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神殿に集う影──告げられた真実と、目覚めし咆哮

神々に封じられた“災厄”が目覚める。


かつて少女だったミゼリアの姿を模した、異形の存在――クロエニクス。

神の命に従う“フリ”をしながら、その本質は、神々すら恐れる意思と怒り。


神殿に集う神々、揺れる仲間たち、そしてルシェイドの中に芽生える“疼き”。

すべてが今、交差し始める。


静かに進む“終焉”の足音。

その裏で、龍王エルドリクスの目が開かれる――。


「……カミ……どこだ……

 ワタシをとじこめた……あの場所に……帰る」


 


「……ググ……グゥ……」


 


濁った声が、

空間のひび割れから

ぬるりと、(にじ)み出てきた。


 


それはまるで――

“何か”が喉奥で、

怒りを反芻(はんすう)しているような音だった。




“それ”は、かつて白いドレスを着ていた

少女――ミゼリアの姿を模していた。



だがそこにあったのは、彼女の“形”だけ。

中身はまるで違う。あまりにも“異質”だった。


 


地を()うような足音。

ぬめる感情の気配が、空気を(にご)らせる。


何より、その声には――

明確な“意思”と“怒り”が宿っていた。


 


クロエニクス。


それは神々がかつて創り、

そして恐れ、封じた“災厄”。


 


今、(かみ)(みこと)に従う“フリ”をして――

ゆっくりと、神々の座へと歩み出していた。



その足取りは重く、ねっとりと地を這いながら、

まるで“復讐”という名の意志に引かれるように。


 


一方その頃――

神々の神殿では、異変に気づいた気配が広がっていた。


天上の回廊を囲む七本の柱が、

微かに、しかし確かに(きし)み始める。


 


「……来るか。やはり、あれは目覚めたな」


 


神の一柱が低く呟く。

声には焦りではなく、覚悟に近い諦念(ていねん)が滲んでいた。


 


その言葉に、別の神が静かに続ける。


 


「……予測通りだ。あれは“鍵”を模した存在。

いずれ戻ってくると、最初からわかっていた」


「だが、あれは“模倣”ではない。我らの――」


 


神が言いかけたその時だった。


 


――ズバァッ!!


 


空間が一閃(いっせん)した。


光も風も通さぬはずの神殿の壁が、

まるで紙のように裂かれる。


そして、現れたのは――


 


「……やぁ……“カミさま”たちィ……」


 


ミゼリアの姿をした“何か”が、

首を傾げながらにぃっと笑う。


赤黒い瞳の数々が、神々をじっと見つめた。


その声は甘く、乾いていて、どこか“(あわ)れみ”すら(はら)んでいた。



 

「ワタシを……

 あんな暗いとこに閉じ込めてくれて……ありがとねぇ」



――その瞬間、神殿の空気が凍りついた。


 


まるで感謝の言葉のように聞こえたそのセリフには、

一片の喜びもなかった。


ただ、ねっとりと絡みつくような怨嗟(えんさ)だけが、

空間をどす黒く染めていく。


 


「……黙れ」


 


神々の一柱が、低く怒気を帯びて言い放った。


クロエニクスは――まるで楽しんでいるかのように、首を傾げた。


 


「ねぇ……キミたちって、

 イノチをつくって……コレ……いらない。フウじル?」


 


ぶよと揺れる肉体から、

どこか人間の少女に似た手が生え――

天を指差す。


 


「……コワいんでしょォ? “カンジョウ”ってやつ。

だってサァ、好き勝手に動かれたら――

ねェ、アンタらの“オモチャ”じゃなくなっちゃうもんねェ?」


 


ネフィリアの瞳が、大きく揺れた。


 


(わたしも……“あの子”と同じように、喰われる……?)


 


足元から冷気が這い上がり、

身体はガクガクと震え出す。


 


神であるはずの自分が、

今はただの“恐怖に囚われた存在”でしかなかった。


 


黒いワンピースの裾を、

ネフィリアはぎゅっと握りしめる――

それが唯一、震えを堪える術のように。


 


その視線の先。

静かに、だが確かに赤黒い“目”の一つが――


 


神々を睨み返すように、その“目”はじわりと赤黒く染まっていく。



 

「おかしいなぁ。

 ワタシ……“命”だって、言われたことあるのに……」


 


――ズチャッ。


 


足元が割れ、粘液のような肉が地を這い始める。


その動きは、神殿を“喰らい尽くす”かのようだった。


 


「やめろ、クロエニクス……!」


 


神の一柱が杖を掲げ、

神気を込めた雷光が放たれる。


だがその光は、クロエニクスの体に触れることなく――

“歪み”の中へと吸い込まれた。


 


「……あれは、“器”じゃない……」


 


