封印執行——監視者の裁きが下る時
ついにヴァルゼクトの記憶が動き出し、監視者が本格的に動き始める……!!
封印された真実、神々が最も恐れた存在——
そして、堕天使ルシェイドの“本当の目的”が明らかになりつつある。
さらに、シュエルが"とっておき"の能力を発動!?
彼女の小悪魔っぷりも全開で、ヴァルゼクトを振り回す!?
そして何より——
監視者が発する 「封印の執行」 の言葉。
これは、一体何を意味するのか?
世界が揺れ動く第8話、どうぞお楽しみください!!
目覚めた瞬間、俺はすべてを理解した。
封じられた力。
奪われた記憶。
そして——俺を恐れる神々の存在。
重くのしかかる空。
鼓膜を突き破るほどの沈黙。
世界が俺の覚醒を拒むかのように、空気は張り詰めていた。
(これが……俺の“真の力”か)
全身にみなぎる圧倒的なエネルギー。
まるで天地すら支配できるような感覚。
俺の存在そのものが、世界の理を揺るがそうとしている。
だが——
「……お前は、記憶を取り戻してしまったか」
その声が響いた瞬間、世界は静止した。
空気が凍りつき、まるで時間そのものが、ゆがんだかのような錯覚を覚える。
(この気配……まさか……)
俺の視界の先、黒い渦がゆっくりと形を成す。
やがて、その中心から姿を現したのは——
黒曜の鎧をまとい、黄金の装飾が施された華麗なる戦士。
——監視者
俺を監視し続けていた存在。
神々の意志を代行する、“最も厄介な敵”。
以前は気づかなかったが、今ははっきりとわかる。
あの鎧の奥に宿るのは、冷徹な意志を持つ者だ。
「お前が覚醒することは、許されない」
監視者は無機質な声で告げる。
だが、その奥には、わずかな焦りが見え隠れしていた。
俺は静かに口を開く。
「……久しぶりだな」
俺の言葉に、監視者は微動だにせず、ただ静かに俺を見つめていた。
その鎧の奥にある瞳が何を思っているのか、俺にはまだ読めない。
だが、わかることはひとつ——。
こいつは“敵”だ。
「記憶を取り戻し、力を解放したか」
低く響くその声には、どこか警戒心がにじんでいた。
「当然だろう?」
俺は皮肉げに笑う。
「俺を封じ、存在そのものを消そうとした神々。だが、俺はこうして目覚めた。ならば、次は何をすると思う?」
「——ならば、再び封印するまで」
監視者がゆっくりと手を上げた。
その瞬間—— 空間が揺らぎ、まるで世界そのものが軋むような音が響いた。雲は裂け、空の色が不吉な影を落とす。
黄金の魔法陣が監視者の背後に浮かび上がる。
天へと伸びる光の柱。
まるで世界そのものが俺を押しつぶそうとするかのような、強烈な圧力。
「お前は記憶を取り戻してしまった。我らは再び、お前を——封印せねばならん」
静かに、しかし確実にその言葉を告げる監視者。
「チッ……」
俺は歯を噛み締める。
(覚醒したばかりとはいえ、これは……まずい)
この空間全体が“封印術”によって支配されている。
奴が本気で封じにくれば、俺がどれだけ力を解放しようと、押さえ込まれる可能性がある。
「ヴァルちゃん、大丈夫〜?」
その時、ふわりと軽やかな声が響いた。
視線を横に向けると、翡翠色の小さな羽をひらひらさせながら、シュエルが空中でくるくると回っていた。
……相変わらず、こいつはこの状況を楽しんでやがる。
「ねえ、ねえヴァルちゃん、さっきの鎧の奴の言葉、聞いてた?」
「何が言いたい?」
「『再び封印せねばならん』ってさぁ、つまり……過去に一度やったことがあるってことじゃん?」
「……」
確かに、言われてみればそうだ。
それはつまり、俺がかつて監視者と戦ったことがある ということ。
「ねぇ、ヴァルちゃん。ほんとのほんとに何も思い出せないの?」
