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黒き剣、約束を断つ

“神”とは、本当に正しい存在なのか。

愛を守るために命を賭けた黒龍。

そして、再び目の前に現れた“かつての少年”の面影を持つ者。


今回は、神々が恐れた破壊者・エルドリクスの正体と、

狂気に染まる“神の理”の一端を描きます。


封印とは、終わりではなく、始まりの選択。

神は、世界を守る存在だと思っていた。

だが、そこにいた“神々”は――

まるで、壊すことだけを目的とする“災厄”のようだった。


 


「エルドリクスは、均衡(きんこう)を壊す。放っておけば、再び“ゼロ”が目を覚ます」

「破壊と再生は相反するもの。我らが創り上げた理に従わぬ存在は、排除せねばならぬ」


その言葉を口にした神々の目に、慈悲(じひ)はなかった。

彼らは、“平和”を語りながら、炎を、剣を、呪いをもって攻めてきた。


 


妖精の森が、燃えていた。

山の風が、黒く濁っていた。


空に浮かぶ神々の軍勢――その先頭に立つ一人の男が、漆黒の剣を携えて降り立つ。

男の着地を見てその姿に、エルドリクスは凍りついた。


 


“ゼロ”――?


その男の顔には見覚えがあった。

いや、顔ではない。

その剣の持ち方、立ち方、魔力の波動……。


 


「……まさか、君が……」


だが、問いかけに答えは返らない。

男は感情のない瞳で、ただ神々の意志に従うように剣を振るった。


 


――シュウウッ……!


漆黒の剣が振り下ろされた瞬間、大地が裂け、妖精の結界が粉砕された。

妖精たちが次々と倒れていく中、エルドリクスはシュエルを(かば)い、前へと出た。


「彼を……止めなければ」


 


だが、心が追いつかない。

なぜ、“ゼロ”が神々の側に?

あの優しかった少年が、なぜ――?


 


エルドリクスが、大きなうなり声をあげた。森全体がその声に震える。

炎が空を包み、神の軍勢をなぎ払う。

だがそのたびに、黒き剣が炎を切り裂き、魔力の刃が空を貫いた。


 


シュエルは――息をのんだ。

驚き。疑念。いや、違う。もっと根の深い“予感”が胸を締めつける。



その男の背後から流れる、禍々しい魔力。

闇のように濁ったその色は、確かに見覚えがあった。

“ゼロ”――

心の奥に封じていた名が、瞬間、脳裏を走る。



そして、次の瞬間。

黒き剣が、空を裂いた。



その軌道。

その放たれ方。

シュエルは、目を見開いたまま、言葉を失った。



息をのんだまま、シュエルの手が震える。


「……まさか、あなたが――」



「ゼロ……なの?」


 

黒き剣が、闇を断つように閃いた。

その軌道は、まっすぐにシュエルを貫こうとしていた。



 

――ドンッ!!


その瞬間、エルドリクスが飛び出した。

己の体を楯にして、剣を受け止める。


刃は深く肉を裂き、エルドリクスは地に崩れ落ちる。


「……守って……」


 


その言葉に、シュエルの中で何かが壊れた。


 


妖精たちが祈りを捧げる。

風が集い、花が舞い、空が震えた。


大精霊の声が、シュエルの心に届く。


「選べ。王よ。お前は何を守る?」

 


「私は……エルドリクスを守りたい。

だけど、彼はもう……逃げられない。

なら、せめて――“封印”という形でも、彼を守る」


 


その言葉と同時に、光が弾けた。


妖精王の力が解放され、精霊の加護が全身を包む。

まばゆい花の光が舞い上がり、空間を断絶するように結界が生まれる。


 


エルドリクスの体が、その中へと包み込まれていく。

彼は朦朧(もうろう)とした意識の中、最後に目を開けて、シュエルを見つめた。


その目に宿った、静かな安堵。

その表情に、確かに“ありがとう”と書かれていた。


 


そして。


 


「……さようなら……いつか、あの夢の続きを――」


 


封印が完成した瞬間、

シュエルの背後に、あの禍々しい“黒い剣の気配”が、静かに立っていた。


妖精王としてもう、振り返る時間もなかった。

――だが確かに、その背後に剣を向けていたのは、他ならぬ“あなた”だった。

 


「……ゼロ……あなたでしょ?」




(……私は、その剣を忘れはしない)


黒龍エルドリクスに深い傷を負わせたその黒き剣を。


(その剣の軌道を、私は決して忘れない……!)



その言葉を残して、

シュエルの体は、光と共にこの世から消えた。


 


妖精王としての力の代償――

それは、存在そのものの再構築。


 


記憶も、名も、想いも何も持たず。

ただ“シュエル”という名前だけを残して、

どこか別の地に、“新たな妖精”として生を受けた。


無垢で、名ばかりの、新しいシュエル。


 


彼はまだ、自分が誰だったのかを知らない。


だが、その瞳の奥には――

忘れてしまったはずの“誰か”との約束が、

まだ胸のどこかで、微かに囁いていた。


 


──次回、再会と再生の物語が始まる。


第24話、お読みいただきありがとうございました。


壊すために生まれたのではなく、守るために消えた――

それが、妖精王シュエルの選んだ答えでした。


再び“ゼロ”と呼ばれた存在が姿を現し、

かつて交わした“あの約束”は、世界の裏側で静かに断ち切られていく。

けれど、これは終わりではありません。


封印の代償により、新たな命として生を受けたシュエル。


次回からは“記憶なき再会”が描かれていきます。

本作は【第13回ネット小説大賞】応募作品です。


もし少しでも心に響くものがありましたら、

ブックマーク・評価・感想などで応援くださると嬉しいです。

皆さまのひとつひとつの応援が、この物語をさらに先へと導いてくれます。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


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