神を断ち、命を結ぶ剣
物語は、ひとつの終焉と、ふたつの命の選択へ。
失われた記憶が結び直されるとき、
ルシェイドは己の“核”を知ることになる。
そして、狂気と哀しみを孕んだ存在――クロエニクスが、
神々の裁きに牙を剥く。
その未来は、滅びか、再生か。
命をめぐる戦いが、今、ひとつの節目を迎えます。
この物語がどこへ向かうのか、
ぜひ最後まで見届けてください。
──やっぱり。
あの時、記憶の中で見た小さな妖精は……シュエルだった。
その確信は、胸の奥で静かに形を持ち始めていた。
「“名”を与えたのは……君だったんだな」
ルシェイドの中で、失われていた記憶の断片が――静かに、けれど確かに、繋がり始める。
だが、それとほぼ同じ時。
遥か神界の“封印域”。
静寂に満ちた神殿の奥底――
“神を喰らう器”と化したクロエニクスが、ミゼリアの姿を模し、神々の前に姿を現していた。
喰らわれた神々の“声”――傲慢と欺瞞に満ちた断末魔が、耳障りな多重音声として漏れ続ける。
「力を与えたはずだ」「我が裁きは正しい」
それはまるで、
「お前たちが、私をこう創ったんだろう?」と、訴えるかのように。
「ヒィィィ……ヒヒ……」
「……カミ、タノシ……アソボ……」
「キモーイ……?」
その姿は愉快に踊る影。だが、誰よりも哀しい存在だった。
「ミンナ……カミ……ダカラ、コロス」
ノクシアが映し出す映像――そこには、クロエニクスに蹂躙される神殿の光景があった。
そして、その中に映る一人の女神。
「……エルミナ」
ルシェイドの目が、かすかに揺れた。
それに呼応するように、クロエニクスの姿が変容する。
エルミナの姿を模した、哀しき模倣。
「気持ち悪いのよ、あんた。私になんてなれると思ってるの?」
「利用価値がないから、私はあなたを封印したのよ」
ルシェイドは、黙っていた。
だが心の奥では、記憶の断片が痛みと共に流れ込んでいた。
クロエニクスが、かつて誰よりも純粋な少女だったことを――
そのすべてが、神々の“裁き”によって歪められてしまったことを。
(エルミナ……なぜお前は、そこまでして“あいつ”を…..)
そして――未来映像が、静かに切り替わる。
ノクシアの瞳に淡い光が宿り、その視界の奥に――“裂け目”が走った。
聖域の空が割れ、天の帳が引き裂かれていく。
白銀の髪と紅き核。
その中心で振り下ろされるは、神をも断つ聖剣。
咆哮と共に黒き翼が舞い上がり、神殿が崩落していく。
祈りも、叫びも、もう――届かない。
滅びの光に包まれた世界の中で、
ただ一人、ヴァルゼクトが静かに剣を構えていた。
その傍らには、妖精王シュエル。
彼の背を守るように、黒龍が天を焦がす。
雷鳴のような怒りが空を裂き、炎が神々を呑み込んでいく――
そしてその時。
崩れゆく神殿の空に、2つの光がふわりと浮かんだ。
それは、滅びを拒むように、天を舞い踊る。
赤と白の煌めきが、風に乗って――重なり、ほどけ、また寄り添う。
その光の粒は、まるで“新たな命”の胎動のようだった。
ノクシアが息をのむ。
「……これが、定められた終焉……」
そう呟いて、そっと瞳を閉じた。
その声には、哀しみと……祈りにも似た願いが宿っていた。
未来は、確かに滅びへと向かっていた。
核を共有した者たちの、悲しき終わり。
だが――
映像の奥で、ひとり静かに見つめていた者がいた。
妖精王・シュエル。
その小さな瞳が、涙に濡れることはなかった。
けれど、確かに“覚悟”の光を宿していた。
「……まだ、間に合います」
「私が――その“願い”を、つなぎます」
その瞬間。
2つの光は天を焦がす炎と交差し、
一筋の軌跡となって、空へと放たれた。
まるで、“命”が新たな姿で芽吹こうとしているかのように。
――そして、未来は書き換えられる。
祈りが届く限り。
名前を呼ぶ声が絶えない限り。
――そして、風が静かに吹いた。
命の名を運ぶように。
……そして、物語は“命を結ぶ旅”へと続いていく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第35話は、一つの章の締めくくりとして、
“滅び”と“希望”、そして“命の継承”をテーマに描きました。
クロエニクスの正体と哀しみ、
ルシェイドの記憶と想い、
そしてシュエルが託した願い。
すべては、次の“命を結ぶ章”へと繋がっていきます。
次回からは新章に突入。
新たな旅立ちと、もう一つの“目覚め”が始まります。
また次のページでお会いしましょう。