審判の刻——禁忌の力が試される
崩壊した神殿の中、俺はすべてを思い出した。
ただの村人Aとして過ごしていた日々は、偽りの平穏に過ぎなかった。
俺は神々に封じられた存在——
そして、彼らが最も恐れた「禁忌」そのものだった。
だが、それを思い出した途端、世界は静寂を許さなかった。
俺を消し去ろうとする神々の意志は、新たな刺客を送り込んでくる。
黄金の鎧を纏い、冷徹な審判を下す存在。
「七柱の審判者」
彼らの目的は、俺の完全抹消。
神の理に逆らう俺に逃げ場はない——いや、俺が逃げる理由もない。
「ここからが本番だ」
審判者との激突が、いよいよ始まる。
俺は再び、己の宿命と向き合うことを決意した。
破滅か、創造か——この世界の未来を決めるのは俺だ。
これが、すべての始まりだった。
崩れた神殿の中、砕けた柱の残骸が四方に転がる。
焼け焦げた大理石の床に、黒い煙が立ち込める。
剣戟の余韻がまだ響く中、俺は 神々が戦の炎で染め上げたかのような深紅の空 を見上げた。
「……終わったのか?」
目の前に広がるのは、戦いの傷跡が生々しく刻まれた光景だった。
崩れ落ちた神殿の残骸が無造作に積み重なり、砕けた石の隙間から黒煙が立ち昇る。
瓦礫の間には、戦いの余熱が残っているのか、微かに赤く光る砕けた岩の欠片が散らばっていた。かつては精緻な彫刻と黄金の装飾が施されていた天井は、今や無残に崩れ去り、その名残すら残っていない。
俺の息が白く濁る。闘いの余熱が未だ大地に残り、焦げた岩の匂いが鼻を突く。
ふと、指先を見下ろすと、かすかに震えていることに気づいた。疲労か、それとも——。
拳を固く握りしめ、震える息をゆっくりと吐き出す。心の奥底に渦巻く感情を、静かに押さえ込むように。
「……違うな」
……これは単なる疲労などではない。
俺の奥底に封じられていたもの――それも、天地を揺るがすほどの計り知れぬ力。
それが今、目を覚まそうとしている。
ゆっくりと周囲を見渡す。崩れ落ちた柱の隙間に、赤黒い光がちらついていた。
かすかに焦げた硫黄の匂いが鼻を刺す。
ゴゴゴゴ……ッ
微かな振動が足元から伝わる。最初はわずかな揺れだったが、次第に大地そのものが不穏なうめきを上げているように感じた。
地面のひび割れがじわりと広がり、まるで何かが地下でうごめいているかのようだった。
神殿の中央に倒れた巨大な石碑。
その表面に刻まれた古代文字がかすかに光を帯び、まるで何かを訴えているかのように揺らめいていた。
俺は無意識のうちにその文字へと手を伸ばした。
「……これは?」
指先が触れた瞬間、脳裏に焼きつくような衝撃が走る。
——忘れたはずの記憶。
雷鳴のごとく響く神々の声が、脳裏に焼き付くように蘇る。
——封印の儀式。
神々が幾重にも張り巡らせた結界、その中心に囚われた俺。
黄金の光が収束し、呪詛のような言葉が響き渡る。
「これが最後だ。お前の力を、永遠に葬る」
黒い鎖が身体を締めつけ、空間すらゆがめるほどの強大な封印術が俺を飲み込もうとしていた。
何もできなかった。
否——できないようにされた。
身動き一つ取れぬまま、ただ神々の宣告を聞いていることしかできなかった。
俺の力を封じること。
それこそが、彼らが守ろうとした“理”だった。
——その記憶が、一瞬にして脳裏を駆け巡る。
「……ああ、そうか」
視界の端が揺らぐ。
空間がゆがみ、世界が二重に重なり合う。
今、目の前にある現実と、はるか過去に封じられた記憶が交錯する。
まるで、閉じ込められていた扉が今開かれ、押し寄せる波のように封じられた記憶が一気に流れ込んでくる。
雷鳴のごとく響く神々の声が、空間全体を震わせる。
その瞬間、世界の理が崩れ去り、俺の目の前に"真実"が開かれた。
神々が立ち並ぶ光の円陣。
天をも貫くほどの巨大な神殿の奥深く、俺は封印の中心に縛りつけられていた。
漆黒の鎖が絡みつき、魂の奥まで貫くような呪術が施されていた。
それでも、俺の中に眠る力はまだ生きていた。
世界を震わせるほどの力が、俺の中で脈打っていた。
「……そうだったのか」
思考が研ぎ澄まされる。
まるで曇っていた鏡が拭われ、そこに映る自分の正体がはっきりと浮かび上がるように——
その瞬間、俺の中で閉ざされていた記憶の鎖が、すべて断ち切られた。
俺は、神々に恐れられた存在だった。
彼らは俺の力を封じ、世界の理から俺を消そうとした。
だが、俺の力は消えていなかった。