シュエルは軽く頬杖をつきながら、俺の顔をのぞき込む。
「私の予想が正しければ……あんたと、あの鎧の男って、実は結構深〜い関係だったりするんじゃない?」
「……は?あいつって“男”なのか?」
俺は思わず目を細める。
「ふふっ、まぁいっか。でもね、私は思うわけ。審判者なんかより、あの監視者の方がず〜っとヤバいんじゃないかって」
シュエルがクスクスと笑う。
(確かに……)
審判者は神々の法を執行する存在。
だが、監視者は違う。
「神々の意志を代行する存在」——それが監視者。
「貴様の覚醒は、この世界の均衡を崩す」
監視者は言葉を続ける。
「故に、ここで封じる。お前の意志など、関係ない。」
(やれやれ、こっちの事情なんてお構いなしってわけか)
「ちょっと待て」
低い声が響いた。
俺ではない——。
監視者が静かに視線を横へ向ける。
「光の理を統べる神よ、闇の深淵に堕ちし黒翼の者よ——ルシェイド。」
その名を呼ばれた瞬間、空気が変わった。
ルシェイドが、ニヤリと微笑んだ。
「俺か?」
「お前は何を求める」
監視者は淡々と問いかけた。
まるで——ルシェイドの全てを知っているかのような口ぶりで。
「……」
ルシェイドは一瞬だけ沈黙した。
「フッ……なるほどな」
「その唇が、ゆっくりと持ち上がり、笑みを浮かべたように見えた。」
「俺の欲するものを、お前が理解しているなら……」
監視者は、静かにうなずいた。
「お前が欲するものは、そなたに」
その言葉に、ルシェイドの瞳が輝いた。
「……ッ!」
俺は、一気に警戒を強めた。
(このやり取り……ルシェイド、お前……まさか)
監視者とルシェイドが——魔法の契約「ゼクト」を交わそうとしている。
「やばっ、ヴァルちゃん、これって……」
シュエルの声が、不吉な響きを帯びる。
「やばい……どころじゃないな」
俺は拳を握りしめ、素早く魔力を練り上げた。
空間が揺らぎ、俺の周囲に淡い光の輪が生まれる。それは瞬く間に形を変え、複雑な紋様を描く魔法陣となった。
——防御結界、展開。
ルシェイドが監視者と契約を交わすということは——
次の瞬間。
——ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
世界が揺れた。
そして、ルシェイドの周囲に“黒い魔法陣”が広がる。
(マズい……ッ!!)
ルシェイドの “本当の力” が解放される——。
俺は、無意識に歯を食いしばった。
これは、想像以上にヤバいことになる——!!
ルシェイドの足元に広がる黒い魔法陣。
それはまるで大地そのものを飲み込む闇の淵。
——影の牢獄。
俺はすぐに身構えた。
(……まずい、これは……!!)
「ヴァルちゃん、これって……ヤバくない?」
シュエルの小さな声が耳元で囁く。
「あぁ……かなりな」
影の牢獄——対象の“存在”を影に閉じ込める呪縛魔法。
そして、ルシェイドの真の力。
普通の魔術ではない。
これは “神の法則”に干渉する領域 の技だ。
「来い、ヴァルゼクト」
ルシェイドが微笑む。
それは確信に満ちた笑みだった。
(……やるしかねぇ)
俺は魔力を込め、すぐに構えた…。
だが——
「遅い」
ルシェイドの言葉が終わるよりも先に——
俺の足元から黒い影が這い上がってきた。
——ガシィッ!!
「……っ!!?」
足が、動かない。
影が俺の足元を縛りつけていた。
「これは……ッ!」
とっさに振り払おうとする。
だが、その影は俺の動きを封じるように、さらに絡みついてくる。
「ふふっ……無駄だ」
ルシェイドが優雅に歩み寄る。
「お前は今、“俺の世界”に足を踏み入れたんだ」
影がうねり、俺の全身にまとわりつく。
次第に、体が動かなくなっていく。
(くそっ……ッ!!)
