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導星のレガシー 〜世界を導く最後の継承者〜  作者: 烏羽 楓
第一章 忍び寄る灰の気配
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第12話「強者の証明、弱者の決意」

「一位だよ? ブッチぎりで」


 ピースサインを浮かべながらそう言い残し、エイネシアはその場を後にして浴室へと向かった。


「えっ……」


 ルークは驚きのあまり、言葉を失う。

 

 王立アストレア学園を首席で卒業。それが意味するのは――国内でも指折りの実力者という証だ。

 

 首席卒業者は、Sランクで学園を去るという噂すらある。


 アストレア国内にSランクの認定を受けた者は、百人に満たない。

 

 つまり国全体で見ても、精鋭中の精鋭ということだ。ルークはあらためてエイネシアの凄さを実感しながら、やがて訪れる修行と学園生活を思い描いた。


 全国から集まる猛者の卵たち。

 

 彼らと切磋琢磨しながら、共に上を目指す自分の姿。

 

 その未来を想像すると、自然と拳に力がこもる。それは喜びと、強くなりたいという決意の表れだった。


 とはいえ、実際に修行が始まったらどうなるのか。まだ明確なイメージは湧いてこない。

 

 クエストへの同行は当然としても、戦闘に参加するとなれば簡単な話ではない。むしろ足手まといになる恐れさえある。場合によっては、自身の命すら危うい。それはもはや修行とは呼べない――戦場だ。

 

 ルークはわくわくする気持ちと同時に、不安も抱いていた。


「また後で、詳しく聞いてみないとな……」


 しばらくして、浴室から出てきたエイネシアと入れ替わるように、ルークは浴室へと向かった。


(にしても、思ったよりバランスよく鍛えられてたなぁ。いい体に仕上がってたし)


 髪をタオルで拭きながら、エイネシアは先ほどの手合わせを思い返していた。

 

 彼女が放った一撃は、一般兵なら衝撃に耐えられず、数十メートルは吹き飛ぶ威力だった。


 それを、まだ十歳にも満たない少年がたった五メートル滑っただけで踏みとどまった。その事実が、彼女の育成欲をさらにかき立てる。


(全体的な筋力も申し分ない。体幹もバランス感覚も、力の使い方も悪くない。持久力もたぶん問題ないだろう。となると……必要なのは、実戦経験を積ませることか。でも、その前に一つ確認しておくべきことがあるな)


 真剣な表情で思考を巡らせていると、ルークが浴室から出てきた。


「あ、エイネシアさん。今後の修行について、詳しく聞きたいなって思ってたんですけど」


「ああ、ちょうど僕もその話をしようと思っていたところだよ」


 二人は向かい合って席に着く。

 

 するとエイネシアは右手を前に出し、少しだけ魔力を込めた。すると空間に裂け目が現れ、彼女はそこに手を突っ込む。


(すごい……マジックボックスまで使えるんだ)


 空間魔法の中でも上位に位置する「マジックボックス」。

 

 使い手が極めて少ないうえ、魔力を用いて発動しているにも関わらず、なぜか魔力を消費しない――極めて特殊な魔法だ。


 一部の学者は、術式の発動に使った魔力と同等のエネルギーが何らかの形で術者に還元されているのではないかと推測している。

 

 しかし、その仕組みは未だ解明されておらず、いつの時代も学者たちの議論の的となっている。


「あ、いたいた。こいつだ」


 エイネシアが取り出したのは、紐に繋がれた一匹のコウモリ。だが、もちろんただのコウモリではない。それは“リトルバットデビル”と呼ばれる、れっきとした魔物だ。


 単体のランクはEだが、凶暴性と魔法を阻害する超音波により、複数体になると危険度はCランクに跳ね上がる。


 空を飛ぶ魔物は、地上戦を得意とする戦士にとって天敵。

 

 通常は魔法による対処が基本とされるが――その魔法を封じる術を持つ相手となれば、脅威でしかない。


「ちょっ! なんでそんなもの入れてるんですか! それ、魔物ですよ!?」


「うん、魔物なのは間違いないけどね。上位のダンジョンやクエストでは、あえて魔物の力を利用することもあるんだ。この子はね、魔法を封じる能力を応用して、トラップを無効化したり、麻痺や混乱系の魔法を相殺したりするのに役立つんだよ?」


「そんな使い方……想像もしてませんでした……」


 無理もない。学校では、魔物を活用するような実践的な知識は教えてくれない。


 現場で数多くの経験を積んだ者だからこそ得られる発想。

 

 最初こそ驚いたものの、ルークはその話を純粋な知識として吸収していった。

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