長い時を経てもなお、封印を砕く力が確かに俺の中で息づいていた。
目を開く。
視界がはっきりと現実に戻る。
だが、もう以前の俺とは違う。
俺の奥底にあるもの、それはただの力ではない。
理すら塗り替える絶対的な力。
「——思い出したぞ」
この瞬間、俺は完全に覚醒する。
神々が何を恐れ、なぜ俺を封じたのか。
その理由が、今ならはっきりとわかる。
そして、彼らが恐れた通りのことが、今ここで起きる。
俺は、ただの村人Aなんかじゃなかった。
神々に恐れられ、封じられた存在。
「フッ……そういうことか」
俺は小さく笑う。
思い出した今、この世界はもう以前のままではいられない。
神々よ。
お前たちは俺の存在を消そうとした。
だが、俺は戻ってきた。
そして今度は——
俺が裁く番だ。
「……そういうことか」
俺は目を細め、立ち上がった。今や俺の中に確信があった。この場所、この力、そして今目の前にある崩壊した世界——すべてが、俺を待っていた。
戦いは、まだ終わらない。
——パキッ。
立ち尽くす俺の視界の隅で、小さな光が瞬いた。
小石が転がる音がする。視線を向けると、崩れかけた石柱の陰で何かが蠢いた。
静寂を切り裂くように、鋭い気配が走る。
「……誰だ?」
緊張が一瞬にして張り詰める。
俺はゆっくりと足を踏み出し、瓦礫の隙間を覗き込んだ。その先には——。
「……まだ、終わっていないようだな」
闇の中から、黄金の光がじわりとにじみ出した。
戦いの終焉は、次の幕開けにすぎなかった。
バキィィンッ!!
突如、空気が弾けるような音とともに、黄金の光が一気に膨れ上がる。
「……何だ?」
俺の足元が震え、神殿の崩れた床に新たな亀裂が走る。
そして、瓦礫の向こうから、一歩ずつ何者かが歩み出る。
「貴様の存在は許されぬ」
鋭い声が空間を満たした。
黄金の鎧をまとった影がゆっくりと姿を現す。
その顔には人間らしさはなく、ただ冷たい神の意志だけが宿っていた。
「七柱の審判者……か」
俺の記憶の奥底にある名が、不意に口をついて出た。
七柱の審判者。
神々の意志を直接受け、世界の理を守護する者たち。
彼らが動いたということは、つまり——。
「神々が本気を出したってことか?」
審判者の一人が、黄金の剣を掲げる。
その刃は俺に向けられ、まるでこの世界そのものが俺を拒絶しているかのような圧倒的な威圧感があった。
風が止まり、空気が張り詰める。
俺は自然と拳を握りしめた。
「なら……受けて立つまでだ」
轟音が響く。
次の瞬間、審判者の一人が猛スピードで接近する。その動きはまるで神速。
「遅い」
黄金の剣がうねりを上げ、俺の首元を狙って振り下ろされる。
ガキィィンッ!!
俺は反射的に腕を上げ、剣の一撃を受け止めた。
しかし、その衝撃は想像を超えていた。剣が俺の骨の奥まで響くほどの重圧を持っていた。
「ほう……生身で受け止めるか」
審判者が冷淡に言う。
俺は力を込め、剣を弾き返した。だが、次の瞬間、もう一体の審判者が上空から槍を振り下ろす。
「くっ……!」
刃先が頬をかすめる寸前、俺は横へ跳ねるように飛びのいた。
空気を裂く鋭い音とともに、槍が地面を貫く。。
しかし、その一撃が地面をえぐり、神殿の床が砕け散った。
「神の理に逆らう者よ……貴様に逃げ場はない」
審判者たちは俺を囲み、じわじわと距離を詰める。
だが、俺は笑った。
「逃げる? 馬鹿か」
俺はゆっくりと拳を握る。
ドクン……ドクン……ドクン……
俺の中で、封印されていた何かが目を覚ます。
黒いオーラが噴き出し、空気が一瞬にして震えた。
「ここからが本番だ」
——審判者たちの顔に、初めて恐怖が浮かんだ。
俺は思い出した。
何もかもを、すべてを——
神々に封じられ、世界の理から消されそうになった存在。
だが、こうして今、俺はここにいる。
そして、奴らは俺を完全に消し去るために「審判者」を差し向けてきた。
本気で俺を潰すつもりらしい。
けどな、そう簡単に終わると思うなよ。
俺はもうただの村人Aなんかじゃない。
神々の手で消し去られるどころか、逆に奴らを裁く側に回るんだからな。
次回、神々の審判が本格的に動き出す。
俺と審判者、どちらが理を支配するのか——見届けろ。
この戦いが気になるなら、ブクマしておけ。
応援が増えれば、この物語がさらに広がるかもしれない。
そして、もしコミカライズ化されたら——その瞬間を、一緒に見届けてくれ。
次も見逃すなよ。