全力で魔力を解放する。
だが、影はそれすらも吸収していくかのように消えていった。
「ヴァルちゃん、ピンチだねぇ〜?」
空中でくるくると回りながら、シュエルが俺を見下ろしていた。
その顔にはどこか楽しげな笑みが浮かんでいる。
「ねぇねぇ……ヴァルちゃん、本当に最強なの? これヤバくない?」
「……チッ……うるせぇ」
「助けてあげてもいいけど……どうしようかな〜?」
「……条件があるんだろ?」
「わかってるじゃん!」
シュエルはニコッと微笑んだ。
「ヴァルちゃんが覚醒した時に見たもの……それを見せてほしい」
「……俺が、覚醒した時の記憶?」
「うん! ヴァルちゃんが何者だったのか、それを私も知りたいんだよね〜」
シュエルは無邪気に微笑む。
だが、俺はその言葉に違和感を覚えた。
(シュエルは“知りたい”……? 何か知っているわけじゃないのか?)
監視者やルシェイドのように、俺の過去を知っているのではない?
だが、今は考えている暇はない。
俺は影に囚われ、まったく身動きが取れない状態だった。
「で、どうする?」
シュエルが翡翠色の瞳をキラキラと輝かせる。
「いいよ……見せてやる」
「わぁ〜い!」
嬉しそうにくるくる回るシュエル。
次の瞬間、彼女が指を鳴らした。
——ピタッ。
(……ん?)
俺は気づいた。
世界が止まった——
「時を……止めた?」
シュエルがニヤリと笑う。
「私、結構すごいんだよ?」
俺は言葉を失った。
シュエルは……ただの情報屋なんかじゃない。
(この妖精……何者だ?)
だが、今はそれを考える時じゃない。
俺の記憶が、シュエルに繋がれていく——
影の牢獄に囚われた俺は、己の過去を見せることになった。
「ヴァルちゃん……さぁ、見せて?」
シュエルの悪戯な声が、世界の狭間に響いた。
そして——
俺は、すべてを思い出す。
俺の意識が、深淵へと引きずり込まれる。
闇が渦巻き、光すら届かない虚無の中——そこに、俺の過去があった。
「ヴァルちゃん、ほら、しっかりして?」
どこか浮遊感のある感覚の中、シュエルの声が響く。
(……ここは……?)
足元には何もなく、ただ黒い霧がゆらゆらと漂っている。
だが、視界の奥に何かがある。いや——誰かがいる。
「お前は……誰だ?」
——俺自身がいた。
「え、待って。ヴァルちゃん、ヴァルちゃんと会話してるの?」
「……黙ってろ、シュエル」
彼女の呑気なツッコミを無視し、俺は目の前の存在をじっと見つめた。
黒い炎をまとった俺。
眼は黄金と深紅に輝き、その背には巨大な漆黒の翼が生えていた。
(これは……俺?)
だが、それは俺とは違う"何か"だった。
「思い出せ、ヴァルゼクト」
低く響く声。
「お前が“封じられた”本当の理由を」
次の瞬間——
視界が切り替わった。
燃え盛る大地、崩れ落ちる神殿、天を裂く閃光——
その中心にいたのは、俺。
いや、違う。
これは"記憶の中の俺"だ。
神々を屠り、世界の理そのものを覆そうとした存在。
「やべぇ……これはマジでヤバいやつ」
シュエルがぽつりと呟く。
「ヴァルちゃん、ちょっと……怖いかも」
「……俺は、何者だったんだ……?」
自問する俺に、記憶の中のヴァルゼクトが静かに告げる。
「お前は“神殺し”——"世界の均衡"を崩す存在だ」
世界の均衡。
それを守るために、神々は俺を封印した。
「だが、封印されたことで全てを忘れ、お前はただの村人Aになった」
「そんなバカな……」
だが、目の前の光景が、それが真実であることを物語っている。
神々の恐怖。
天の崩壊。
封じられた俺。
——その時、シュエルはふと気づいた。
「ねえ……ヴァルちゃん……」
彼女の声が少し震えていた。
俺の視線が、シュエルが見ている先へと向かう。
——そこには、"階段"があった。
黒い霧の中にぽっかりと浮かぶように、古びた石の階段がまっすぐ上へと続いている。
だが、その先には——
金色に輝く、重厚な扉。
どこか神聖でありながら、同時に禍々しい雰囲気を放っているその扉。
……いや、それだけじゃない。
シュエルはハッとした。
(——扉の向こうから……聞こえる……)
記憶の中のヴァルゼクトの声は、その扉の先から響いていたのだ。
「……ヴァルちゃん、これ……」
シュエルは、ゆっくりと後ずさった。
「この扉の向こう……“本当のあんた”がいるんじゃない?」
俺は答えられなかった。
だが、心臓が激しく脈打つのを感じる。
(——俺の“本当の姿”が、この扉の向こうに……?)