一柱の神が、怒りをこらえるように拳を強く握りしめた。


 


「“失敗作”だ。ルシェイドの能力の核を元に、

 我らが作った、神の汚点そのものだ……!」


 


その言葉に、世界のどこか――

ノクシアの魔法陣から、神殿を見つめていた者たちが、息をのんだ。


 


「ルシェイドの……核……?」


 


シュエルは静かにその言葉の意味を考えた。



その目が映すのは、怒りでも、(なげ)きでもない。

それは――命の(ことわり)に触れる者だけが知る、静かな絶望。



神々の言葉が意味するものを、シュエルはすぐに悟った。


「ルシェイドの命」が、ただの器として使われたという事実を。



そしてその命が、“あの異形”の核として踏みにじられたという現実を。




シュエルはその名を聞き、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

――命。

その言葉が、胸の奥で静かに響いていた。




――この先に待つ結末が、どれほど残酷なものであるのか。

妖精王の心に、決して拭えぬ影が差していた。



「……なんて、ことを……」



声にならぬ声が、喉の奥で砕け散る。


命は、こんなふうに使われていいものではない。

そう強く思うほどに、シュエルの中で湧き上がるのは

――神々への、静かな憤怒だった。



隣でノクシアは唇を噛み締め、視線を逸らす。


 


「……そうか。そうだったのか……!」


 


ルシェイドの瞳が揺れる。



彼は、己の中に生まれた“ざわめき”の正体を――

その瞬間、はっきりと理解してしまった。


 

(アイツは……オレの“能力”の……残響……?)


 


その気づきの直後。


クロエニクスの眼が、

神殿の闇の奥で、ゆらりと揺れた。


何かを探すように。

誰かを思い出すように。




神殿を映す魔法陣の前――

その瞬間、ルシェイドの胸に、鋭い“疼き”が突き上がる。


空間は違う。

直接、見られているわけではない。


それでも――感じた。


まるで“自分の内側”にある何かが、

クロエニクスと呼応したかのように。


(……来る)


彼の背を、薄い悪寒が這い上がった。 



魔法の映像の中、神殿の奥から――クロエニクスが、笑った。



――笑った。


 

その笑みは、あまりに人間的で、あまりに哀しかった。


 


「……ワタシねぇ。

 “おまえ”の中に、ずっといたんだよ」


 


その呟きは、ルシェイドにしか届かない“声”だった。


 


***


 


神殿の奥では、使徒たちが次々と崩れ落ちていた。


神々の直系にある強者でさえ、クロエニクスの前では抗うことができない。


まるで“自我”の存在しない兵士たちのように、

一瞬で“意思”ごと喰われていく。


 


「これが……神々の創りし怪物……!」


 


ヴァルゼクトが、映像の前で呟いた。


拳を握るその表情には、焦りではなく――“迷い”が浮かんでいる。


 


(こいつを……オレは……倒せるのか?)


 


隣でノクシアが静かにうつむく。



……言葉が見つからなかった。


それが――彼女の“答え”だった。


 


彼女の魔眼が映した未来には、

たった一つの、救いのない“結末”しか見えなかったのだから。


 

クロエニクスの囁きが、世界全体を――

静かに、そして確実に“恐怖”へと染めていく。




「ねぇ、“自由”って……

殺したくなるくらい……怖い?」


 


神々が、震えた。


それは恐怖ではない。怒りでもない。


彼らが()み、否定し、封じたはずのもの――

“自由”という名の理不尽。


その咆哮(ほうこう)が、自分たちの“理”を喰い尽くす未来を、

神々自身が――初めて、想像してしまったから。


 


空間が軋む。


天が、何かに“見下ろされて”いるようだった。


 


そして――


 


森の奥。


誰も近づくことを許されぬ、深緑の聖域で。


 


**終焉の龍王エルドリクス**が、

静かに、目を開けた。


 


その瞳に映るのは、まだ誰にも知られていない――

終わりの先にある“始まり”。


 


──すべては、「あの言葉」へと繋がっていく。


 


『あなたの力は、終わらせるためじゃない。

……始めるために在るのよ。』


 


シュエルが名付けた、あの少年の未来が。

今、静かに――そして確かに、動き始める。



――次回、語られるのは「命の理」。

絶望の淵に、ほんのわずかな光は届くのか。

今回もお読みいただき、ありがとうございます。


本話では、物語の深部に迫る真実が明らかになりました。

ルシェイドの“核”、クロエニクスの誕生、そして神々の“罪”。


物語は、いよいよ「命」と「理」の核心へ。


次回は、妖精王シュエルの視点で語られる“命の理”がテーマです。

残酷な現実の中で、わずかな希望が灯るのか――どうぞ、お楽しみに。


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