに多くの生徒たちがストレッチをしたり談笑したりしている。

 

 その中に――見覚えのある顔を見つけた。


「あっ……!」


 お互い、同時に声を上げた。


(……ミレーナ)


 橙色のストレートヘアーに、鋭い赤い瞳。間違いない、今朝の魔法授業で絡んできたあの少女だ。


(これ、絶対めんどくさいことになるやつだ……)


 そっと視線を逸らすが、ミレーナは怒ったような顔でずかずかと近づいてくる。


(おいおい、勘弁してくれ……)


 ルークが内心で必死に祈ったそのとき、チャイムが鳴り、授業開始を告げた。


 整列が始まり、間一髪で接触を免れる。


(……助かった)


 心底ほっとしながら、列に加わる。


 やがて体育館の扉が開き、一人の中年男性がゆっくりと入ってきた。


「よぉし、集まってんな」


 ざっくばらんな口調で、ホワイトボードに何かを書き始める。


「俺はロレンス。この総合剣術の担当だ。……が、基本的に何も教えねぇ。進行は三年の生徒に任せてるから、そっちに従え」


 淡々と説明し、三つのルールを告げた。


一、死闘を禁ずる。


二、真剣の使用を禁ずる。


三、安全保障道具を必ず着用する。


「以上。質問は? ないな。よし、好きにやれ」


 言い終えると、ロレンスはステージに上がり、ゴロンと寝転がる。


 ざわつく一年生たち。だが、二年生、三年生は慣れた様子だった。


(……これがハルナ先輩が言ってたやつか)


 ルークも驚きはしなかった。


 前に出た三年生――紫髪オールバックの大柄な男が、教壇代わりに立つ。


「俺はセモル。教師代理を務める三年生で、ランキングは7位。異論ある奴いるか?」


 ピリッと空気が引き締まる。


「すげぇ……ナンバーズだ!」

「直接指導ってマジか!」


 歓声が上がる。


 シングルナンバーズ――ランキング一桁のトップ生徒たち。彼らは教師に近い権限すら持ち、特別な存在とされていた。


「異論なしか。なら進める。今日は試合形式で実力を測る。まずは同学年でペアを組め」


 その指示が飛ぶと、あちこちで生徒たちが友人同士でペアを組み始め。


 そして――


「ルーク!  私と組みなさい!」


「……あー、やっぱり」


 背後から飛んできた声に、ルークは頭を抱えた。


 振り向けば、案の定ミレーナが仁王立ちしていた。


「なにお前、俺のこと好きなの?」

 

「はぁ? どう考えても私が貴方を好きなわけないでしょ!」


 顔を真っ赤にして怒鳴るミレーナ。


(……めんどくせぇ……)


 周囲を見渡すが、もう誰も空いていない。

 諦めて、ミレーナとペアを組むことにした。


 セモルが安全用のネックレスを配りながら指示を飛ばす。


「必ず装着しろ! そんで、一定間隔を取ったら試合開始だ!」


 ルークとミレーナは互いにネックレスを装着し、距離を取って構えた。


 互いの視線が、ピリリと火花を散らす。


(……なんでこんなことに)


 剣を握りながら、ルークは思った。


 だが、心は不思議と静かだった。

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