その時。
金色の扉が、ゆっくりと"開き始めた"。
ゴゴゴ……ッ!!
——何かが出てくる。
シュエルは息を呑み、俺の袖をギュッと掴んだ。
「やっぱり……これは……」
——これは、"開いてはいけない扉"なのでは?
その瞬間、視界が揺れ、記憶の世界が崩れ始めた。
「ヴァルちゃん、これを知ってどうするの?」
シュエルの声が遠く響く。
「……」
神々は俺を封じた。
それが何を意味するのか——
俺がこの世界に解き放たれた時、何が起こるのか——
(……知る必要がある)
「俺は、全てを思い出す」
その言葉を決意した瞬間——
——バチィッ!!!
雷鳴のような衝撃が走り、俺の意識は現実へと引き戻された。
「お帰り、ヴァルちゃん」
目を開けると、シュエルがニヤリと笑っていた。
翡翠色の羽を軽く揺らしながら、どこか楽しげな表情を浮かべている。
「で? どうだった? 自分の過去と向き合うってのはさ」
「……最悪だ」
「そりゃそうだよねー! だって、ヴァルちゃんって神々からしたら“バグ”みたいな存在だもんね!」
「……バグ?」
「そ。だって、神ですらお手上げで封印するしかなかったんでしょ? そういうの、この世界じゃバグって言うんだよ?」
シュエルはクスクスと笑いながら、俺の周りをふわふわと飛び回る。
「でもねぇ、ヴァルちゃん。ここからが面白いんじゃない?」
「……」
この力をどうするのか——
その答えは、まだ出ていない。
だが、一つだけ確かなことがある。
俺を恐れた神々が、再び俺を封じようとするなら——
俺は、それを打ち砕くまでだ。
「ルシェイド、お前は俺をどうするつもりだ?」
目の前で悠然と構えていた堕天使が、ふっと笑った。
「さてな」
その黄金と深紅の瞳が、妖しく輝く。
そして——
「——契約は完了した」
監視者の冷たい声が響いた。
「ヴァルゼクト、お前の覚醒は……まだ不完全」
「……何?」
「ルシェイドよ、お前に封印の執行を許可する」
その瞬間、俺の脳内に警鐘が鳴り響いた。
(——封印!?)
「ちょっと! これってヤバくない!?」
シュエルが焦ったように叫ぶ。
「ねえ、ヴァルちゃん……これ、マジでヤバいって!!!」
そして——
世界が、俺を再び閉じ込めようとしていた。
俺は、神殺しの存在——。
そう“記憶”が語っていた。
だが、本当にそれが俺なのか?
いや、そうだと信じるしかない。
すでに神々は俺を排除しようと動き始めている。
そして、ルシェイド。
あいつの目的は何なのか。
監視者と交わした契約、そして「封印の執行」——
その言葉の意味を、俺はまだ完全には理解していない。
だが、確かに分かったことが一つある。
シュエルは、ただの妖精ではない。
彼女は俺の記憶の中に入り、見た。
俺ですら恐怖を感じた過去を、平然と覗き込み、悪戯っぽく笑った。
そして、言葉にする——「ヴァルちゃん、面白くなってきたねぇ」と。
この先、俺はどうなるのか。
監視者は、俺のことを知っていた。
それはつまり——
……いや、考えすぎても仕方がない。
どの道、進むしかないんだからな。
次回、俺はさらに“深い部分”へと踏み込むことになる。
もしこの物語が気になったなら、ブックマークしておいてくれ。
俺の記憶の真相を、一緒に見届ける覚悟があるならな——。